優秀なのに昇格できなかった先輩の話

隣の部署に異動してきた後輩が挨拶回りをしていた。

「部は違いますが同じフロアなので。」と、ベルンのミルフィーユを全員に配っている。

とても腰が低く、それでいて朗らかで明るい感じの全員から好かれるタイプだな、と思った。

彼の所属先は特殊なスキル、専門性が必要とされる部署で、彼は関連する最上級の資格を保有していた。他に資格保有者はいない。

この専門部署のメンバー構成だが、課長が1人、ベテランの調査役が4人、来年昇格年次に該当する先輩が1人、事務スタッフが2名、そして今回異動してきた後輩という構成だ。

先輩も優秀と評判の人で、この領域に関してはエース級であり、悪評も全く聞かない人格者だった。

しかしここで暗雲が立ち込めた。異動してきた後輩が優秀すぎたのである。資格持ちだけあって、職務遂行スピードが桁外れであるという評判があがり、異動3ヶ月にしてこちらにもその声が届く程の影響力を持ち合わせていた。難解な仕事は彼に集中し、彼はモノともせずそれを捌き続けた。一方で先輩も決して腐ることなく、後輩と良好なリレーションを保ちながらミスなく仕事をしていたらしい。

昇格発表の日、そこに先輩の名前はなかった。誰もが驚きの声を上げた。その世代で上位10%付近の評価だった人がストレートで昇格できなかった。

理由は明白。同じ職務をしていた後輩の方が優秀。しかしその後輩は昇格年次に満たないため昇格されられない。昇格できないが最高評価を付けざるを得ないので、相対的に先輩の評価がガタ落ちし、人事評価上〝優秀な人材″から〝後輩より仕事が出来ない人材″に変わってしまったのである。

その後、間髪入れず異動が発令され、その先輩は異動になった。

何とも残酷な話だが実話である。昇格は半分以上が運であるということがよく分かる事例ではないだろうか。

尚、その先輩は異動先でも腐らずに結果を出したらしく、一年遅れでめでたく昇格した。

そして、後輩は会社を辞めた。

これが銀行の出世競争である。

我々は人事配属がもたらす残酷な運命に翻弄されながら、出口の見えないトンネルの中を懸命に前に進んでいるのだ。

サポートいただいた分は、全て記事執筆のために使わせていただきます。