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「ランスロットとエレイン」第3回 エレインの死

こんにちは。
いつもお読みくださり、ありがとうございます。

今年初めて我が家の軒下に燕が巣をかけました。
燕が営をかけるのは縁起の良いこと、と言われているそうですね。
毎年、今ぐらいの時期になると屋外で燕をよく見かけるので、きっと近くに巣を作っているのだろう、と思っていました。いつか我が家にも来てくれないかな~と思っていたので、念願が叶いました。

待望の賓客、ということで、ドアもそーっと開け閉めしています。居心地が良ければ来年も来てくれるかもしれませんね。
燕のリピーター、大歓迎です。

3回にわたって訳してまいりました「ランスロットとエレイン」、今回で最終回となります。エレインが哀れで、もう涙腺がゆるくなってきています。ご一緒に最後までお読みいただけましたら幸いです。

※ 画像はソフィー・アンダーソンによる「ランスロットとエレイン」です。パブリック・ドメインからお借りしました。

「ランスロットとエレイン」第3回

エレインはガウェイン卿からダイヤモンドを受取ると、父上のところへ行きました。
「お怪我をなさった騎士様とラヴェインを探しに行かせて下さいませ」と彼女は言いました。「乙女たちが贈り物を身に付けて下さった騎士様方を看病するように、私もあの騎士様の手当てをしたいのです。」
 
父上は彼女を行かせてくれました。謹厳なトール卿に守られて、エレインは森の中へと馬を進め、あの庵の近くでラヴェインを見つけました。
「ランスロット卿のところへ連れて行って下さい」と麗しのエレインは叫びました。
ラヴェインは彼女があの騎士の名前を知っていたので驚きました。そこでエレインは兄にガウェイン卿のことや、彼がおざなりにランスロット卿を探索したことを話し、負傷した騎士のために彼女が携えてきたダイヤモンドを彼に見せました。「あの方のところへ連れて行って下さい」と彼女は再び叫びました。二人が行ってしまうと、トール卿は陰鬱な様子でアスタロトへと帰っていきました。と言いますのも、麗しのエレインがランスロット卿を愛しているなどと、彼には気に食わなかったのでした。
 
ラヴェインとエレインが隠者の庵に着きますと、隠者は美しい乙女を歓迎し、彼女をランスロットが横たわっている独居室へと案内しました。「騎士様はお顔の色が真っ青でやせていらっしゃいますね。私が手当てをいたしましょう」とエレインは言いました。
 
来る日も来る日も昼夜を通してエレインは、乙女がそうすべきように、愛情を込めて彼の看病を続けました。そしてついにある輝かしい朝のこと、隠者は彼女のおかげで騎士の生命が救われたことを告げました。その後、ランスロット卿の体力が回復しますと、エレインは彼にあのダイヤモンドを渡し、彼が骨折って勝ち取ったこの賞品を王がお遣わしになった次第を語りました。するとランスロットはじっとしていられず、もう一度王の宮廷に伺候したいと切に願いました。
 
馬に乗ることができるようになりますと、騎士はエレインとラヴェインと一緒にアストラトへと戻りました。アストラトに滞在している間に彼は考えました。「出立する前にあの百合の乙女に感謝し、私のためにしてくれたことの全てに報いなければならない。」しかし、彼がエレインにどのようにしてお礼すればよいか尋ねますと、彼女はただ、「あなた様のことをお慕い申し上げております、ラヴェイン同様、私も宮廷までお供しとうございます」とだけ答えるのでした。「あなたをお連れすることはできかねるのです」と騎士は丁寧に言いました。「でも、あなたが結婚なさったあかつきには、あなたとご夫君に毎年一千ポンドを差し上げましょう。」しかし、エレインはランスロット卿のおそばにいることの他は何も望みませんでした。
「あの騎士が我が百合の乙女をもう少し冷たく扱ってくれなければ、あれの心は折れてしまうだろう」と父上は悲しげにおっしゃいました。しかし、ランスロット卿には自分をあれほど優しく看病してくれた乙女につれなくすることはできませんでした。ですが、翌朝、盾を携えて馬で立ち去るとき、彼にはエレインが塔の自室の窓から彼を見つめているのがわかっていましたが、彼は見上げもせず、お別れに手をふることもしませんでした。エレインはもう二度とランスロット卿にお会いすることはかなわないのだ、と悟りました。
 
それから日一日と彼女の悲しみは募り、黙り込んで過ごすようになりました。「あの娘は死んでしまうだろう」と父上は彼女を見守りながら悲しそうにおっしゃいました。そして謹厳なトール卿は涙にむせびました。彼は妹を心から愛していたからです。ある日、エレインは父上に塔の小さな彼女の部屋へおいで下さい、と言ってよこしました。
「私が亡くなりましたら、私の願い通りになさってくださると約束してくださいませ。これからしたためます手紙を私の手にしっかりと握らせ、私に一番の晴れ着をお着せください。亡骸を川まで運び下ろし、平底の小舟に横たえ、あの年老いた口のきけない召使いだけを乗せて、私が宮殿へと運ばれるようにしてくださいませ。」父上は約束をなさいました。エレインが亡くなるとアストラトは大きな悲しみに包まれました。
 
そして父上は手紙を手に取り、彼女の手の中に結びつけました。亡骸の横には1本の百合を添えました。そして彼女に晴れ着を着せ、川へと運び下ろし、口のきけない年老いた召使い唯一人をお供に、彼女を小舟に横たえました。口のきけない老人に導かれて舟は静かに流れを漂いくだりました。
 
川から宮殿へと上がる階段のところに着きますと舟は止まりました。すると王と王妃、そして騎士達、貴婦人方が皆こぞってその不思議な光景を見にやってきました。王は美しい乙女の手から手紙を取り、それを読み上げました。「私はアストラトの百合の乙女でございます。ランスロット卿が私を置いていかれましたため、貴婦人の皆様に私の悲しみを訴えます。私の魂のために祈ってくださいませ。」これを聞きますと貴公子たちも貴婦人方も憐れを催してすすり泣きました。
 
ランスロット卿は悲しみながらエレインを埋葬しました。そして、その後も、彼を愛する女性たちが嫉妬深かったり冷淡だったりするような時には、彼はアストラトの百合の乙女の純粋で一途な愛を優しく思い出すのでした。

「ランスロットとエレイン」の物語はこれでお終いです。
最後までお読み下さりありがとうございました。

なお、拙訳のもととしました英文テキストは以下のとおりです。

 
この物語は詩人や画家にインスピレーションを与えてきたようです。
アルフレッド・テニソン(Alfred, Lord Tennyson 1809-1892)が書いた「シャロットの姫(The Lady of Shalott)」という作品は特に有名で、多くの画家が美しい絵を描いています。機会がありましたらまとめてご紹介したいと思います。

次回は「青髯公」をお送りいたします。
どうぞお楽しみに。




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