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ぽんのみちの法令遵守が厳格と言う話

昨秋から麻雀界隈や聖地巡礼界隈に話題を提供している「ぽんのみち」
実は、ぽんのみちは麻雀をメインテーマとしながら、麻雀作品にありがちな賭博や反社勢力の存在など、非合法的な描写をほとんどせずに物語を成立させているという点で注目すべき作品なのである。
今回は、ぽんのみちの法令遵守がいかにすごいか、ということを本記事で紹介・検証してみたいと思う。


賭博・セクハラ・暴力描写など

まず、一般的にフィクションだから許されたり、麻雀漫画にありがちな犯罪行為としては上記のような表現が挙げられるだろう。

このうち、賭博描写についてはアニメ版の第1話で賭博との関連を匂わせる発言が一瞬あるが、即座にそれを強く諌める発言が被さる等、賭博としての麻雀を明確に否定している。
そして、なかよし版は賭博の対象として触れられること自体がなく、徹底して純粋なボードゲームとして紹介・描写されている。

逆に、少女漫画の王道たるなかよしで麻雀漫画を連載するにはここまでやらないといけないともいえる。

セクハラや性的な描写については、キャラが全員胸が大きめにもかかわらずむやみやたらと胸の大きさを強調する描写がなかったり、セクハラ行為についても5話でなしこが跳に対して腹をつまんだ時にも反撃を加えられた挙句、明確にダメなものと諫められている。
多くのアニメが安易にキャラの性的魅力で売ろうとする中、この辺はキッチリしていると個人的には評価したい。

暴力行為については上記の反撃を除いて5人の間では行われていないものの、チョンボに対しては壁にバウンドするレベルのデコピンを行ったり、麻雀や灯篭作成等で疲弊させている描写があり、ギャグ風味ではあるものの、これは暴力ではないかという見方もできなくもない。
ただ、麻雀の精霊のような非現実的存在はそもそも法律の保護の対象とならないので、いくら暴力を振るったり酷使して疲弊させても道義的にはともかく犯罪にならないのである。

この辺りの扱いの違いを判ってる点からも、製作者がちゃんと法律を理解して作品を作っている様子がうかがえるのである。

余談だが、イカサマについては麻雀のルールに違反するものの違法ではないため、アニメ版ではイカサマを行う描写は多々登場する…というより作品を構成する重要な一要素になっている。
その一方で、なかよし版ではイカサマの描写自体されていない等、アニメ版となかよし版できっちりレギュレーションを分けて描写していることがうかがえる。

雀荘ぽんぽんの構造

雀荘と言えば風営法をはじめとする法令法規でがんじがらめにされている存在なのだが、ぽんのみちではこの点にも抜かりがない。
まず、雀荘を経営するには風営法上の許可が必要であり、その要件が事細かに記されている。そのうち、内部の構造については法令上は以下のような条件が明文で定められている。

  1. 客室の内部に見通しを妨げる設備(カーテンや高さ1m以上の衝立など)を設けないこと。

  2. 善良の風俗又は清浄な風俗環境を害するおそれのある写真、広告物、装飾その他の設備を設けないこと。

  3. 客室の出入口に施錠の設備を設けないこと。
    (外に直接つながっている出入口は施錠可)

  4. 雀卓の上面や客が座る椅子のある場所の照度が十ルクス以下とならないように維持されるため必要な構造又は設備を有すること。
    (目安として、大体映画館の上映前の時と同程度の明るさ)

  5. 騒音又は振動の数値が条例で定める数値に満たないように維持されるため必要な構造又は設備を有すること。
    (広島県の場合は最も厳しい基準で50デシベル)

  6. 「18歳未満の立ち入り禁止」等の禁止事項や料金等について、分かりやすい位置に掲示等されていること。

行政書士が運営するブログを中心に、実務上は更に厳しい基準があるという記述も散見されるが、少なくとも雀荘ぽんぽんの内部構造で上記基準に明らかに反している部分はないことがわかる。特に、外観がレンガ造りだったり建物周りの敷地が妙に広いのは、麻雀にありがちな騒音関係のツッコミを避けるためとしか思えないのである。

雀荘ぽんぽんの内部構造(客室部分)(第2話より引用)
雀荘ぽんぽんの外観(第1話より引用)

また、細かい話だが第4話のラストで跳が雀荘ぽんぽんの前に来た際、扉の左に謎の金属プレートがあるが、これはおそらく営業していたころに「18歳未満立入禁止」のプレートがあった場所と考えられる。こんなところまでとにかく芸が細かいのである。

雀荘営業時代の名残と思われる金属プレート(第4話より)

リーチェの雀荘への出入り

前述の「18歳未満立入禁止」の規定に関連して、第2話で幼少期のリーチェが営業中の雀荘ぽんぽんに出入りしているのはこの規定に引っかかるのでは?と思った方も多いのではないだろうか。

雀荘は18歳未満立入禁止というのはその通りなのだが、リーチェが訪れたのは営業中ではなく、麻雀教室の開催時である、という点が重要となる。
参考事例として、老人福祉を目的として風営法の許可要件を緩和する旨の要望が行われた際、警察庁からはテキストを用意したり学校と同じように机を並べて教える形式(スクール形式)とするなど、教室としての形態であれば風営法の許可は不要と解答がされている。

いわゆる「健康マージャン」であっても営利の目的をもってする業たる行為であって、設備を設けて客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせるものと認められればまあじやん屋に当たる。 また、仮に「代替措置等」を講じたとしても、直ちにまあじやん屋に該当しなくなるものとは言えず、個々の営業の実態から、営利の目的をもってする業たる行為であって、設備を設けて客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせるものと認められれば、まあじやん屋に該当することとなる。 なお、例えば、公民館において講師が単に遊技の方法を教授する麻雀教室を無料で開催するなど個々の営業の実態から上記の定義に当てはまらないものについては、風俗営業の許可を要しないものと思われる。 いずれにせよ、許可の要否については、個々の営業の実態を十分に見た上で判断すべきものである。

警察庁 特区第18次・地域再生第8次(非予算) 再々検討要請(https://www.chisou.go.jp/tiiki/kouzou2/kentou/101014/keisatu_k.pdf)の4ページ目より

ただ、普段雀荘として風営法上の許可を得ている場所で麻雀教室を行う場合に上記の規定の適用を受けるかどうかという点までは調べきれず、結局のところは「メンバー同士で行われる麻雀教室」の内容で個別に判断されるものと考えられる。
そのうえで、少なくとも作中ではスクール形式ではなく普通に雀卓を囲んで参加者同士で麻雀を行っている様子がうかがえる事から合法とまでは言い切れず、その意味でこの点は本作における現状唯一のグレーゾーン描写と言えるだろう。

作中の麻雀教室とされる様子だが、どう見てもスクール形式ではない。(第2話より)

ちなみに、なかよし版とアニメ版双方の作中時点において、18歳以下のなしこたちは雀荘だった建物に普通に出入りしている。
これについては、18歳未満の立入を禁ずる掲示がないことと、休業状態になって作中時間で少なくとも1年程度経過していることから、既に営業免許を返納しているものと思われる。

仮に許可されたままだったとしても、風営法の規定は18歳以下の立入を絶対に認めないという趣旨ではなく、あくまでお金を取って麻雀をさせたり従業員にしてはいけないという趣旨なので、明らかに休業状態の店舗に出入りして友人とタダで麻雀をしていても直ちに違反とはならない。
ただし、なしこの父親が警察から事情を聞かれる可能性はあるので、返納していると考えるのが無難だろう。

跳のリアル凸

アニメ版となかよし版で行われた跳の雀荘ぽんぽんへのリアル凸について、感覚的にはかなりヤバい行為に思われるが、SNS等で公開されている情報を元に居場所を特定する事自体に違法性はない。
法に触れることがあるとすれば建造物侵入罪や不退去罪やつきまとい行為(いわゆるストーキング)あたりだろうが、なしこら4人から拒絶や立ち入りを禁じられた訳でもなく、拒絶された後に居座ったり反復して付き纏ったりした訳でもない為、違法性はない。

黄金麻雀牌の争奪戦

黄金麻雀牌を巡るバトルについてはネット上でも「賭博罪じゃないのか?」と指摘のあった部分だが、結論から言えばなかよし版、アニメ版のいずれでも賭博罪に該当しないのである。

その理由として、賭博罪が成立するには「1.偶然の勝敗により財物等の得喪(とくそう)を争うこと」「2.財物や財産上の利益を賭けること」の二つを満たす必要があり、本件はそのうち1.に該当しないのである。

この1.の要件については「得喪」と書いてあるのでわかりにくいが、要するに賭博罪が成立するためには何らかの結果により参加者間で得する者と損する者が同時に存在する必要がある、ということである。
なので、競技に参加しないスポンサー等が金品を提供した上で、競技者の誰かが結果や成績に応じてその金品を獲得する場合、賭博罪は成立しない。

この辺りはゴルフやeスポーツなど、運が絡む競技の大会を思い浮かべればわかりやすいのではないだろうか。

そのうえでなかよし版でもアニメ版を見てみると、どちらも黄金牌を提供したリーチェは競技に参加しておらず、残りの四人が黄金牌の獲得を巡ってゲームに参加しているので、賭博罪は成立しない、ということになる。

ただし、アニメ版ではオリジナルのゲームで勝敗を決めていたが、なかよし版では最終的に麻雀で獲得者を決めている。後述するが黄金麻雀牌は少なくとも2億円は下らない価値を持つため、彼女たちは結果的に福本伸行先生の「アカギ」で描かれた鷲巣麻雀のレート「1,000点あたり100万円」並のハイレート麻雀にノーリスクで参加していた事になる。
違法でないとはいえツッコミを受けても当然と言えよう。

(オマケ)黄金麻雀牌の譲渡にかかる税金

違法性云々ではないが、跳が獲得した黄金麻雀牌にかかる税金についても考えてみたい。
というのも、アニメ版では跳が獲得後、程なくして雀荘ぽんぽんに置かれたため帰属が曖昧になっているが、なかよし版では跳が獲得した後の事は特に描かれていない点が妙に気にかかるのである。

牌の大きさにもよるが、日本で一般的に販売されている4人麻雀セットかつ大きさ28mmの麻雀牌、そして金1g=1万円とした場合、地金としての価値だけで約2億円となる。

具体的な計算はこちらのnoteが詳しいので是非参照していただきたい。

200万円を超える金の取引を行う場合、税務署への取引記録の届出が義務付けられている。アニメ版の描写ではあるが保証書(おそらく地金としての鑑定書・保証書込み)までついた真っ当な金地金であると仮定し、その上で跳に正当な譲渡が行われたとすれば、上記の時価に基づき跳に贈与税が課される。

仮に2億円とした場合、その税額は半分の約1億円。

当然、跳にそんな税金を負担できるわけはないので、現実的な対応としては麻雀牌を地金として相続税分売却するか、あるいは全て売却して残金を自分のものとするしかない。
となれば、アニメ版のようになんとなく全員の共有物のような扱いにしつつ、法律上の所有権はリーチェにしたままとするのが最善と言える。

なお、一部の詳しい人からは上記の時価を算定するにあたり工芸品としての価値は考えなくても良いのか?と指摘があるかと思う。
むろん、高級麻雀牌というのは存在しないわけではないが、一例としてティファニーの麻雀牌で15,000米ドル(約250万円)ルイヴィトンの10セット限定麻雀牌で約900万なので、工芸品としての価値より地金としての価値の方が圧倒的に高いと考えられる。
そのため、贈与税を計算する上ではあまり考慮する必要はなく、金銭目的なら躊躇いなく金地金として売却する方が良い。

最後に、ヤンマガWeb版はどうなのか、という意見があると思うが、あちらについては青年誌向けということでかなり際どい表現も多く、検証すべき点が膨大なのでまた改めて検証する事としたい。


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