小説「タキオン」

こんな夜中に、こんな不人気の、こんな奥の席を好む奴なんてそういない。
だから、人の影がテーブルにさした瞬間に誰が来たかわかっていた。

「寝られへんかったん」
「ちゃうねん、またや」
「おじさん来た?」
「オカンがまた呼びよってや」
「くそおじ確定やん」
「最悪やでホンマ」

24時間営業のマクドナルドがあってくれてよかった。

「あんたこそ何してんの」
「明日な、朝の7時からバイト入れてもうてさ」
「鬼やん」
「逆に寝んほうがええ気がして起きてんねん」
「それ5時ぐらいから爆裂眠くなるやつやで」
「バイトやめたいわー」
「ホストやったらええやん」
「向いてるかな」
「向いてるわけないやろ」
「シャンメリー入りまーす」
「未成年きてもうてるやん」

ポテトをとられる。2本ずつ。

「なにしとったん」
「暇すぎてウィキペディアずっとみてた」
「暇すぎやろ」
「でも、おもろいで聞いてや」
「そういう知的なやつ無理やねんウチ」
「聞いてから考えるべき」
「しゃあないやっちゃやで。その前にセット食べたい」
「どれ」

月見バーガーのセット、2つ買う。

「聞く対価として奢ってもらうのは当然のことやな」
「偉そうに」
「で、なんなん」
「タキオンって知ってる? 」
「お笑いのやつやろ。めっちゃ好きやで」
「それは滝音な。俺も好きやけど、ちゃうねん。めっちゃ速くて、あるかもしれへんてされてる粒やねん」
「あるかもしれへんてことは無いかもしれへんの」
「まだ見つかってへんねん」
「見つけろや」

「タキオンは光の速さ超えてんねん」
「速すぎるやろ」
「光速超えてると速すぎて見たりできひんらしい」
「おる意味ある? 」
「実際、おっても観測できひんなら意味ないやん、て話にもなってるらしい」
「ウチの頭脳を先読みしやんといてほしいわ」

「タキオンは実際にあると今の物理法則を根底から覆してしまうねん」
「そういうの読みすぎて喋り方が賢こになってるやん」
「今は物体は光の速度を超えられへん前提で話が進んでるから、見つかってまうと前提がおかしかったことになんねん」
「え、待って。それってさ、タキオンていうのが出てきたら、物理の授業とか意味ないってこと? 」
「そういうこと」
「テストとか教科書もいらんくなる? 」
「そういうこと」

「うっしゃ、タキオン見つけよ」
「見えへんのにどうやって見つけんねん」
「餌まいとったら来るやろ」
「ここまでの話で鳩やと思う要素あった? 」
「光速の鳩」

「月見バーガーってなんで期間限定なんやろな」
「俺が社長ならずっとメニューにのせる」
「社長になるべき」
「副社長にしたろか」
「ウチ会長」
「上いくなや」
「朝マック廃止」
「会長なるべき」


「なあ、もう朝なりましたよ兄さん」
「そろそろ行くか」
「今日の夜なにしてんの」

「サムライマック食べたなってるかも」
「おっけい」

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