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note創作大賞 恋愛部門応募作。『50代からの生き方、恋愛についてのあれこれ』その7。高校時代の恋人と再会するとどうなるのか?

 駐車場に到着しエレベーターで三階に上がった。孝太は、僕が下に降りるとLINEが入っていたけれど、二次会前に少しは二人の時間が欲しかったので、そのままそこに居てと伝え三階まで上がった。
 エレベーターが三階に到着し扉が開いた。一階は混んでいたけど三階まで上がると空いていて数台の車しかなかった。
 その時、一台の車のドアが開き、
「お〜い雪乃、こっち」と声がした。
 その声を聞いた瞬間、子宮が疼いた。身体の頭のてっぺんからつま先まで電流が走った。孝太が私の視界の中に居る。満月の月明かりに照らされた孝太がただ一人立っている。三十数年ぶりに肉眼で確認した孝太。
 緊張からか嬉しさのあまりか、一瞬ふらつき眼の前が暗くなり一瞬気を失ったのかと思った。目を閉じ深呼吸をしてから目を開けた。
 眼の前に、高校生の孝太が立っていた。
 私は、
「遅いよ、孝太」と自然に声が出た。三十年以上時間はたっているけど、緊張も何もなく声が出た。その声は五十代のおばさんの声じゃなかった。普段よりも高いトーンで、その声には孝太への甘えが入っている。
 その私に孝太が、
「ごめん、ごめん」と答える。
 私は孝太のもとに走っていく。普段あまり走ることなんかないのに。違和感なく走っている。しかも軽やかに。
 そして、体ごとぶつかるように全身を孝太に預けた。その体を孝太はしっかりと抱きしめた。強く。激しく。
「遅いよ」私の声が甘えている。
「ごめん」優しく孝太は受け止める。
「会いたかった」私はもう泣きそうだ。
「俺も会いたかった」孝太は私の頭を撫でた。
 そこに居るのは、十七歳の私と十七歳の孝太。
 孝太に抱きしめられながら、十七歳の私が、五十歳の私に話しかけてくる。

 ずっと、孝太を忘れられないと思ってたみたいだけどそうじゃないのよ。十七歳の私がずっと居たのよ。私のなかに。』
『孝太が好きで好きでたまらなくて、青春のすべてが孝太で埋め尽くされていて、ほんとに何をしてる時も楽しくて、少し会えないだけでも、泣きそうになるほど切なくて、すぐにやきもちを焼いて、焼かれて、苦しくて。でも、最高に甘くて。全身全霊で孝太を求めてた。孝太が私の青春だった。
 青春時代の恋は、自分たちでもなぜ、そんなに燃え上がるのかわからない炎をまっすぐにあげていて、その炎をどうしていいのか自分たちでもわからずに、別れることになってしまって、そして、その別れを受け入れられなくて、毎日、別れたくないよって泣いていて、でも、どんどん時間はすぎていって、その間にどんどん私も、私のまわりも前に進んでいった。
 気がつけば十八歳になった私は、高校を卒業して、就職して、新しい恋をして、知らぬ間に十九歳になっていた私は、また別れて、それで、また新しい恋をして、それを繰り返して、転職もして、結婚して、子供を産んで育てていた。その間ずっと私は私の中に居たのよ。
 そっか、そうだったのか。やっとわかった。孝太を忘れられないんじゃなくて、孝太のことを好きで好きでたまらない十七歳の私がそのまま私の中にいたのか。思い出じゃなかったんだ。だから、思い出というにはあまりにも生々しかったのか。
 何十年たっても、昨日のことのように孝太を思い出していた。そのわけがわかった。
 そうよ、わかった。と、十七歳の私は話しかけてきた。私は孝太と会いたかったの。どうしても。もう一度。そのために私は、そのまま私の中で成長することなく、居場所を作って静かにそっと存在していたの。もう一度、孝太と会うために。その日が今日、やっと来たの。ありがとう。五十歳の私。年取ったね。もう少しだけ私に時間をちょうだいね。
 十七歳の私と話している間に、二人は、身体をぶつけるようにして抱き合い、その後、一言も言葉を交わすことなく、キスをした。そのまま二人は身体を車の中にいれた。
 激しく濃厚なキス。知らぬ間に手は激しくお互いの身体を弄りあった。服があるのがもどかしい。その後は夢中で何がなんだかわからない。やがて、電流が私の子宮から脳天を貫く。孝太によって、私は別の世界へと運ばれた。
 鳴き声のような、うめき声のような叫び声のような歓喜の声が車の中に充満する。その声は確実に車の外に漏れているだろう。
 その後、私の手、口に導かれ何度も何度も孝太は男の強さを示した。ここはどこかすらわからない。今が五十代の私なのか、十七歳の私なのかもわからない。ただめくるめく快楽の中に深く身を沈めていった。
 
 ずっと好きだった。ずっと会いたかった。
 僕もずっと好きだった。ずっと会いたかった。ずっとこうしたかった。
 
 事が終わった。
 十七歳の私と孝太は、こんなにも激しかったのか。
 二人は、知らぬ間に二人は裸で抱き合っていた。いつどう脱いだのかわからない。 
 孝太がきつく私を抱きしめ頭を撫でてくれた。私は目を瞑った。
 十七歳の私が現れた。
 満ち足りた表情で、ありがとうと言った。
 もう、満足したの。
 うん。大満足。私の願いは叶ったわ。
 五十歳の私が、終わったの。と聞いた。
 終わったわ。
 孝太に何も話すことはないの。と聞いた。
 もう全部話したわ。言葉ではなく、もっと深い部分でね。お互い、どれだけ深く愛し合っていたのか。確認出来たわ。もう十分。今までありがとう。
 十七歳の私が立ち去ろうとする。私は、声を掛けた。
 十七歳の私は、どうなるの。
 これで消えるわ。
 消え去る十七歳の私に向かって、大きな声で、消えるとどうなるの。と聞いた。
 十七歳の私は笑って、青春が終わるのよ。
 私は、今まで青春だったの。そうよ、青春が残っていたのよ。
 じゃ、私は一気に私は年をとるの。
 それは自分の心がけ次第でしょ。
 頑張って、五十歳のワタシ。
 孝太とはこれからどうなるの。
 さぁ、五十歳の私がどうしたいのか。それは十七歳の私にはわからないわ。自分で考えて。
 じゃ、私、そろそろ行くわね。
 十七歳の私が消えた。

 すっと、意識がクリアになってきた。
 そこには、裸の五十代のおじさんとおばさんがいた。

 私は服を探した。孝太も服を探した。二人共照れながら、
 「すごかったね」と孝太が言った。
 「うん、すごかった。明日大丈夫」と私が聞くと、
 「無理かも」と笑った。
 
 孝太が時間を確認した。
「どうする。二次会に戻る」と聞いてきた。
「まさか。化粧も取れてるし、何をしてきたのかって思われる」と笑うと、 
「そっか」二人共黙った。先に孝太が口を開いた。
「高校時代、一番熱い時に瞳に恋をして、別れて、でも、その後もずっと思い続けてきて、そして、それぞれの人生を生きて、30年以上たって再会できた。嬉しかった」としみじみと言った。
「私も会いたかった、ずっと会いたかった。今日ようやくその思いが実った」二人共また黙った。また、孝太が先に口を開いた。
「また会いたい」
 私は、首を横に振った。
「これが私達のクライマックスよ。私にとっては、人生のクライマックスでもあるかな。人生の最高潮が今日。この時が私の人生の集大成。これ以上の日はないよ。この先会っても、今日以上の日はないよ。私には。孝太はどう」
 孝太は考えている。私が続けて、
「私はね、私の家族が大事。良い家族を作ってこれたって思ってる。最高の家族よ。孝太はどう」
「うちもまあ、良い家族かな」
「でしょ。それでいいの。それで。これ以上はない人生よ。そして今日は最高の時間を過ごせた。最高のプレゼントよ」孝太は前を向いたまま黙っている。私は
「高校時代、最高に楽しい時間を過ごせた。それは孝太のおかげ。その後、私は色々な恋愛をして、そして結婚した。その間ずっと孝太が心の中にいたよ。ずっと居た。ずっと好きやった。でも、私は頑張って生きてきて、最高の家族を作った。でも、一番好きだったのは、孝太。人生で一番好きだったのは孝太。その孝太と再会出来て、セックス出来た」と言って私は笑った。そのまま言葉を続けて
「これでもういい。今日が私の人生のクライマックス。ほんとにありがとう。でも、もう、この先はないよ。孝太。ほんとにありがとう」孝太が口を開いた。
「僕もそう。ずっと雪乃のことが忘れられなかったし、好きやった。でも家族も大事。これが最高の一日やと思うし、これ以上の日はないと思う。でも、もう一度会いたい」
 一瞬私の心が通じないのかと思った。孝太は、
「だって車やもん」と笑った。その笑顔が憎らしいほど、私の好きな顔だった。
「どういうこと」と自分でも驚くほど優しい声がでた。
「最後が車はまずいかな。もっと広いところでデーンと寝転がって抱き合いたい」二人とも顔を見合わせて、クククッとひきつった笑いをして、その後だんだんとその笑いは大きくなっていき最後は二人とも大声で笑った。これだけ笑うと、もう私に会わないという選択はなくなっていた。

 

#創作大賞2024 #恋愛小説部門

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