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『7人の聖勇士の物語』第2章(2)

こんにちは。
ご訪問くださりありがとうございます。

昨日、通勤の電車内で座っていましたら、途中の駅で乗ってきた一人の女性が私の左横に座られました。淡いピンク色のふんわりしたワンピース、手には白いレースの長手袋・・・なんだか白鳥のような、優雅な空気をまとった方でした。お顔も見えませんでしたし、手袋で腕も隠れていましたので、お幾つぐらいの方なのかさえも、全くわかりませんでした。座り心地を直そうとしてか少し身じろぎなさると、ほのかな良い香りが漂ってきました。

「袖振り合うも他生の縁」とか申します。「道を行く時、見知らぬ人と袖が触れ合う程度のことも前世からの因縁による」という意味だそうです。たまたま電車で乗り合わせて隣同士に座り、互いにただ袖が触れ合っただけ、会釈すら交わさなかった方ですが、今生でもう一度どこかで出会えたらいいな、と思いました。

『7人の聖勇士の物語』の続きです。

『7人の聖勇士の物語』

第2章 聖ジョージ、6人の勇士を解放する(続き)

妖精のサブライナは言いました。
「城の中には6名の勇敢な騎士達が閉じ込められています。皆様、キリスト教を奉じる国の立派な勇者で、辛い運命を嘆き、解放されるのを切に願っておいでです。卑劣なカリブがまだ力を持っていたとしたら、あなたも同じようにあそこに閉じ込められてしまったことでしょう。でも、勇敢な王子様、あなたは忍耐と勇敢さと正しい判断によってカリブと彼女の魔法を打ち破られたのですから、あなたは7番目にして最も高名な勇者になられることは既に決まっていることです。ですから私はあなたを『楽しいイングランドの聖ジョージ』とお称えいたします。世界中、イングランドの力とイングランドの偉業が知られているところではどこでも、あなたは今後ずっとこの名で呼ばれるでしょう。」

この言葉を聞いた若い騎士の頬は、慎ましさのためにばら色に染まりました。そして彼は、今授かった誉れある称号に自らがふさわしいことを証しするため、常に精励努力することを誓いました。

彼が真鍮の城の城門を三度打つと入り口がさっと開きましたので、彼と妖精は中に入りました。6人の騎士たちは、何が起きたのかも知らず、部屋で座っておりました。サブライナが彼らの名前を呼びますと、彼らは立ち上がりました。

「1番目の方はフランスの聖デニス様です」と彼女は言いました。何度もお辞儀をしながら聖デニスはすばやく駆け寄り、聖ジョージに挨拶をしました。2番目のスペインの聖ジェームズはゆっくりと歩いてきて、カスク型の兜を持ち上げながら横柄な様子でお辞儀をしました。3番目のイタリアの聖アンソニーはもっとすばやく進み出て、兜を振り回しながら聖ジョージを抱きしめました。4番目のスコットランドの聖アンドルーは、寝椅子から起き上がると、どこから来たのかと尋ね、聖ジョージのほうへ近づきながら、彼が示した勇武に感謝しました。一方、5番目の聖パトリックは、これほど勇敢な騎士に会えたことに満面喜びをたたえ、聖ジョージの手をもぎ取らんばかりの勢いで握手をしました。そして、6番目のウェールズの聖ディビッドは、偉大な騎士道の偉業においては自分が第一人者であるが、自分の次に偉大な騎士によってこうして解放されたことにまさる喜びはない、と断言しました。
(※フランスの聖勇士は聖ドニ、スペインの聖勇士は聖ヤコブ、イタリアの聖勇士は聖アントニー、とそれぞれの原語の発音で訳すほうがよいのかな、と迷ったのですが、リチャード・ジョンソンの原典でもキングストンの翻案版でも、3人ともSt. Denis, St. James, St. Anthonyと英語表記で書かれていますので、ここでも英語の発音で訳すことにしました。また、「聖」はキリスト教の「聖人」であることを示す称号で、通常は生前には用いられないのですが、こちらも原典に従い「聖○○」と訳すことにしました。どうぞご了承くださいますようお願いいたします。)

騎士たちのほかに、6人の忠実な従者たちも、長年の間主人と運命をともにし、別々の地下牢に閉じ込められていました。聖ジョージは従者たちも解放し自由にすることをとても嬉しく思いました。従者たちは敬愛する主人たちと再会すると、かつてそうしていたように、主人の旅の準備を手伝いました。

そして、聖ジョージと6人の騎士たちは、サブライナの後に続いて城の厩へと行きました。そこには、馬飾りをつけて準備が整った、見たこともないような最高の駿馬が7頭おりました。

サブライナは言いました。「このうち6頭は勇敢な騎士様たちのものです。そして、7頭目は、ベアードという名前ですが、これはあなた(聖ジョージ)のものです。そして、こちらの6頭の駿馬は6名の従者様たちのものです。」

騎士たちは出発を望み、馬に跨がりました。従者たちも馬に乗りました。一方、サブライナは聖ジョージを案内して城へと戻りました。城内の部屋には、最上級のすばらしい武具が何揃いも数え切れないほど吊してありました。一番強い半甲冑を選ぶとサブライナはそれを聖ジョージの胸に留め金で装着し、兜の紐を締め、輝く鋼で完全に武装をととのえました。それから、強力な剣を一振り持ってきて、それを彼の手に握らせ、そして言いました。

「どんな王侯君主もこれほど豪華な武具を身に着けたことはありません。あなたの馬の強さと無敵の力はすばらしく、馬の背に乗っている間はいかなる騎士もあなたを打ち負かすことができません。お召しの武具は混ざり物のない純粋な鋼でできていますので、いかなる戦斧にも傷つけられないし、どんな武器も貫くことはできません。あなたの剣は、名前をアスケロンといいますが、一つ目の巨人キュークロープスによって作られました。この剣は最も堅い火打ち石も真っ二つに断ち、最強の鋼をも切り裂きます。柄頭には魔法の力が宿っているので、これを身に帯びている限り、裏切りや魔術があなたを負かすことはありませんし、いかなる暴力も受けません。」

親切な妖精がこのように話し終えると、聖ジョージは武具一式に身を固めて城外へと進み、ベアードに跨がると、他の勇者たちと共にカリブの「黒い森」を去る準備が整いました。サブライナは10羽の孔雀に引かせた自分の乗り物に乗り、道案内をしました。

その時、悲しげに嘆きつつ進む見知らぬ者の姿が目に入りました。

「ド・フィスティカフ!」と聖ジョージは朗らかな声で叫びました。「我が立派な父上の忠実な従者よ!」
ド・フィスティカフは、無理もないことですが、びっくりして、こちらへ走ってきました。自分を呼ぶその声にド・フィスティカフは聞き覚えがあったのですが、どこから聞こえたのかわかりませんでした。聖ジョージは半甲冑をはずして胸の上の緑の竜を見せました。その人が誰なのかがわかったド・フィスティカフは、相手を抱きしめてわっと泣き出しました。落着くと、ド・フィスティカフは若い主人の武具の留め金をかけ直し、自分の馬に跨がりました。

そして、一行は出発し、旅を続けて海岸へとやってきました。彼らは船に乗り、聖ジョージのたっての願いで、美しいコヴェントリーの町のほど近くに立つ彼の父上の城へと進んでいきました。そこで9ヶ月の間滞在し、聖ジョージの母上、薄命だった王女のお墓の上に立派な記念碑を建立した後、6名の騎士達は命がけの高貴な冒険を探し求めて再び出発したいという希望を口にしました。聖ジョージは嫌がるどころか、むしろ喜んで、彼らと同行すると約束しました。忠実なド・フィスティカフは「自分を置いていかないでください」と懇願しました。

というわけで、武装が整い、必要なものは全て十分に支度が調いましたので、彼らは忠実な従者を伴い、出発しました。そして、銘々別な方向へと別れる時がやってくるまで一緒に旅を続けました。その後、彼らにどんなことが起こったのか、どんな驚くべき偉業を彼らが成し遂げたのかについては、おいおいとお話しいたしましょう。

今日はここまでです。
お読みくださりありがとうございました。
7人の勇士たちのこれからの活躍をどうぞお楽しみに!


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