城定夫「美人妻白書 隣の芝は」
城定夫「美人妻白書 隣の芝は」
売れないライター柴田民夫夫婦(吉岡睦雄と黒木歩)の隣部屋に引っ越して来た芝田麻子夫妻(古川いおりと泊帝)。民夫は偶然「シバタ」違いの人妻・麻子(古川いおり)と知り合い深い関係になる。登山電車を登る様に求め合う二人の運命や如何に!隣の芝はホントに青かった。観終わった後の幸福感が堪らない大傑作。
わずか65分の尺の中に、ことわざ「隣の芝生は青く見える」イタリア民謡「フニクリ・フニクラ(登山電車)」「パレート改善」など、無数のモチーフを散りばめ、それらが響き合ってオーケストラのようにロマンチックなハーモニーを奏でる。城定秀夫はやっぱり天才だ!
モチーフや登場人物が多い映画として、私は常に滝田洋二郎のデビュー作「痴漢女教師」をイメージするのだが、良い映画監督というのは、雑多なモチーフやエピソードを放り込んでも、きちんと物語が整理され、観る者に一切のストレスを与えない。だから濡れ場もスケベに堪能できる。
ここで質問、既婚者の人に聞きます。あなたはロマンチスト?それともリアリスト?私はロマンチストです。ああ、妻もロマンチストで良かった。この作品を観終わった後、心底そう思います。
柴田夫婦の不仲の最大の要因、それは、小説家志望の夫・民夫は「ロマンチスト」なのに、妻で不動産会社勤務の由美は「リアリスト」ロマンチストの理想的な結婚観、それは大恋愛した末に結婚した奥さんと一戸建ての家に住み、子供は二人出来て、ずっと仲良く夫婦一緒に暮す。それが理想の夫婦生活。
なぜ、そんなことを断言できるかですって?それは、私自身のことだからです。私は娘が幼い頃、嫁さんが岩崎宏美の「すみれ色の涙」を口ずさみながら、なぜか感極まって、ちょっと泣いているのを見て「ああ、この人と結婚して良かったなあ」と思ったものです。そうです、妻は、私以上のロマンチストなのです。夜、星空を眺めるのが大好きな。
城定監督と奥さんは、恐らく揃ってロマンチストなんだと思います。どんな家に住んでるか、子供がいるかまで分かりませんが(笑)きっと夫婦仲良くいつまでも、と思っている事でしょう。なぜなら、趣味が、特技が一緒だから。なので、この作品で唯一の高いハードルは、民夫の妻(黒木歩)と、麻子の夫(泊帝)を「リアリスト」にするのは良いとして、どう描くか?
ロマンチストの人にとって最大の壁は、そうでない人って、一体どんな脳内構造してるんだろう?という想像の世界です。リアリスト、だから取り敢えず「リアルエステート」なのは良いとして(←上手いこと言ったと思うなよw)黒木歩と泊帝にも、もう一つの理想の夫婦像を見せてもらわなければならない、ここがポイントなのです。
偶然の積み重ね、というものは、実は必然である。これは「パレート改善」などよりも、もっと確かで大事な法則。「こうありたい」と想うことの強さが、いくつもの偶然の連続により、なるべくした結果に導かれる。ただ、恋のキューピット役は宅配便の麻木貴仁だが(笑)
この物語は、月曜日の夜に始まって、土曜日の夜にいったん、終わる。そして、「パレート改善」が施され(笑)恐らくまた、新しい月曜日が始まる。人生とは、一週間というスパンをグルグルと変わり続ける無限のサイクル。でも、良くない無限は永遠ではない。良い無限に変えることは、可能なのだ。
柴田民夫は売れないライターだが、元々は小説家志望である。彼は、ちゃんとした文学を書きたいが、発想ができない。で、AVを観て素人投稿をするような、不本意な仕事でもこなさざるを得ない。キャリアウーマンの妻・由美(黒木歩、本作では宮村恋名義)との仲もギクシャク、地獄のような毎日を送っている。
柴田民夫目線で語られ続ける物語は、やがて隣に引っ越して来た美人妻・芝田麻子との偶然の出会いをきっかけに、劇的に変化していく。ライターの仕事なので妻を送り出した後は一日中家にいる民夫にとって、専業主婦の麻子と深い関係になるには、時間はかからなかった。
でも、この作品の白眉は、「深い関係になるまで時間はかからない」などと、簡単に言うなよ!という話である。いくら、隣の家に美人妻が引っ越して来たって、彼女の裸やセックスを妄想して自慰するまでが関の山で、ホントに知り合って、しかも肉体関係までいくことなんて、一生に一回、も無いだろう(笑)
劇伴に使用される「フニクリ・フニクラ」は5回、使用される。イタリア民謡で、ナポリ地方の登山鉄道が開業した際、来客不振に悩む鉄道会社が広告宣伝のために作曲して貰った曲。だから、登山鉄道をゆっくり登っていくような楽しさに満ち溢れた、本来は楽しい軽やかな曲なのです。
最初の2回は、麻子がベランダで憂鬱そうに、楽しそうにハミングし、こっそり様子を伺う民夫を誘う合図となる。でも、3回目からは、軽快なアレンジに劇的に変換、まるで「愛のコリーダ」の如く、部屋に閉じこもってセックスに耽る民夫と麻子の運命的な出会いを祝福する。
そして4回目は、何と、民夫と麻子にそれぞれ内緒で、「OLと温泉」「「出張」とウソをついて不倫旅行していた、民子の妻と麻子の夫のセックスに劇伴で流れる。そして、重要かつ必殺の隠しアイテムである「セクシー下着」が見ている我々に止めを刺す。
5回目はエンディングである。ここで「フニクリ・フニクラ」が流れるのは、実は柴田夫婦も芝田夫婦も結婚5年目だった。別れて再び別の組み合わせの柴田夫婦と芝田夫婦になっても、この先一緒に年老いていくまで、あと何十年あるのか、まだまだ登山電車は登り続ける。見えない頂上を目指しながら。
「パレード改善」とは、「配分を変えることにより、誰も損することなく、一人以上の利得を高めること」である。そんなイメージはロマンチストの民夫と麻子の頭には毛頭なく、リアリストの由美と泊帝にしか描けない法則。だからこそ、二組の夫婦はシャッフルが可能なのである。
前置きが長くなりましたが(←長すぎるよw)曜日の順を追って、物語を書き出したい。なお、濡れ場で展開される古川いおりと吉岡睦雄の濃厚なFUCKシーンは「これでR-15なの?」と思う位にどエロく、ホントは濡れ場だけでも十分ヌケますが(←おいおいw)緻密な構成でできている。
月曜日
夜、民夫は由美とベッドの上で愛し合っている。いや、いない(笑)汗をどっとかいている民夫は、由美を抱こうとするとインポになってしまう。AVを見ると勃起するのに、だw怒った由美は寝てしまい、民夫はキッチンで煙草を一服するが、それすら、由美は注意する。由美は不動産会社で働き家庭を支えるリアリスト。でも民夫は小説家の夢を追いかけ売れないライター稼業を続ける「ロマンチスト」であった。
火曜日
朝、由美が出かけた後、民夫はゴミ出しに遅れてしまう。由美が怒る顔が浮かぶ。ふてくされて部屋に戻る民夫は、隣の部屋から出てきた麻子とぶつかってしまう。麻子とは、空き部屋だった隣室に引っ越して来たばかりの美人妻だった。表札を貼る手伝いをしていて、民夫は麻子の苗字が芝田、自分は柴田「シバタ違い」と気づく。
民夫の仕事はAVを観てレビューを書くエロライター。仕事抜きでAVを観て夢中でマスを掻く民夫は、由美でなければ勃起も射精もできた。でも、原稿は全然、進んでいない。
夜、帰宅した由美に「隣にシバタさん、引っ越して来たんだぜ」と声をかける民夫。でも由美は仕事中。「話しかけないで」と怒るくせに、「ゴミ出ししなかったでしょ」とまた、怒る。「明日は、接待で遅くなるからね!」黄昏てベランダに出た民夫は、隣のベランダから麻子が「フニクリ・フニクラ」をハミングするのを聞く。彼女はワインを飲んで、酔いつぶれていた。
水曜日
朝、ゴミ出しに間に合った民夫は、戻って来て結局はAVを観てオナニーしてしまう(笑)ここに♬ピンポーン♬宅急便(麻木貴仁)だ。編集者・獅子奮迅が資料用に送って来たエロ雑誌の山だった。そしてもうひと箱、粗忽な麻木貴仁は、間違えて芝田さん宛の荷物まで民夫に渡してしまった。
民夫が間違えて芝田さん宛の荷物を開けてみると、それはどエロいピンクのブラとTバックであった(笑)民夫は筆が進まず机に向かって悩むうち、美人妻の麻子が夫に命令されて、このピンクのブラとTバックを履き、ブラからは乳首だけ出ているので、それをチューチュー吸われ、「お仕置きだ」と正常位で責められる痴態を想像し、エロ妄想のお蔭で、筆が進んだ。
民夫はΣ(゚Д゚)と我に返る「陳腐だなあ、これ。ライター止めようかな」取り敢えず、勇気を出して、隣の芝田さんに荷物を届けに行く。応対した麻子は、荷物を見ると「これ、私用じゃないから。主人が愛人用に注文した奴だ」そして突然の嘔吐!何事だ、と思わず芝田さん家に入っちゃう民夫w麻子は、昼間から自棄ウォッカをガブ飲みしていた。
民夫がソファに腰掛けてると「隣、座っていいですか?」と尋ねる麻子「ここ、自分の家ですよ」呆れて答える民夫。麻子は「主人、私に隠しもせず、シャツに香水の匂い付けて帰宅するんですよ」自棄ウォッカをガブ飲みし続ける。民夫は麻子からウォッカを取り上げようとして、はずみでキスしてしまった。
慌てて離れる麻子。民夫は「すみませんでした!」と渾身の土下座。芝田さん家を出ようとすると、玄関に麻子が立ちはだかって通さない。麻子は民夫に自分と同じ匂いを感じてしまった。それは夫の愛人が付けている香水とは全く違う、官能的な香りだった。
二人は夢中でもつれ合うようにベッドに入り、民夫は麻子のおっぱいを揉み、麻子も民夫のチンコを愛おしそうに触る。もうボッキボキに勃起した民夫は、正常位で麻子を貫いた「い、いたい!」麻子は夫と結婚5年目、夫から久しく愛されていなかった。民夫も結婚5年目だった。
家に帰ると、民夫は少し元気になった。エロ小説を書くスピードも上がった。麻子のことを思い浮かべながら、書き始めたのだ。
隣のベランダから、また麻子の「フニクリ・フニクラ」のハミングが聞こえて来る。でも、楽しそうだ。麻子は自棄酒は止め、コーヒーを飲んでいた。
民夫はこっそり芝田家のベランダに忍び込む。互いの妻と夫に聞こえぬよう、二人は声を押し殺すように、満月の見えるベランダで、ロマンチックに対面座位でFUCKした。古川いおりの、上半身セーター、下半身すっぽんぽんで吉岡に跨って腰を振る痴態はどうしようもなく、エロい!
木曜日
朝、麻子の夫が出勤するなり、入れ替わるように入って来る民夫。二人はもう、恋人同士のようにラブラブになっていた。仰向けの民夫の勃起したチンコをワンワンスタイルでフェラする麻子の突き出したケツにピッチピチのパンティがどエロくて堪らん!お返しに民夫も麻子のアソコをクン二、二人は朝から夕方まで、身体をピッタリ密着させ、何度も絶頂に達しては、また求め合った。
麻子は、民夫に「小説家なんでしょ。今度はあなたの仕事場に私が行ってみたい」でも、民夫は大丈夫。妻の由美はOL3人で温泉旅行。週末の三連休は不在なのだ。でも、麻子はどうなんだろう?麻子も大丈夫だったw夫の泊帝(←芸名がちょうど、イイ感じw)も出張で三連休は留守なのだ。
金曜日・祝日
朝、民夫はいつになく、部屋をキレイに掃除し、ベッドメイキングして麻子を迎えた。麻子は「お泊りセット」「3日分の食材」を抱え、リュックサックを背負って、もう遠足気分。元気はつらつの古川いおりちゃん、可愛い(*'▽')そして、昼食を取るなり、二人は風呂場で身体を洗いっこしながら、さっそく対面座位でFUCKし始めた。
民夫と麻子のFUCKはエンドレスで続く。食事をとるのも惜しいくらい、きつく抱き合い、何度も民夫は射精し、麻子はイッた。夜も差し迫る頃、民夫は麻子に「今日、何発したっけ?」麻子は「覚えてない」でも麻子が「もう無理でしょ?」と心配しても、フェラすると、民夫のモノはギンギンに勃起した。
土曜日
朝、鏡台の前で髪を梳く麻子「あなた、しあわせ?しあわせよ。でも、ここはあなたの家じゃない。知ってる、でもしあわせよ」鏡に映った自分に問わず語りする。麻子は気がついていた。鏡台に置いてある香水の匂い。それは、公然と浮気していた夫がシャツに付けていた匂いだった。
その頃、麻子の夫・泊帝は温泉に来ていた。でも、会社から電話が入り、急遽出社しなければならなくなった。布団の中で帝のチンコをフェラしているのは、民夫の妻。由美であった。二人は木曜日も一緒にいたし、この三連休は泊りがけで不倫旅行を楽しんでいた。
帝は浴衣の下にセクシー下着をつけた由美を愛撫し始めた。乳首だけ露出するセクシーブラ。履いたまま挿入できるTバック。民夫が間違えて受け取ってしまった、あのブラとTバックは、あろうことか、妻の由美が不倫でしようするためのセクシー下着であった。ここに「フニクリ・フニクラ」が流れる。仕事のためにセックスの時間も惜しい二人には、脱がなくてもセックスできる下着が最高だったのだ(笑)
由美と帝は不動産会社の同僚だった。お互いに仕事優先のハードワーカーで気が合ううちに、不倫関係になっていた。互いに伴侶とはセックスレスになっていた。布団の中で帝は「パレード改善って知ってる?」とその意味を由美に教える。それは、まんじゅうが好きな人と、せんべいが好きな人は、それを交換する理屈だった。
夜、帝は車に由美を乗せ、いったん帰宅することにする。カーナビをいじっているうち、二人は漢字違いの同姓「シバタ」であることは以前から分かっていたが、家までがマンションの隣同士であることを、初めて知った。帝が書類を取りに芝田家のドアを開け部屋に入ると、麻子はいなかった。そして、由美は自分の家から喘ぎ声がするのを聞いた「あの人、またAV観てるのかしら、しょうもない人ね」勢いよく柴田家のドアを開けた由美が見たものは・・・・・
ここで、スクリーンは暗転。
いろいろ面倒な話し合いや協議はあったが、結論は簡単。柴田家の夫婦は、民夫と麻子に、芝田家の夫婦は帝と由美に、シャッフルされた。麻子はお腹が大きい。妊娠したのだ。ロマンチストにとって最大の夢の一つ。愛する人の子供を持つこと。出社前の芝田夫婦と、ゴミ出ししようと家をでた柴田夫婦は、同時に玄関のドアを開け、照れ笑い。
ゴミ収集車はもう行ってしまった。帝と由美はダッシュで会社に向かったが、民夫と麻子は互いに言い聞かせるように「ゆっくり、ゆっくりと」いつぞや、荷物を間違えて届けた宅配の麻木貴仁が来た。粗忽なので、また間違えた。民夫はダンボールから本の山を取り出すと「一冊、差し上げます」それは民夫の処女小説「隣の芝は」であった。副題には「隣人が堪らないほど好きになる本」
麻木が「いやあ、私は粗忽者でして、よく間違えるんですよ」民夫は最後に、こう答えた「私もよく間違えるんです。これまでだって、ずっと帰る家を間違えてたんですから」
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