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デザインのプロセスを開示すること『notebook 思考の断面』展

2010年の冬、東洋美術学校ギャラリー館にて『notebook 思考の断面』展をおこないました。この年の4月、在校生有志による課外デザイン活動グループが組織され、その生徒たちとともに企画実施した展示です。サークルがたちあがってまもなく、在籍生徒が勢いにまかせてギャラリーを確保。当初は生徒それぞれの制作物を展示するという「いかにも」なグループ展形式のものを検討していましたが、それから数ヶ月のあいだ様々なデザインプロジェクトやフィールドワークをおこなうなか、みな一様に、デザインが結果にいたるプロセスと、そこでの密度やおもしろさを自覚するようになっていました。

というのも、筆者が2009年に勤めはじめたころの東洋美術学校 教育プログラムは、オペレーション技法の習得とデッサン、色彩構成が中心であり、デザインワークにおいて本来的に要になるような授業は、卒業年度ないしはそれ間近での選択科目というような扱いでした。それは失礼を承知でいえば、デザインというよりも「体裁づくり」の養成を目的としているようにできており、筆者としてはデザインの学校という看板がある以上、どうにかデザインをまなぶ場にできないか、とのおもいが日々募るものでした。

そんななか、運良く上司のすすめで、この課外デザイン活動グループの担当をまかされることになり、さまざまな案件を有志生徒とともに経験してゆきます。そしてここでの成果が、実際の教育プログラムにも反映されてゆくことになります。ですから、この課外活動のなか、生徒たちがデザインのプロセスの重要さを認識したことは、わたしとしてとても嬉しいものでした。

では、どのようにすればプロセスを展示することができるのか。
結果へとむかう単線的な時間のドキュメント。関係の生徒たちとブレインストーミングを繰り返すなか、その記録を象徴するものとして「ノートブック」というキーワードがうかんできました。もちろん、実際にはひとそれぞれに思考や制作過程、プロトタイピングがあり、その道具はノートブックばかりにはかぎりません。ここではあくまで、それらのプロセスを象徴するものを「ノートブック」と呼称し、それは「思考の断面」をアーカイヴしたものと定義することにしました。

さて、そうしてテーマが決まれば、あとは「だれのプロセスを紹介したいか?」とたのしい時間。そこで候補にあがったひとたちへ企画書を送付。ありがたいことに、ほとんどのかたにご賛同、ご承諾をいただくこととなります。

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白井敬尚さん
ヤン・チヒョルト 著 / 菅井暢子 訳『書物と活字』(朗文堂, 1997)の制作プロセス。チヒョルトフォーマットに基づき割り出された紙面設計と、本文をはじめ精緻なレタースペースとサイズ調整のメモが圧巻。タイトル『書物と活字』の活字をおこすにあたって、実際に彫刻することピークを確認されていらした。

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にしづか かつゆきさん
イラストレータのにしづかさんからは財団法人 日本相撲協会の公式キャラクター ハッキョイ ! せきとりくん』のスケッチをご出品いただきました。ラフなタッチながらも正確にかたちづくられたところに、日々の鍛錬をみることができる。

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倉持裕さん
劇団『ペンギンプルペイルパイルズ』主宰の劇作家・演出家の倉持さんは、大学ノートに几帳面にまとめられていました。その丁寧さはまるで一冊の書籍のようで、おもわず読み込んでしまうものでした。

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村松幸弘さん
信州大学で『ロボコン』の企画・研究をされている村松さん。いかにも理系・工学系らしくエクセル的ともいえる表形式でシステマティックにまとめられたノートから、その思考プロセスが明確にみてとれる。

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國盛麻衣佳さん
当時、九州大学芸術工学府にて炭鉱とアートプロジェクトの研究を本格化されたいらしたころ。石炭をもちいた絵具の開発と、子供が使用した状況を想定しながら検討されたスケッチ。

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河野三男さん
さまざまなタイポグラファ、デザイナーのことばを翻訳された奇跡。大学ノートにおおまかな訳がメモされ、そこに赤入れをしながら正確な翻訳となりゆく過程がみてとれた。この成果がまとめられたひとつが『タイポグラフィの領域』(朗文堂, 1996)

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ほか僭越ながら中村や、当時の在校生の「ノートブック」も展示することになりました。

こうして振り返れば、わたし自身も若気のいたりであったことは間違いないでしょう(これから十年経ったことにおどろくばかりです)2010年当時はちょうどデザインシンキングをはじめとし、デザインのプロセスの重要性が世間的にも認知されはじめていたころですから、いまおもえばなかなかタイムリーな内容だったのかもしれません。

あらためて当時、ご協力をたまわりました皆様に感謝御礼申し上げます。


10 February 2020

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『 notebook 思考の断面 』

会期
2010年12月14日|火曜日|— 12月18日|土曜日|9:00 – 18:00
会場
学校法人専門学校 東洋美術学校ギャラリー館
主催・展示企画
東洋美術学校デザイン研究会アクティ
|追伸|
僭越ながら、現在開催中の『マル秘展 めったに見られないデザイナー達の原画』(21_21 DESIGN SIGHT)をみつつおもいだしたことでした。デザインにかぎらずプロセス、その可視化はいつも興味深い。


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