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『職業遍歴』#14 サボりまくったYah〇〇!のモデム配り

筆者が過去に経験した「履歴書には書けない仕事(バイト含む)」を振り返るシリーズ。社会人になったものの就職はうまくいかず非正規を転々とする日々。今回は、某通信企業のモデム配りのバイトの話です。

14. モデム配り

今でこそ自宅のネット環境はWi-Fiとか光回線が当たり前ですが、昔はダイヤル回線でした。電話線と同じ線にPCをつなぎ、電話をかけるみたいな感じでネットにつないでいたわけです。つながるまでに時間がかかり「ピーキュルルルルー」なんて音もしていました。つながってもすぐに画面は表示されず、上のほうから少しずつ表示されていきましたっけ。

そんなときに現れたのが、ADSL回線でした。今は光回線のほうが断然早いからとADSLはすたれてしまっていますが、当時は画期的でした。ダイヤル回線と比べると段違いで早いし、常時接続可能、というのも夢のような話でした。ダイヤル回線では電話料金がかかるので、長時間ネットをつなぐことができず、深夜帯の「テレホーダイ」を利用していた人も多かったと思います(私もその一人)。テレホーダイでは、23時から朝8時までのネット接続料金が定額で使い放題になります。だから、いつも23時になるまでネットにつなぐのを我慢し、23時になった瞬間につないでいましたっけ。何時間も何時間もチャットなどを楽しみ、気が付けば朝になっていましたっけ。なつかしい時代です。

ADSLになると、常時接続可能ですから、もう23時まで我慢する必要もなくなりました。便利なんてものじゃなかったです。ありがたかった。

ADSLはいろいろな企業がサービスを提供していましたが、私はもっとも料金の安いYahoo!を利用していました。そのころからYahoo!はこうしたサービスにいち早く目を付け、安さだったり目新しさとかで消費者を取り込んでいました。

自分が使ってるから、というわけではないですが、私はたまたまYahoo!のモデム配りのバイトをすることになりました。当時Yahoo!は消費者拡大のため、無料でモデムを配る、ということをしていました。もちろん、モデムだけもらっても、通信環境がないとネットはできないわけですから、モデムを配ってYahoo!のADSL回線に申し込ませるのが目的なわけです。

バイトは日雇いでした。日によってさまざまな場所へ派遣されますが、同じ人が続けて入っている場合は同じ派遣場所となっていることが多かったと思います。

私が派遣された場所は、ちょっと外れた住宅地でした。モデム配りというと新宿とか渋谷とかの人の多い繁華街でやるというイメージですが、住宅地に住んでいる人たちを狙ってモデムを配るということもやっていたようです。

モデム配りの仕事は、そのまんま、歩いている人にモデムを配ることです。もちろん、普通の人は簡単にモデムなんて受け取りませんから、少しは商品の説明をしたりネットの説明をしたりもします。けど、なにも言わなくてもタダならいいかと受け取ってくれる人もいました。モデムを受け取ってくれた人には回線の説明をし、契約してくれるよう促します。が、その場ですぐなにか契約書を書いてくれとかではなく、後日郵送でもいいですよと言って契約書などの入ったワンセットを渡す、というだけでした。

システムとしては、この契約をとった件数が何件かでそのチームが評価される、みたいな感じだったと思います。同じ日に集まってモデムを配るバイトはだいたい5人くらい。ひとつのチームには社員のリーダーがひとりいて、そのリーダーがバイトたちに指示をします。

基本的には、みんなでやって一日一件契約をとれれば「やったー!」みたいな感じだったと思います。つまり、必死こいてモデムを配ったとしても、実際に契約をとれるのはそんなもん、ということです。

逆に考えれば、みんなで一件の契約さえとれればべつにいい、というわけで、朝から晩まで必死こいて外に立ってモデム配りをする必要なんてなくね?という考え方になります。私はこういう考え方がすごくよくわかるし、すごく好きです。

で、そのとき派遣されたチームのリーダーはまだ20歳ということもあってか、とことんサボろうとする人で、私は好感を持ちました。そのときのチームは全員20代で、大学生とかもいて、当時26歳の私が最年長だったと思います。そのチームでは、大学生の男の子がわりと発言権を持っていて、彼の意向で「どこでサボろう」みたいなことが決定していた記憶があります。

一日に配るべきモデムが、一人につき3個とか5個とかあるのですが、配りきれなかったら返してもOK。契約がとれなくてももちろん時給はちゃんと出ます。このように、販売した実績ではなく、時間で計算する、という考え方も、私は好きです。その時間サボっていても、そこにいさえすればお金が儲かるのですから。実績主義でめいっぱい仕事をするより、テキトーに仕事をして時給を稼ぐほうが断然ラクです。私は40をすぎた今でもこの考え方で働いています。

そのチームでは、朝仕事先に行くと、まず皆にモデムが配られます。皆で手にモデムを持った状態で、いきなりファミレスに入ってみんなでタバコを吸ってだべりはじめます。モデムを脇に置いてタバコを吸ってだべっている私たちを不審な目で見る人たちも多かったです。そのまんまそこで昼食をとり、午後もまたどっかのビルの休憩所とかでタバコを吸ってだべり、夕方くらいからモデムを配りはじめます。要は我々は短期集中型というわけです。それまでのサボってたぶんを取り返そうと、道行く人に向かって声を張り上げます。それで、だれかが一件契約をとれると「やったー!」となり、そのまま今日は解散して皆で飲みに行こう、という流れになります。私はその日稼いだお金が飲み会でなくなってしまうのはバカバカしいと思ったので飲みには行きませんでしたが。その日の日報もリーダーが提出しているので、リーダー自らサボろうとすれば、バイトはいくらでもサボれるわけです。

そのチームのメンバーで仕事をしたのは3日くらいだったかと思います。成績が悪かったからか、勤務態度でクレームがあったのかわかりませんが、その後同じメンバーがそのリーダーの元に派遣されることはありませんでした。その後は別のリーダーの元、別の土地に派遣され、そのときはごく普通にモデム配りのバイトをしていて、なんの面白味もサボれるおいしさもなかったので、私は早々に辞めてしまいました。

あのときみんなでファミレスでタバコを吸いながらしていたバカ話。どうでもいい話で、当時は笑って聞き流していましたが、なんてことない話をなぜか今でも覚えていたりします。不思議です。あのときのメンバーも、今は40歳とかになってるんだな。まともな仕事ができているかな。



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