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一人パッチン

 小学生、いや中学生の頃だっただろうか。私は暇を持て余していた。一緒に遊ぶ友達などほぼいなかったし、勉強などするはずも無かった私は何をして過ごしていたのだろう。
昔の記憶をたどってみると…

あ、思い出した。「パッチン」してたな、
一人で。

「パッチン」。
その呼び名は地域によって様々だろうが、「メンコ」という方が一般的だろう。昭和の駄菓子屋などで売られていた、厚紙で作られたカードで、二人以上の対戦式で各々自分のカードを投げ合い、相手のカードをひっくり返すと勝ちという昔ながらの遊び物だ。

当時流行っていたファミコンなどのゲームは持っていなかったので、平成の時代に昭和の遊びである「パッチン」をしていたのだ。それも一人で。

私は「ドラゴンボールZ」のカードを多数持っていた。それを五枚一組で複数のチームに分け、トーナメント形式で対戦していくのだ(一人で)。

「ピシッ」、「ピシッ」と一回ずつカードを投げ合い、どちらかのカードをひっくり返すまで、ただひたすらに戦った(一人で)。
腕を高く振り上げ、一心不乱に投げ続けるその姿は、さながら妖気を纏った刀鍛冶のようであったと後に兄は語っている。

投げ続けたカードは、角が傷付きボロボロになった。しかし数えきれない程の闘いを乗り越え鍛え上げられたカード達は、やがてそれぞれのカードがパワー重視型、スピード型、曲者型など個性を発揮しはじめていた。そして、ついに究極のカード戦士5枚が選出され、最強のパッチンチームが作り上げられた。私自身も、秘技『ひっくり返し』を修得するなど、パッチンの腕は格段に上がっていた。そして、私はこれほどの強さを備えたカードを作り出してしまった自分に、恐怖さえ感じつつあった。

「よし、今なら戦える…」

自信と恐怖が入り混じる中で私は、ふとあることに気付いた。

そっか、そもそも戦う相手 いないじゃないか…

暇を持て余した少年が積み重ねた孤独な闘いの日々は、その瞬間
音も立てずに崩れ去ったのである。

そうして、徐々に遠ざかっていったパッチンカードは、
20年以上たった今もコレクションとして静かに眠っている。
いつか、再び戦いが始まるその日まで…


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