「あなたも変わり者だね」
北海道の真ん中あたりの小高い丘にたつ変わった美術館へ行ってきた。81歳の館長もちょっと変わった人で、他に客もいなかったので丁寧に色々と説明してくれた。それこそ作品の説明から、古民家を新潟から移設した建物の話から、館長の今までの経歴まで、あらゆる話が次から次へと出てきた。私も急いでいなかったので相槌を打ちながらおじさんの話にそれなりに興味を持って耳を傾けた。
大阪出身のおじさんがほぼ趣味で開いた美術館らしいのだけれど、何しろ場所が北海道、しかも訪れる観光客は美術ではなく広大な風景を目当てに来るうえに今はコロナのせいでそもそも観光客が少ない。さらに入館料が1000円で、東京から行くと安いと思うけれど、北海道でその値段は払いたくない人が多いのだろう。そのせいか、その日は私が2人目の客だと言われた。そして言われたのが「あなたも変わり者だね。こんなところへ来て。」
それを言われて思わずマスクの下でにやけた。私は自分が普通だとは思っていないから、変わり者と言われても全然嫌ではない。むしろよくわかったね、と思って微笑んでしまった。こういうやりとりがあるから一人旅は楽しいのかもしれない。友達と一緒だったらそもそもこの美術館には行っていない可能性が高いし、行ったとしてもじっくりおじさんの話を聞くことはなかっただろう。一人だと好きなように時間を使えるし、相手から見ても話しかけやすくなるのだと思う。
美術館の展示に関しては絵画と陶芸作品が中心で、私は日本の画家にはあまり詳しくないのでよく知らなかったのだけれど、おじさんの説明のおかげでけっこう楽しく鑑賞できた。しかもこの建物、3階からの眺めが素晴らしい。冒頭の写真がその眺めで、この日は雲がかかっていて十勝岳とその噴煙は見えなかったけれど、おじさんもこの景色が気に入ってこの土地を買ったらしい。写真の手前に見える庭園はおじさんが自分で高山植物をせっせと植えて作ったらしい。ここを切り開くのに1億円かかったと言っていた。土地代よりはるかに高い、と嘆いていたが、大阪のおじちゃんらしく悲壮感は全然ないので話を聞いていて面白かった。
今までの人生でどう成功してどう失敗したかの話を2周くらい聞いたところで失礼させてもらった。帰ろうとして車に乗ってエンジンをかけたら、建物の中に入っていったおじさんが出てきて冷えた缶ジュースを1本くれた。いわゆる普通じゃない人生を送ってきた人の話って面白い。しかも、もしかしたら私はこれくらいの年代の人から話を引き出すのが上手いのかもしれない。
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