異常に暑い日々が続きますが皆様いかがお過ごしでしょうか。こちらモーヴ街はどんな地に存在するのかは明かされておりませんが、少なくとも今ここ日本の湿気を含んだ猛烈な暑さとは無縁の夏が訪れていることと思います。涼風の吹くモーヴ街10番地のロマランより、お届けしております。
良い陽気ですから、マダム・ロマランは居間でうたた寝をしているようです。マダム・ロマランの眠っている間にひとつ作品をご紹介させていただきます。
ーわたしの菫色の想い出ー
こちらは昨年12月に開催された、菫色の小部屋最終幕の展示の為に描いた絵です。
吉祥寺の実店舗での最後の展示は、それは華やかで美しいものでした。こちらの作品には題名の通り霧とリボンさんの菫色の小部屋での想い出を詰め込みに詰め込んでみました。
初めて参加したエリック・サティ『スポーツと気晴らし』をテーマにした企画展、香水をテーマにした企画展『架空の香水博覧会』、三つ編みをテーマにした企画展『三つ編みのレッスン』、レースをテーマにした企画展『レース模様の図書室 再訪』、菫色とアブサンをテーマにした『アブサンの文法』、コロナ禍によりオンライン開催となった個展『ノスタルジー』、そして三年ぶりに実店舗で開催された個展『彼方の鳥』……絵にしたそれぞれが思い出深く、絵の中の全てに解説をつけるのも野暮かと思いましたので、いくつかかいつまんでエピソードと共に記してみたいと思います。
まずは最初にお誘い頂いたエリック・サティの『スポーツと気晴らし』は、サティの小粋なタイトルのついた小曲が参加者の希望により振り分けられる形でしたが、希望者の少なそうな『蛸』をわたしが希望したことに主宰のノールさんは驚かれ、そしてとても楽しんでくださったことが印象的でした。
描いてみたかった蛸でしたが元々食用としての蛸も好きなので、その情報も含めノールさんの中で、ガム子=蛸のイメージが定着したようです。こちらの絵では、アブサンの海で泳ぐ蛸を描きました。(もしかしたら溺れている蛸かもしれません…!)
余談ですが初めて霧とリボンさんを知った時、その洗練されたイメージに都心の方にあるお店(例えば表参道とか…それ自体がベタなイメージですが)を想像していたのですが、その後住所を拝見して意外にも自転車圏内だったことに驚き、そして勝手に親近感を覚えた記憶があります。
次に、アブサンに纏わる想い出を。私が初めてアブサンを知ったのは今はもうない渋谷のバーで、友人が注文したものを味見させてもらった時でした。それはまさに歯磨き粉の味で…元来歯磨き粉味が大好きで(それもなるべくミントの刺激の強いもの)、薬草風味も好きなので、こんな美味しいお酒があるのかという印象でした。
その後霧とリボンさんと出会い、アブサンに寄せた企画展にお誘い頂いたりなど、皆様と共にアブサンを知り愛でる機会を沢山頂けたことは稀有な喜びでした。
こちらの絵に描いたアブサングラスは、いつか霧とリボンさんで求めてとても気に入っているkeino glassさんのものがモデルで、こちらを持参して皆様とサロンの後に(ジョルジュ・サンドを愛でる企画でした)菫色の小部屋所有のアブサン・ファウンテンを囲んだことも、本当に美しい想い出です。
それからコロナという驚くべき時代が訪れ、予定されていた個展は霧とリボンさんが始められた新しい試みであるオンライン開催となりました。
当時わたしは個人的にもろもろのダメージを受けギリギリの状態で存在していたところで、そこへ確か当時夏に行われた都知事選の結果に落胆したことをきっかけに人間の営み自体に本格的に希望が見出せなくなってしまい、物語を作る個展を予定していたにも関わらず、そんな世で一体自分がどんな物語を作ったら良いのか、作れるのか、全く分からなくなってしまってノールさんに率直にご相談したことを覚えています。そんなねっとりしたご相談に爽やかに対応してくださり、時期の延期と物語ではない作品としての開催を提案してくださって涙が出る程ありがたかった事をよく覚えています。
生業という性質上もありこれまで自分がどんな状態にあっても絵だけは描いて、それに支えられてなんとか生きてきたようなところがあるので(それ自体幸運なことなのかも知れません)、その時もやはり展示の為の自由な絵を描くことで救われてなんとかその後へと繋ぐことができました。(そんな風に細切れに繋いで生きているという感じです。)
ノスタルジーというタイトルは、元々の人間の営みの良い部分を改めて確認するといった試みでもあったように思います。例えば夕暮れを愛でたり月を愛でたり踊ったり音楽を奏でたりするような、愛すべき部分が沢山あることについて・・・出来上がったばかりのthequroの華やかで美しい音楽と一緒に制作できたことも大きな励みになりました。
そんな中で生まれたのがエートルとアブサンス(存在と不在)という妖精でした。
自分にとってこの世界と別の世界(創作の世界でもあるのかも知れません)を繋いでくれるような大切な二人となりました。ちなみにアブサンの語源はニガヨモギの学術名absenthiumによるそうで、それは英語のabsence(不在)の語源になっているとのことで、この絵ではアブサンス(不在)という妖精がニガヨモギを携えてアブサンのグラスに座っています。
なにがなにやら…!
そして、只今配信しているモーヴ街に寄せて生まれたマダム・ロマラン、そこへ訪れた彼方の鳥です。これらに関してはもしもご興味あれば、十番地ロマランのページをご参照頂けたら嬉しいです。
まだ喋るかと仰る声が聞こえるような気がしますが最後にもうひとつだけ、周りを囲んだリボンについて。いつも霧とリボンさんから何かお品が届くと、キリッ!とリボンで(駄洒落好きなので嬉しい発見)結ばれた姿に惚れ惚れしてしまって開封せずに永遠に眺めていたい気持ちになるのですが、常々リボンも縦結びにしてしまうわたしなどには到底真似できないキリッとリボンへの敬意を表し、菫色の想い出を結んでみました。
大変長い駄文になりましたが、以上が(まだまだ語りきれない)溢れるばかりのわたしの菫色の想い出です。これだけ喋っておいてこのような結びが許されるのか分かりませんが、こちらの絵を眺めながら自由に勝手に何かを想像して頂けたら、わたしは心から嬉しいです。
そうしているうちにマダム・ロマランがうたた寝から目覚めたようです・・・次の記事へ。
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作家名|フランスガム
作品名|菫色の想い出
アクリルガッシュ・シリウス紙
作品サイズ|31cm×21cm
額込みサイズ|37.9cm×28.8cm
制作年|2023年(アーカイヴ作品)
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