仲良く手を繋いでくれたらなぁ。
ー 23時50分。
愚痴ばかり並べるドラマの主人公にボーッと嫌気を募らせていたのだが。とうとう耐えきれずテレビの向こうの彼女を遮断し、ベッドへと体を移した。
数秒前までテレビが占拠していた音の世界に、ようやく平穏が訪れた。無機質で飾り気のない空気がそーっと息を殺しているようだった。
特別なことは何もない。今日はそんな一日。
日記でも書こうかと思い立ち、手帳を開く。
昨日眠る前に謎のハイテンションの勢いで書いた「明日やりたいことリスト!」
日課でもなんでもない突如現れたこのリストも、下半分はチェックマークがついていない。
やらなければいけないことが我が物顔で僕の1日の半分以上を食い尽くしたのだ。
したいこと、しないといけないこと。
なりたい自分、なれていない自分。
誰しもが理想の自分を思い描き、その妄想に心を浮つかせてみることがあるだろう。
少なくとも僕は週に一度は妄想する。
面白いことを話す自分。
綺麗な女性にさらっと声をかける自分。
締め切りの1週間前に課題を片付けちゃうスマートな自分。
言うまでもなくどの僕も超かっこよくて、モッテモテのナイスガイであること間違いなしだろう。
(この妄想は自然と顔が緩んでしまう。人前では絶対にできないほどに)
そんな理想のナイスガイ達も、いつの日だったか、全部ゴミ箱にポイっと投げ捨ててやった。
僕は気づいてしまったのだ。
理想と現実は手を繋げないことを。
きっと理想の僕は、100人に聞けば87人くらいは素敵!と好印象を抱いてくれる。
そりゃそうさ。僕の頭の中で完成した完全無欠のスーパーマンなのだから。
あとの13人は大衆ウケを嫌う人種がいることを考慮したと見せかけて、完全無欠という言葉に対して感じたフラグから生まれた不安である。
問題は現実の僕の方。
くつ下すら脱ぎっぱなしにしてしまうし、やらなきゃいけない課題を最終日まで手すらつけない人間。
100人中何人が、、、なんて考えることすらおこがましいのではないか。
それでも10人くらいは、、と誰に言うでもない、理由なき自信を持つ自分が愛おしかったりもする。
面白い話ができるように、テレビにかじりついてお笑い番組をむさぼる姿や、
焼肉屋さんのかわいい店員さんに、書くだけ書いて渡さなかった連絡先の紙切れ。
こんな自分の残り香を思い出すと、愛おしく感じてくる。どれも僕らしく、不器用で人間臭い。
こんな僕を素敵だと言ってくれる人種が10人いたとして、その人達にどこが良いかを聞いてみたくもなる。
だけどそんなこと聞くのは野暮だから、その絶滅危惧種達のセンスが、行きすぎたパリコレのようにズレていないことを願う。
そして、今日も僕は僕を愛してみる。
笑っていれば、たとえどんくさくて不器用な僕じゃ上手く乗りこなせないハードな日々でも。
「そのうちなんとかね!」そう言い聞かせて歩いていける。
笑顔と幸せと僕を見てくれる素敵な人たち。
そんなプレゼントを僕に届けてくれるスーパーヒーローは、何を隠そう紛れもない僕自身なのである。えっへん。
だからとことん守ってやるんだ。
10人の仲間達には頭が上がらないな。
そんなことを考えていたら夜の闇が深く部屋に漂っていて、明日が怖くなる時間がすぐそこまで来ていた。
心がぽかぽかする暖色のベッドライトにおやすみとつぶやいて、夢の世界へ。
暗い夜道を一人、少し歩いて行く。
薄暗い夜の街で知らない美女に声をかけられた。
さらっとエスコートをする僕。
あぁ、どうやら投げ捨てたはずのナイスガイは、ゴミ箱にはじかれて入っていなかったみたいだ。
どこまでも可愛いやつめ。
〜fin
√y
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