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白夜 ~ 一章 日常 ~ 1

 がくん、と自分が落っこちるような感覚で目を覚ます。
 嗚呼またか。自分が死ぬ夢を見た。気がする。
 六時に鳴る、うるさい時計のアラームを止め、布団の中にもぐりこんだ。
 まだまだ、布団が恋しい一月の朝。
 暖かい布団の中と、凍り付くような、は言い過ぎかもしれないが寒い外。どちらの環境が良いかと言われたら、布団の中の方が圧倒的に快適なのだ。
 布団から出たくない。正直、このまま寝てしまいたい。
 しかし、今日は憎いことに平日なのだ。
 中学生である私のお楽しみ、冬休みはすでに終わってしまっている。すなわち、学校に行かなければならない。
 しかも、今日は部活の朝練があるため、早めに家を出なければならない。
うう……起きたくない……。寒い思いしたくない……。
 だが、起きねば母と鬼という異名を持つ顧問に朝から叱られる。しかも、鬼の方は、放課後のメニューの内容がきつくなる。鬼と言っても、ちゃんとしていれば怖くはないし、ただの愛称だったりもするが。
 怒られるのを覚悟で快適な場所に留まるか、怒られないけど、極寒の中へ行くか。こうなったら、マシな方を選ぶしかない。
さて、どうするか。否、答えは決まっているのだが。
「起きるか…… 」
 朝から起こられて気が滅入るより、寒い中に行った方がましだ。
 本音はまだ寝ていたし、昨日の部活のメニューのせいで、あってこっち筋肉痛だし、学校さぼりたいですし。
 どんよりと濁った気分を吐き出すように、ため息をつきながら体を起こした。あったかくて、心地よいもこもこのパジャマから、冷たくて、堅苦しい制服に着替える。
 まだ眠くてふらふらしながらリビングへ向かった。母が台所で食器を乱雑に扱っている。朝からかなり不機嫌なようだ。そんな母を刺激しないように手伝いをする。ここで下手に刺激すると後が怖いのと、八つ当たりが全てこちらに来るので避けたいからだ。
 ひと段落ついたところで、朝ごはんを食べる、といういつものルーティンをこなす。
 今日も母の機嫌が悪いな、と思いながら、おにぎりを頬張った。今日はおばあちゃんの梅干しと鮭らしい。うん、塩味がちょうどよくておいしい。やっぱり、梅干しは塩一択だな。
 なんて思っていると、なぜか、今朝見た夢がフラッシュバックした。
 ネオンが光り輝く空と、アスファルトの上に寝転ぶ感覚。やけにあたたかくて、ぬるぬるとしたものが流れ出る感覚。何故か体に力が入らず、眠くなる感覚。
 そして、知らないはずなのに、懐かしく感じた男の声。
「誰だったんだろう? 」
 正直、心当たりが全くない。テレビは見るほうではあるが、夢のなかで聞こえた男の声など聞いたことない。
 もちろん、知り合いにもいない。
 はて、なんじゃったんだろう、と思いながらも、しょせん夢だしな、と思いそのまま忘れることにした。
 のんびり食べていると、母親に朝練遅刻するよ、と怒られた。
 え、と思い振り返って時計を見ると家を出ないと遅刻する時間が迫っていた。やばい、鬼怖い、と思いつつ、慌てておにぎりの残りを平らげ、軽く身支度を整えて家を飛び出した。

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