Another One Step of Courage 第7章:あるカップルの冬のデートの会話
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「相変わらず、早いね。どれくらい前には付いてたの?」
「俺は十分前くらいには。というか、行こうよ!」
「そうね、にしても寒いね」
「ほら、カイロ」
「ありがとう! 暖かい。やっぱり、冬に海側に来るのは馬鹿だったわね」
「でも、最初のデートからの約束だからね」
「うん! そうね。ほら見て!」
「お、南京錠じゃん!」
「それにこれも!」
「油性ペンも持参とはする気マンマンじゃん!」
「だって、結構いろんなことを乗り越えて、もう二人共十分わかってるでしょ?」
「そうだな、俺は正直もう椋乃以外とは無理だわ」
「私も楠雄以外とは無理だわ!」
「こんな安っぽい会話、小説じゃ没だね。このあと、二人は確実に別れそう」
「楠雄も私に釣られて、カインドに入ってからそういう小説的なこというようになったよね。じゃあ、どんな会話が安っぽくないと思う?」
「うーん、流石にそこまでは発想が思いつかないや。椋乃は思いつく?」
「思いついたけど、小説に使えそうだから、言わない!」
「意地悪だな、まったく。そういえば、その真鍮の南京錠。異様に光ってない? なんかメッキした?」
「流石、化学サークルね。金メッキ。錆びないようにしたくてね」
「椋乃も俺のせいで化学サークルに入ってから、そういう化学的なことをするようになったよね。なんかお互いに、影響を受け合ってるね」
「そうね、やっぱりいいわね。こういう関係!」
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カーン!
鐘の音は冬の澄んで乾いた空に明るく響いた。そのカップルは、龍恋の鐘を鳴らし終えると、金メッキされた手製の南京錠に「楠雄&椋乃、ずっと一緒」と書くとその錠を柵にかけた。二つの鍵は一人一つずつ持った。そのあと、二人は満足そうに展望台に行き、江ノ島の煌びやかなイルミネーションを手をガッシリと繋いで眺めている。傍から見れば、そのカップルは阿呆な大学生のバカップルかもしれない。でも、二人は純愛が結んだ美しいカップルだということは誰も知らないことだろうし、誰も知る必要がないのだろう。
そして今も手製の南京錠は海が反射した日光に照らされて、錆びることなく輝き続けている。まるで二人のように……。
写真:君の名は。のあれ
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