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居間|菫色の小部屋再開から物語へ、断片的な思考を思うままに記述する試み

 四月の初旬、霧とリボンさんの菫色の小部屋の扉が三年ぶりに開き、そちらで新しくできた絵本『彼方の鳥』の原画展を開催して頂きました。

フランスガム個展《彼方の鳥》
霧とリボン 直営SHOP & ギャラリー エントランス
フランスガム新刊絵本『彼方の鳥』

 ご来訪くださった皆様、ありがとうございました!改めてお礼申し上げます。Webで見守ってくださった皆様へも改めて感謝申し上げます。

フランスガム個展《彼方の鳥》会場風景(以下同)
at 霧とリボン 直営SHOP & ギャラリー
2023.4.8〜10

 三年ぶりに訪れた菫色の小部屋、初めてポプリを試香されるお客様のお姿、じっくり絵を見てくださるお客様のお姿(少々ひやひやしながら)、カリスマ店員ことノール様の忍者のように素早い細やかな会場整備の目撃など、感動的な場面が沢山ありました。
 そして皆様とのひと時はとても楽しく、晴天にも恵まれて、少し前のことですが思い出すと淡い光に包まれた遠い日の想い出のようです。

 さてこの度こちらへ何を記そうかと色々考えたのですが全くまとまらず、エッセイの語源はessayer(試みる)から発していて、断片的な思考を思うままに記述する試みだという言葉を偶然に見掛けたので少し心が強くなり、今回の展示にまつわるいくつかの出来事から、思うままに綴らせて頂くことにしました。

 わたしが職業としてきたのはイラストですが、なぜなのか言葉と一緒に表現したいという気持ちが昔からあり、いつからか物語を作るようになりました。
 物語とはなんだろうとよく考えるのですが、その一つの特徴として、想像上のものだとしてもその中には誰かの人生があって、それは現実を生きる誰かの人生に繋がっているのではないかと思うことがあります。

フランスガム新刊絵本『彼方の鳥』

 例えば自分の作ったこんな小さな物語でも、誰かの人生へと細く繋がっているのかなと思わせてくれる出来事がこの展示中にもありました。

フランスガム新刊絵本『彼方の鳥』

 それは展示を見にきてくださったお客様が、紅茶を飲むマダム・ロマランにご自身のお茶の時間を重ねてくださったり、整理整頓の苦手なマダム・ロマランにご自身の日常を重ねてくださったりといったとても小さな日常への繋がりであったり、彼方の鳥の旅立ちをご自身の旅立ちに重ねてくださったりといった大きな節目への繋がりであったり、店主のノール様が『菫色の中庭』というシーンにご自身の想い出の地を重ねてくださったりといった記憶への少し不思議な繋がりまで様々でしたが、そういったことが心から嬉しく、物語を作ることに関して新たに発見した喜びのように思いました。

フランスガム|菫色の中庭(2023年)

 『菫色の中庭』のシーンについては自分自身にも少し不思議な出来事がありました。自宅のキッチンの窓を開けると、隣地にある社宅の広々とした庭がすぐに見えて、そこには棕櫚の木や金木犀の木、長年そこにあったと思われる立派な松の木があり、長年の密やかな癒しとなっていました。特にここ数年間の外出制限の期間には、窓を開ければそこにある緑にどれだけ救われていたか分かりません。

 無意識的なところも大きいですが、この絵を描く際に少なからずその『心の中庭』をイメージしていたように思います。そして驚いたことにこの絵を描いたすぐ後に隣地の社宅の解体工事が始まり、まず棕櫚の木が次々に切り倒され、最後まで残っていた立派な松の木もとうとう切られてしまったのでした。

 風に揺れて踊っていた棕櫚の葉も、秋に香った金木犀も、光を浴びて輝いていた松ももう二度と見ることはできなくなり、本当に『心の中庭』となってしまいました。これからだんだん記憶が薄れていくにつれ、この挿絵を見る度にあの庭を思い出すのかもしれない、と思っているところです。(昨今の破壊と再構築の流れに関しては警戒し考えなければならない別の現実的な問題として…)その『心の中庭』の光景が人様の大切な想い出の地へと繋がっていたことは、驚きであり新鮮な喜びでした。

フランスガム|鳥の想い出(2023年)

 このような偶発的な流れに無駄に大きな意味を持たせることは好みませんが、全てをこじつけとして跳ね除けることも野暮に思われ、この世界に流れている美しいリズムのように捉えてそれを愛でたいと常々思っています。

 全く別の話ですが、今回は光の表現に新たな試みを入れたこともあり、絵の難しさや表現の無限性を改めて思い知った制作でもあり、それは新たな楽しさの発見でもありましたが、いずれにせよ技術はあるに越したことはないことを痛感し、まあよく知ったところの痛感ですが、改めてこれからも精進する所存です。

フランスガム|茂みの中で(2023年)
フランスガム|別れの予感(2023年)

 エッセイの語源にかこつけいよいよ取り止めのない話になってきましたが、わたしにとって物語とはどこか別の場所でありながらこの世界と確実に繋がっていて、このような偶発性の美しいリズムを感じさせてくれたりしながら、時に自分の人生と重なって救いになったり(ならなかったり)するものかなと思っています。まあ少なくとも自分はそこに多少なりとも救いを求めていることは認めなくてはなりませんが。
 この小さな小さなマダム・ロマランのお話も、細々とですがそのように続いて行ったら良いと願っています。

 ここで現実的なお話になりますが、今回の物語「彼方の鳥」の源泉である絶滅してしまった鳥ドードーへのささやかにもささやかな返信として、こちらの絵の売り上げをWWFへ個人として寄付させていただきました。ご賛同いただいたお客様、そして霧とリボン様へ、大きな感謝を捧げます。

フランスガム|遠き日々の思い出(2023年)
売上全額をWWFへ寄付致しました

 自然の中での人間の愚行に思いを馳せていくと、例えばカードを作るといった自分の小さな創作活動の一つに対してすら何かしら矛盾の類を感じざるを得ない程に途方もないですが、愚の人間の一人としてせめて考えることはやめずに暮らしていきたいと思っています。

 パンデミック状況下における霧とリボンさんの偉大な発明である『モーヴ街』は、それに限らず色んな状況下にいらっしゃる沢山の方々の希望となっていることでしょう。そんなモーヴ街の10番地に滞在させていただけること、このように皆様とお会いすることができることに心より感謝です。

フランスガム|モーヴ街(2022年)

 モデルとして(勝手にですが)ご登場いただいた高柳カヨ子様、くるはらきみ様へもこの場をお借りして感謝を。そもそもこのお話はそんな出会いがなければ生まれなかった物語です。
 マダム・ロマランはそんな幸福を祝して今頃お向かいのマドモワゼル・イリスと乾杯していることでしょう。

 この度の五月のモーヴ街企画では、新しくできた絵本「彼方の鳥」と前作「マダム・ロマランのお話」(ポプリセットもあり)、彼方の鳥の挿絵原画作品と木製作品の一部通販を再開してくださることになりましたので、この機会にご覧いただけますと幸いです。

フランスガム
レゾンデートルの小箱ー彼方の鳥ー(2023)
フランスガム & Du Vert au Violet
絵本とポプリのセット『マダム・ロマラン』

 とても長くなりましたがこれからも10番地のマダム・ロマランと素敵な時をご一緒できたら嬉しいです。どうもありがとうございました!

2023年 5月
気の早い紫陽花の蕾が膨らんだ頃に
フランスガム

フランスガム個展《彼方の鳥》
霧とリボン 直営SHOP & ギャラリー エントランス

フランスガム|イラストレーター →HP
小林晃(aki kobayashi)という名前で雑誌や書籍、広告などの媒体で活動しています。フランスガムという名の元に、展示や様々な創作活動を行っています。
あなたのすごく近くにあるかもしれないし遠くにあるかもしれない、どこにもないかもしれないしどこかにあるかもしれない世界、を創作しています。



著者名|フランスガム
書籍名|彼方の鳥

ロマラン・シリーズ II
30ページ/16点カラーイラスト収録/B5版
発行年月日|2023年4月8日
発行所|フランスガム社

作家名|フランスガム
作品名|鳥の想い出

アクリルガッシュ・シリウス紙
作品サイズ|22m×29cm
額込みサイズ|30.5cm×39.5cm
制作年|2023年(新作)

作家名|フランスガム
作品名|茂みの中で

アクリルガッシュ・シリウス紙
作品サイズ|18cm×17.5cm
額込みサイズ|34cm×28cm
制作年|2023年(新作)

作家名|フランスガム
作品名|別れの予感

アクリルガッシュ・シリウス紙
作品サイズ|21m×13cm
額込みサイズ|30cm×24cm
制作年|2023年(新作)

作家名|フランスガム
作品名|レゾンデートルの小箱ー彼方の鳥ー

ウッドバーニング・アクリルガッシュ・朴材
作品サイズ| 10.5cm 六角形/高さ5cm
制作年|2023年(新作)

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