見出し画像

『7人の聖勇士の物語』第3章(1)

こんにちは。
ご訪問くださりありがとうございます。

今は夜中の3時を少し過ぎたところで、ご近所は寝静まっていますが、1時間ぐらい前から裏のお宅のワンちゃんがずっと吠えています。怪しい気配に吠えるといった感じではなく、「キャンキャン・・・」という鳴き声で、少し寂しそうにも聞こえます。実はこのワンちゃん、夜中よくこんなふうに鳴くのです。

ワンちゃんはどうして鳴いているのでしょう。裏のご夫婦とはめったにお会いしませんが、お二人とも優しそうな、とても感じの良い方で、お子さんはいらっしゃらないとのこと、きっとワンちゃんをすごく可愛がっておられると思います。勝手な想像ですが、ワンちゃんはそんなご夫婦が大好きだから、一緒にいたくて鳴いているのではないでしょうか。

私も誰かと一緒にいたくて泣きたいときがあります。お昼間なら誰かにメッセージを送ったりできるけど、夜中は着信音がご迷惑になるかも、と思うと送信ボタンが押せません。ワンちゃんはまだ鳴いています。一人で起きていると寂しいよね。

『7人の聖勇士の物語』の続きです。

『7人の聖勇士の物語』
第3章 イングランドの聖ジョージの冒険 (1)

7名の勇者たちは英国海峡をフランスへと渡り、うまし国フランスを旅しました。フランスでは心ゆくまでご馳走を食べました。フリカッセやラグーといった料理を何杯ものブルゴーニュ産やボルドー産の赤ワインで流し込みました。そしてついに広い野原に着きましたが、そこには1本の真鍮の柱が立っていました。そこは7本の道が出会う地点でした。ここで高貴な騎士たちは、何度も槍を振って互いへの尊敬を示し、多くの言葉を交わして、各々、忠実な従者と共に冒険を追い求めるため、お別れしたのです。
(※フリカッセは鶏肉や子牛肉などを蒸し煮してホワイトソースで仕上げた料理、ラグーは肉などを煮込んだ料理のこと。どちらもフランス料理です。)

聖ジョージは、忠実なド・フィスティカフ一人を連れて、ただちにアフリカの海岸へと渡りました。この驚異に満ちた未知の土地では、世界中のどこよりも自分の武芸を試すにふさわしい冒険と出会えることをよく知っていたからです。彼は、燃えるように熱い砂の上を何マイルも旅を続けました。鋼の武具が太陽の光で輝き、見る者すべてを恐れさせました。ド・フィスティカフは気の毒にも主人の武具の輝きのため目がくらみそうでした。彼は、体が火照り、喘ぎながら、主人の後ろを疲れた様子で従っていきました。

アフリカの平原をはるばる越えて旅を続け、ティムバクトゥ王国(※架空の国です)にやってきました。この王国は殆ど知られていませんが、いにしえの昔からあるのです。黒い肌の君主、ボバディルド王は、他国の年代記には名が記されていなくても、その国の年代記ではたいへん高名な方でした。王は聖ジョージを、イングランドの騎士という身分と彼が達成しようとしている名声にふさわしい礼節をもってお迎えしました。忠実なド・フィスティカフは、主人がいかなる名声を得ようとしているかについて詳しく述べて口添えをしました。彼は、主人をたてる機会を決して逃さないのです。

騎士は豪華なご馳走にあずかり、素晴らしい余興の数々でもてなされました。王は騎士がとても気に入りました。といいますのも、この騎士なら王国の敵と戦う戦士たちを立派に指揮するだろうと確信したからです。王は騎士に是非とどまってくれるよう懇願しました。王には美しい王女がありましたが、騎士がこの王女に恋をして自分の義理の息子になる気になってくれはしないかと望みました。年若い王女のお顔は深みのある黒色で、椰子油で艶々と輝いておりました。この黒い肌は王女が生まれたこの国では大いに賛嘆されておりましたが、イングランドの騎士にとっては、友情以上の親密な関係になるためには乗り越えがたい障壁でした。でも、彼はそうとは言いませんでした。その代わりに、栄光が自分を待っている場所へとどうしても赴きたいのです、思えば胸が高鳴るその栄光を勝ち得るまで結婚の取り決めは延期せねばなりません、と言いました。

そこで、その翌朝、ご馳走をたっぷり楽しんだためにベルトの留め金をとめるのに随分苦労したド・フィスティカフをお供につれて、聖ジョージは都の南門から出立し、行く手に広がる未知の土地へと進んで行きました。美しい王女は塔の窓から石炭のように黒い手を振りながらそれを見送りました。聖ジョージが彼女を置いて立ち去っていくのを見ていると、黒い両頬に涙が流れ落ちるのでした。といいますのも、王女の輝く瞳には、近隣の王侯たちや父君に仕える廷臣たちの誰一人として勇敢な聖ジョージにかなう者がいなかったからです。聖ジョージは旅の道中、あちこちの宮廷を訪れましたが、どこの宮廷でも美しい王女たちの意見はこの王女と同じでございました。そのため、気立てが良く礼儀正しい騎士はかなり困惑させられることもあったのです。王女はじっと見つめながらため息をつき、次のような意味の言葉を口にしました。

「いらっしゃるがよい、ああ、非情な騎士よ。栄光と名声へとどうぞ赴かれるがよい。あなたがお帰りになるようなことがあれば、私はためらわずに身分と名前を変えてみせましょう!」

心の内を即興で表現したことで王女は気持ちがとても和らぎました。もう聖ジョージの姿は遠くの砂丘の合間に消えておりました。王女は窓から向き直り、立派な父君の朝食のお相手をしにいきました。

聖ジョージと従者は来る日も来る日も旅を続け、どんどん高い所へと登っていきました。そこは平野ほど暑さがひどくなく、それまでとは異なった新しく美しい景色が広がっており、彼らはうっとりと眺めました。

そこには、透き通った水をたたえた美しい湖があり、変わった形ときらびやかな色合いの魚で一杯でした。魚は水面まで上がってきて、異国の者らを珍しそうにじっと見ておりました。高い木々も低い木々も非常に巨大でした。高い木は空までそびえ立ち、1枚の葉で騎士と従者と馬たちに十分な日陰を与えるのでした。香りが良い草が豊かに茂っていました。主従が乗っている馬は立派な血統の生まれでした。馬たちは疲れていましたが、草を数束食べると体力も気力も十分に回復しましたので、主人らのどんな御用でもすぐに務めることができました。低木でさえ非常に背が高く、その下を馬に乗って進めるほどの高さのものもありました。槍で突き通せないほど分厚い葉をもつものもありました。おそろしく長いとげで覆われているものもありました。その枝に近づくのは危険で、それをかき分けて通るのは不可能でした。とにかく見知らぬ植物ばかりでした。旅人が通りかかるとのたくりまわり、シューシュー音をたてる曲がりくねった蛇の群のようなのもありました。聖ジョージが剣でその植物の頭を切り落としてもあっという間にまた生えてくるので、それらを取り除こうとしても無駄な骨折りだと彼は悟りました。

この植物について聖ジョージは道徳的考察を述べました。
「悪しき性癖があるとこうなるのだ。この植物の性質は矯正されねばならない、さもないとどんどん枝が伸びて、悪い実を次々とつけるだろう。」

素晴らしい形と美しい色合いの植物もありましたが、これらは生き生きとして見えました。その中の一つは、広く地面を覆い、虹色を帯びていました。二人が足を止めて、その植物を称賛していると、突然、それは長い触手のような巻き毛を何本もすばやく空中高く伸ばし、近くを飛んでいた何百もの鮮やかな色をした蝶や蛾や甲虫を引き寄せました。

華やかな羽毛の無数の鳥たちも、これらの虫に引き寄せられて急いで降りてきたところをその植物に捕えられ、大きな口に引きずり込まれていきました。

聖ジョージは馬に拍車を当てながら、「進め、進め」と叫びました。「足を止めてこれらの驚異を全て一つ一つ賞賛していたら、旅の大目標を達成することなど決してできないだろう。」

従者は主人の言葉が耳に入ったのですが、注意を払いませんでした。というのも、彼はその奇妙な植物の動きにじっと目を凝らし、1分間に何匹の虫を植物が呑み込むかを数えようとしていたからです。無思慮にも彼は植物にどんどん近づいていきました。すると突然、怪物のようなその植物は全ての巻き毛をすばやく伸ばして彼の体をぐるぐる巻きにして捕まえました。彼は自分がいやおうなくあの大きな口の方へと引き寄せられていくのを感じました。先程まで彼が見ていたように、その口の中には数知れない生き物がのみ込まれたのです。首のまわりに巻き付いた1本の巻き毛が彼をほとんど窒息させかけていましたが、声を限りに叫びました。
「ああ、ご主人様、ご主人様、助けて、助けて下さい!」

何が起こったのかを見て取ると、聖ジョージは馬を駆って大急ぎでとって返し、愛剣で打ち払いながら必死で巻き毛を切り離し、怯えている従者を救い出しました。

体に巻き付いている密集した無数の腱のような巻き毛から従者を自由にしてやりながら、彼は言いました。
「私が言ったとおりにしていれば、こんなことにはならなかったのだ。ああ、ド・フィスティカフよ、一番お前のためになることを知っている者の言葉に従い、正しい行動をとるようにせよ。そして、起こったことを恐れるな。邪悪なものや危険なものに見入って足を止めてはならぬ。仕掛けられた罠に捕われる危険がないなどと決して思ってはならないぞ!」

従者は主人の教えをかしこまって聴き、主人の忠告から学ぼうと決意も新たに、つつましく少し離れて付き従っていきました。

今日はここまでです。
ティムバクトゥ王国の愛らしい王女様はかわいそうでした。元気を出して、素敵な恋をしてほしいです。それから、ド・フィスティカフは危機一髪でしたね。聖ジョージはなんだか上から目線ですが、従者のことを真剣に大事に思っているゆえのことかもしれません。人は愛する者が愚かなことをして危険に陥ったとき、思わず「馬鹿!」と叫んでしまうものですから。
次回をどうぞお楽しみに!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?