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note創作大賞 恋愛部門応募作。『50代からの生き方、恋愛についてのあれこれ』その2。セックスレスの男が他の女性と体験しできるようになって、妻ともできるようになった。それは不倫なのか。


その恋は「できるようにしてあげよっか」の一言から始まった。


 三日間の社外研修があり、その研修終わりに参加していた五十代の人たちばかりで呑みに行った。気が合い、その後もたまに呑みに出かけるようになった。
 その呑み友達の中の一人の女性、朝井雪乃さんが酔った際に周りに聞こえない声で
「セックスレスなの?それならできるようにしてあげよっか」と僕の耳元で囁いた。顔を見るとクスっと小悪魔のような笑みを浮かべていた。
「なんで僕がセックスレスだと知ってるの」と聞くと、前回の飲み会の時に酔ってそんな話しをしていたらしい。
 実際僕はセックスレスになってからすでに十年経っており、折り紙付きのセックスレスだった。夫婦仲はそれで十分うまくいっておりそれでいいと思っていた。そのことを話すと、したくないのと聞かれた。
「そりゃしたいけど」と歯切れ悪く答えると、
「市山さんは私としたくない?」と聞かれた。そりゃしたいけど、とまた同じ答えをすると
「できなかったら恥ずかしい?それとも奥さんが怖い?」と聞かれ、少し考えてから、
「両方かな」と答えると、素直でよろしいと笑われた。
「できるようにしてあげよっか」と悪魔の囁きが再び聞こえた。
「そんなん無理やん」と僕は、十年以上していないこと。セックスの無い生活が普通になっていること。嫁とはかなり努力したけど、自分のものが全然反応しなくなって努力をやめたこと。結構精神的に辛かったことなどを伝えた。
「私自信あるよ。市山さんをできるようにする」とまた悪魔の囁きが聞こえた。
「朝井さんは、そんなにテクニックに自信あるの」
「そりゃ、結婚して三十年途切れることなくしてるもん」と自信満々の笑顔で言うので、
「それだけ」と聞くと
「それだけって」と問い返されたので、
「旦那さんだけ」と重ねて聞くと
 「それはご想像にお任せします」と否定しなかったので、旦那さん以外にも経験があるのだろう。そうでなければそこまで自信を持ってこんなに直接的な迫り方をしないだろう。
「私として、できるようになって、奥さんともできるようになれば一番いいやん」
「うちの嫁、まだしたいって思ってるんかなぁ」
「そんなんしたいと思ってるに決まってやん」とお前はいったい何を言っているんだそんなの当たり前だろとばかりに睨まれた。
「私として、できるようになって、奥さんとも出来た。それで奥さんが喜んだ。それって悪いこと。夫婦のこれからを考えた場合すごくいいことじゃない」
「まあ、そりゃそうやけろうけど」
「自信がないの」と聞くので、うん。と頷くと、
「任せといて」と朝井さんは胸を張った。
 「でも、朝井さんとこは旦那さん、大丈夫なの」と聞くと、うちは大丈夫と朝井さんの家庭の事情を説明してくれた。

独立宣言をした主婦

 朝井さんは現在五十二歳。僕と同じ年の五十歳になった時に、現在のうちと同じく子供が独立した。
 その時に、独立宣言をしたらしい。
 一つ、ご飯は作りません。自分の食べたいものを作り自分で食べます。もしくは買ってくるか外で食べてくる。洗い物も自分の分しかしません。洗濯も掃除もこれからは、当番制にしましょう。家計はもともと決まった額を家庭にそれぞれ入れてそれ以外は自由にしていたので、そのまま継続。というルールを定めたということだった。
 結婚して、子育てをして、そして、フルタイムで働いて、どれだけ頑張ってきたか。その頑張りは、子育てが終われば自由にする。それはそこから自分の人生を楽しむためだった。
 そのことを旦那さんと子供に宣言したらしい。
「旦那さん受け入れたの」
「受け入れないと離婚やもん。家の土地はもともと私の親からのものかやから私名義やし、受け入れるしかないのよ」
 朝井さんは、少し話すだけで自己主張をはっきりと伝え、反論すれば、きっちりと何倍にもなって返してくるという人であるのが何回か呑んだだけでわかるので、旦那さんも本当は別のことを思っていても反論はできないだろうなって思った。そう思わせるものが朝井さんにはある。それは仕事でも部下を何人も抱える部署の部長の肩書でもわかった。旦那さんとの夜の仲も聞いてみたけど、今でも月に数回はあるということだった。それを普通でしょ。と当然のように言ったけどセックスレスの夫婦からみると何が普通かわからなかった。でも、朝井さんがそういうならそうなんだろうと納得した。
 朝井さんは、その独立宣言以降、五十歳になってからの二年は本当に楽しいということだった。
 人生を楽しむ。
 朝井さんの生き方が正解なのかどうかはわからないけど、憧れるものはあった。
 しかし、それで僕と朝井さんがすぐに結ばれたわけではない。
 ホテルには行ったが、やはり僕のあそこは大きくならずに終わった。
 でも、その時間は本当に楽しかった。それは朝井さんの魅力だろう。僕のあそこが全く反応しなくても全然気にしなくていいよと、笑顔で何度も言ってくれて、ただ抱き合ったり、触りあったり、キスしたり、ふざけあって馬鹿笑いしたり、久しぶりに心底楽しいと思える時間だった。
「大丈夫、少しだけど反応してるからきっとできるようになるから」と何度も言ってくれた。
 

循環が大事

 『循環が大事』と何度か言われた。反応さえしていたら、あと循環させるの。会ってない間にも一人でしてね。少しでもあそこから液体が出たらいいから。循環させることよ。半信半疑だったけど、朝井さんの言うことには説得力があった。
 次は三週間後にあって、言われた通りにその間にも一人でして、その報告をした。うんうんと頷いて聞いて、最後に大丈夫とまた言ってくれた。
 でも、二度目もだめだった。
「大丈夫、反応は前回よりもしっかりしてるから。安心して」と励まされた。
 結局出来たのは四回目だった。 
 その時は嬉しくて、なんとその日に二回もしてしまった。
 それから僕と朝井さんの関係は継続し、不倫関係になった。
 その付き合いは本当に楽しい。友達のような楽しみと、恋人のような甘い時間の両方を楽しめている感じだ。
 朝井さんも楽しいと言ってくれている。会えば会うほど楽しくなる。
 できなかった人ができるようになって、しかも段々とやることが成長してきてると褒めてくれる。この年になっても褒められるって嬉しいものだ。
 妻とはその後もしていない。朝井さんは僕に、奥さんともできるはずだからしてあげてね。というけれど、その気にはならなかった。それにいきなり妻にしようか、なんて言えない。どうしたのと聞かれたら返事にこまる。それに妻も五十代の人生を子育て期間にできなかったこと、ライブに行ったり楽しんでいる。仕事もやりがいがあるようだ。
 お互いに晩年にはいり第二の人生が始まったようだ。


 





#創作大賞2024 #恋愛小説部門

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