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散々たる自転車レース/結婚記念日

シクロクロスという、とてもマイナーな自転車競技がある。私はその競技を高校生の頃から続けている。

自転車で未舗装のコースを周回する。ただ、それだけの競技ではある。スピード以外にもテクニックも求められるので複合的なものになっている。スキーのクロスカントリーと少し近い競技かもしれない。

10月31日はその初戦であった。私にとってのシーズン初めのレース。

朝からどうにもナーバスで違和感を覚えていた。
こんなに緊張する必要がないのに、そう思いながら準備をする。コースを事前に走る試走の段階から心拍が上がってくれない。

後で確認すると180も超えてくれていなかった。
この類の不調が時々ある。なかなか心拍が上がってくれない。練習の時にも起こる。
こうなると足にも力が入らず、上半身もフラつく。

なんとか回復を図るように、もがくうちに試走は終了した。

それから余計にナーバスになって、余程マトモじゃない状態のままスタート位置についた。
同時に出走するのは70人ほど、その50番手あたりからのスタートであった。

始まってすぐにわかったことだが、やはり足に力が入っていない。記録によると、心拍は170をも叩いていなかった。

一周目を終えたところで順位は58位、もはや勝負はできない位置であった。

しかし、なんとか少しでも順位を上げて終えたい。
焦りの中でコーナーを攻めた。
イン側の木製の杭がハンドルに当たった。
スピードがのっていたこともあり、バイクから体が放り出される。
あばらと肩で地面に落ちた。

痛みで2、3秒は身動きがとれなかった。
コース上から離れようと転がって、辛うじてコースの外へ出る。
しかし、この時私はそこそこ高かった自分のサングラスがコース内に落ちているのを見つけて、また転がって取りに行く。

そうして、レースを終えたが打身のためか呼吸が深くできない。痛みの中では仰向けになることもできなかった。横向きのままで必死に酸素を取り込む。
少しして復活した私は自転車を確認した。いろいろと曲がっていた。

1番良いホイールが見事にくにゃっと曲がっていた。
こんな状態になってもパンクしないものらしい。

そうして帰る。結婚記念日なのだ。

ただ、帰ってからも疲れで寝てしまった。

妻はすき焼きを用意してくれた。
1年前に妻が買ってくれたウイスキーを開ける。こういう時にだけ、ちびちびと飲んでいるのだ。
良い物はおいしい。
妻はレースのことをあまり何も言わなかった。
私の弱音を静かに聞いていた。

そうして、終えた10月31日であった。おわり。

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