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[西洋の古い物語]「聖クリストフォロス」

こんにちは。
いつもお読みくださり、ありがとうございます。
思いがけず、嬉しいお知らせが届きました!
先週ご紹介させていただいた「違う葉を欲しがった木」の物語にスキしてくださいました皆様、どうもありがとうございました。
皆様のお支えとお励ましに心より厚く御礼申し上げます。
これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。

今日は、世界で最も偉大な王に仕えたいと願った大男クリストフォロスのお話です。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。

「聖クリストフォロス」

カナンの人クリストフォロスはたいへんな大男で、背丈は12キュービットもあり、恐ろしい顔つきをしておりました。彼がカナンの王に仕え、王のもとで暮らしておりましたとき、世界で最も偉大な君主を探し、その方にお仕えし、従いたいものだ、という考えが彼の心に浮かびました。
※カナンは、今のパレスチナの西部ヨルダン川と地中海の間の地方を指します。キュービットは古代の長さの単位。肘から中指の先端までの長さをいい、1キューピッドは46–56センチとのことです。
 
そこで彼は出発し、あるたいへん偉大な王のところへやってきました。世評によると、その方は世界で最も偉大な方とのことでした。王はクリストフォロスにお会いになると、彼を召し抱え、宮廷に住まわせました。
 
ある時、吟遊詩人が王の御前で歌を歌い、その歌の中で何度も悪魔の名を呼びました。すると、キリスト教徒であった王は、吟遊詩人が悪魔を呼ぶのを聞くと即座に十字のしるしを切るのでした。
 
クリストフォロスはそれを見て驚き、そのしるしが何を意味するのかを尋ねました。王が教えようとしませんので、クリストフォロスは言いました。「教えていただけないのでしたら、私はもうご一緒に暮らしません。」
そこで王は彼に言いました。「悪魔の名が呼ばれるのを聞くといつも、悪魔が私を苦しめたり悩ませたりしないよう、このしるしを切るのだ。」
 
するとクリストフォロスは王に言いました。「あなたは悪魔を恐れるのですか。それでは悪魔はあなたよりももっと強力で偉大なのですね。この世で最も強力で偉大な君主を見つけたと想っていたのに、期待を裏切られました!お暇いたします。私はこれから悪魔を探しに出かけ、悪魔を我が主とし、私は彼の僕となります。」
 
そしてクリストフォロスはこの王のもとを立ち去り、急いで悪魔を探しに行きました。広い荒野を通りかかったときのこと、彼は一群の騎士たちに出会いました。その内の一人、残酷で恐ろしい騎士が彼の方へやってきて、どこへ行くのかと尋ねました。
クリストフォロスは答えました。「我が主人とするため悪魔を探しに行くのです。」
するとその騎士は言いました。「私こそお前が探している者である。」
クリストフォロスは喜び、悪魔の僕になることを誓い、彼を自らの主人、君主としたのでした。
 
さて、彼らが道を進んでいきますと、真っ直ぐに立つ十字架を見つけました。十字架を見るやいなや、悪魔は恐れて逃げていきました。クリストフォロスはこれを見ると驚き、何故恐れるのか、何故逃げ去ったのかと尋ねました。しかし、悪魔はどうしても彼に教えようとはしませんでした。
するとクリストフォロスは彼に言いました。「教えてくださらないのなら、私は直ちにあなたのもとを去り、あなたにはもうお仕えいたしません。」
そこで悪魔は教えざるをえなくなり、こう言いました。「キリストを呼ばれるお方がおられた。十字架にかけられたお方だ。その方のしるしを見ると私はひどく恐ろしくなり、逃げ出すのだ。」
 
クリストフォロスは悪魔に言いました。「それではその方はあなたよりも偉大で強力なのですね。あなたはその方のしるしを恐れているのですから。私の苦労は無駄だったことがよくわかりました。この世で最も偉大な主を私はまだ見つけていなかったのです。もうあなたにはお仕えしません。私はキリストを探しに行きます。」
 
そしてクリストフォロスは、どこでキリストを見つけることができるか、長い間探し続けました。ついに彼は広大な荒野に入り、そこに住んでいる一人の隠者のもとへやってきました。彼は隠者にどこでキリストが見つかるかを尋ねました。
すると隠者は答えました。「お前がお仕えしたいと望む王は、お前がしばしば断食せねばならぬとお命じじゃ。」
クリストフォロスは言いました。「他のことをお命じくださればいたしましょう。しかし、断食はいたしかねます。」
 
隠者は言いました。「ならばお前は寝ずの行をして、たくさん祈らねばならない。」
クリストフォロスは言いました。「祈り方を知りませんから、いたしかねます。」
 
すると隠者は言いました。「あそこに深く広い河が見えるであろう。そこで多くの人々が命を落としてきたのじゃ。お前は体躯堂々、背丈も高く、手足も強い。だから河のそばに住んで、あそこを渡る全ての人々を運んで河を越させなさい。このことは我らが主、お前がお仕えしたいと望むイエス・キリストのお気に召すであろう。あの方がお前の前に御姿を現してくださることを私は信じておるぞ。」
クリストフォロスは言いました。「確かに、そのお勤めならうまくやれるでしょう。それを行うことをその方にお約束いたします。」
 
そこでクリストフォロスはその河へと行き、そこに自分の小屋を建てました。彼は水の中で自身を支えるため巨大な竿を手に持ち、あらゆる人々を背に載せて向こう岸へと渡しました。彼はそこに住み、長い間その仕事を行いました。
 
ある時、彼が小屋で眠っていますと、彼を呼ぶ子供の声が聞こえました。
「クリストフォロス、クリストフォロス、出てきて僕を渡しておくれよ。」
彼は目を醒まし出て行きましたが、誰もいませんでした。家にもどると、同じ声が叫ぶのが聞こえました。
「クリストフォロス、クリストフォロス、出てきて僕を渡しておくれよ。」
彼は駆け出てきましたが、誰もいませんでした。
 
三度目に呼ばれて走ってそこへ行った時、彼は一人の子供が川岸にいるのを見つけました。子共は自分を抱えて河を渡してほしいと彼にていねいに頼みました。
そこでクリストフォロスは子供を肩の上に抱き上げ、杖を手に取り、河を渡そうと水の中に入りました。すると河は水かさを増し、どんどん膨れ上がりました。そして子共は鉛のように重くなりました。クリストフォロスが進んでいくと水はますます増え、子供はますます重くなりました。クリストフォロスはひどく苦労し、溺れるのではないかと恐ろしくなりました。
 
たいそう苦労して危険を逃れ、河を渡りきりますと、彼は子供を地面に降ろして言いました。
「坊や、お前は私を大きな危険に陥れたのだよ。お前は全世界を背負っているかのように重かった。私にはこれ以上重い荷物を負うことはできないだろう。」
 
すると子供は答えました。「クリストフォロスよ、何も驚くことはない。何故なら、お前は全世界を負っただけではなく、全世界を創った者をお前の肩に負ったのだから。私はイエス・キリスト、お前が仕える王である。私が真実を述べているとお前にわかるよう、その杖をお前の家のそばの地面に刺しておくがよい、明日その杖が花と実をつけるのをお前は見るであろう。」
そして子供はたちまち彼の目の前から姿を消しました。
クリストフォロスは杖を地面に刺しました。翌日目覚めた彼は、その杖が花と葉をつけナツメヤシの実を実らせているのを見たのでした。

「聖クリストフォロス」はこれでお終いです。

聖クリストフォロスはキリスト教の殉教者で、旅行者の守護聖人、祝日は7月25日です。今日のお話は、聖人伝を集めた『黄金伝説』にも収録されています。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。
次回をどうぞお楽しみに。

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