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マイ某所を作る旅に出てみる

金木犀を落とす雨を眺めながら、京都府某所の山中を思い浮かべた。
あの川に降る雨、あの苔に当たる雨、それはどんな音をしているのだろう。
某所が雨の日にみせる表情はまだ知らない。

京都府某所に初めて訪れたのは、私が流木に取りつかれていた時期のことだった。
植物好きから発展して流木の魅力に気付いた私は、大阪で流木を探して無暗に歩き回っていたのだが、良い流木に出会うことはなかった。

ある日、流木を探すためにグーグルマップで川を調べていた。大阪の川を遡ると滋賀県の琵琶湖にたどり着く。その琵琶湖からは京都宇治川などの水系をたどって大阪湾まで流れてきている。
これを見て私は、中間地点の京都であればちょうどいい流木に巡りあうかもしれない、と思い至ったのだ。

次の日、朝から車に乗って私は京都へと向かった。
川沿いに車を停められそうな場所を中心にリストを作っておいて、巡るようにして走る予定だった。173号線をどんどん東に進み、1時間ほど走ったところで車を停めた。

車を停めてすぐに川はあった。
流木もあったが、腐っているか大きすぎて持ち帰れそうなものはない。
そこから歩いて山奥へ入っていくことに決めた。

鳥の鳴く声と、木々のざわめきばかりが聞こえる。
自然のなかは静かなイメージがあるが、実際はとても音に満ち溢れている。整えられていない音が取り囲むようにして鳴っている。
シャワーを浴びているみたいに、とてもうるさいから、とても心地が良い。

歩くうちに携帯の電波は届かなくなった。その代わりに進む先から流れの速い水の音がする。来た道を覚えながらどんどん林の中を進んでく。


白い岩の狭間を川は加速しながら滑り落ちていた。岩は水流に削られ、水が落ちるたびに滝のような音を立てた。
私は川辺に降りて岩場を慎重に歩いた。
水からは清潔な匂いがして、澄んでいた。

私は目的も忘れて、ただ川と空を眺めた。
他に人が来ることもなかった。
自然の音は一片の途切れもなく私の内と外を満たした。何十分とそれは途切れることがなかった。

流木もなにも持たずに帰ってから、私は友人にその場所について熱く語った。自然を浴びるという体験を誰かに伝えずにはいられなかったのだ。
「それってなんて場所なん」
そう言われて、私は答えに詰まった。名前の付いた観光地ではなかったからだ。
私は仕方なく、
「京都府某所や」
と意地悪のような返答をしてしまった。

思い返してみれば、これまでに出た旅先でも、名前もついていないような場所ばかりが記憶に残ってきた。
和歌山白浜で偶然出くわした巨大な洞。
オーストラリアで見つけた謎の落書き壁。
大正駅付近を散歩していた時に見つけた具合のいい階段。

これだけ写真が残ってた

などなど、どれも名付けのない「某所」でしかなくて、またそういった場所にこそ自然な息づかいが感じ取れた。

あくまで部外者として、その場所の自然さが根付いた場所を探す。そんな旅の仕方もありだなと気付かせてくれた京都府某所であった。

最近ではその京都府某所も通い慣れて来て、すこし散策の範囲を広げるようになってきたのだが、毎度新鮮な出会いや驚きに満ちていて飽きさせてはくれない。
そんな様子を切り取った映像をインスタにあげていたので、それを載せて終わりたい。おわり。

#私のこだわり旅

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