見出し画像

感傷日記/女の秘めごと

10月。

ルチオ・フルチの「女の秘めごと」(1969)、面白かった!
男が心臓発作で死んだはずの妻をストリップ・クラブで見つける、サンフランシスコを舞台にしたもうひとつの「めまい」。
ただし、イタリア映画なのでキャストは全員イタリア語を喋っている。
鏡を使った演出やスプリット・スクリーンの場面がいかにも60年代らしくていい。エルザ・マルティネッリ演じる女性フォトグラファーによるヌード・グラビアの撮影シーンや、妻/謎の女のマリーザ・メルが豹柄のロングブーツ姿でバイクにまたがって踊るストリップ、ピンクのシーツ越しや透明な床下から撮影した思わせぶりなラブ・シーン、サバービア時代から有名なリズ・オルトラーニのかっこいいスコアなど、私がこういう映画に欲しいものは全部揃っているし、ラストの仕掛けも効いていた。
しかし作品の内容のせいか、初めて見るはずのマリーザ・メルに既視感がある。オリビア・ワイルドによく似ているせいかな。と思って本棚を振り向いたら、タッシェンの写真本の背表紙に元祖パパラッチことタツィオ・セッキアローリによる彼女の完璧なポートレートがあって、こちらを見返していた。

引き続き、「ルチオ・フルチのザ・サイキック」(1977)を見る。
舞台はイタリアだが、登場人物は全員英語を喋っている。
ジェニファー・オニール演じるヒロインは人の死を幻視する女性。幼少期、崖から飛び降りる母のビジョンを離れた場所で見てしまったことがある。母親の顔が壁面でえぐれるシーンに、フルチの本領が垣間見えた。(私は“フルチにしては残酷描写が控えめ”とキャプションに書かれたものを選んで見ている)
ヒロインとその義理の姉のファッションが素晴らしく、スタイリストは誰だろうとクレジットをさらってみたが、いつもフルチと組んでいる衣装係だという以上のことは分からず。フランスともアメリカとも違う、ああいうゴージャスな装いがイタリアらしさなのかもしれない。毛皮の提供はフェンディで、キーとなる腕時計はPigetのものだ。
ヒロインが幻視する赤いダマスク織りの壁紙の部屋、マントルピースの上の倒れた胸像といったイメージが、美しくゴージャスであるのと同時に絶妙にチープでもあって、ジャンル映画にはこの匙加減が重要なのではないかと思う。ニコラス・ローグの「赤い影」のディフュージョンみたいな。(褒めている)ジェニファー・オニールのグレイがかった緑の瞳が、フルチ特有の極端な目のアップで映える。
「女の秘めごと」に続き、ラスト間際の解決編にひねりがあって洒落ていた。

「ルチオ・フルチのマーダーロック」(1984)を見る。
舞台はニューヨークだが、登場人物は全員イタリア語を喋っている。
「フラッシュダンス」のヒットに便乗して作られた映画で、名門ダンス・スクールで連続殺人事件が発生! という筋書き。アベル・フェラーラが同時期に撮った「処刑都市」をちょっと思い出したが、ダンスに関してはあちらのストリップ・シーンの方が上だった。キース・エマーソンの無駄にきらびやかなシンセのスコアとダンス・シーンがきれいにシンクロしないのが惜しい。
でも何度もダンス講師の(瞳が美しい)オルガ・カルラトスの夢に出てきた男が、街の巨大ビルボードに現れるところなど、ハッとするようなシーンも多い。「処刑都市」よりも、ジョン・カーペンターが脚本を手がけたアーヴィン・カーシュナーの「アイズ」に近い感触。「アイズ」、大好きだ。ディスク化されたら欲しい。
殺されるダンサーの一人がベビーシッターのバイト中に読んでいる本がジョー・ゴアズ「野獣の血」で、こういう女の子が読みそうにない内容だが、この前に見た「ユーロ・クライム! 70年代イタリア犯罪アクション映画の世界」は何かああいう筋書きの作品ばかり出てきた。

ジャッロ映画、一旦ルチオ・フルチの作品は休んで、次はマリオ・バーヴァの映画(の中から私が好きそうなもの)をゆっくり見ていきたい。U-Nextは何故か彼の映画が異様なくらい充実している。私が見たことがあるのは「クレージー・キラー 悪魔の焼却炉」だけで、その昔、テレビの再放送で見た70年代の「土曜ワイド劇場」の怪奇ものみたいだな、と思った覚えがある。それだけジャッロの演出に影響を受けた監督が多いという証なのかもしれない。
とりあえず、エドガー・ライトの「ラストナイト・イン・ソーホー」元ネタでもある「モデル連続殺人事件」を見たい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?