Big Bang Theory S1Ep5 さらりと引用されるバイロンと芍薬・牡丹・百合

この記事のタイトルは、ドラマで取り上げられているネタからつけたものです。ドラマの正式なタイトルはこちらです。

The Hamburger Postulate:オタク青年とお似合いカップルの法則

ビッグバンセオリーを見ていて面白いなと思ったオタクネタで自分が知っているネタ、調べたネタをまとめておいておくために作ったものです。ざっくりとした背景はこちらもご覧ください。目次もかねて作成しています。

あらすじ

チーズケーキファクトリーで食事をオーダーしようとしている4人組。レナードの同僚のレズリーがやってきてレナードを弦楽カルテットに誘う。
ペニーがレナードに、レズリーとお似合いねと言うが、その真意がどこにあるのかレナードは悩むのだが、実際にカルテットの練習の日にレズリーはレナードを誘惑して...

SFオタクが妄想する「南北戦争」

チーズケーキファクトリーでオーダー待ちの4人。テーブルのケチャップやマスタードなどを使って、アメリカの南北戦争のシミュレーションをしているのだけれども、なにかおかしい。

シェルドンとレナードが北部側、ハワードとラージが南部側。

番組の設定ではシェルドンはテキサス出身、レナードは北部のニュージャージー州。ハワードは、番組の舞台であるパサデナ出身で、ラージはインドのニューデリー出身となっている。

Wikipediaの南北戦争の開戦に示される地図によれば、レナードが北軍なのは妥当。しかし、シェルドンが北軍で、ハワードが南軍なのは謎(笑
そこは「ディベート」なお国柄なのかもしれません。それにしても、それぞれ加勢している援軍がGeekの妄想爆発!みたいな感じになってる。

ちなみに北軍の援軍にはロード・オブ・ザ・リングのオーク、ハルク

南軍にはスーパーマンとゴジラ(なぜゴジラ?)に、インド神話のシヴァとガネーシャ

オークとハルクが北軍なのもなぜ?だし、スーパーマンとゴジラにインド神話のシヴァとガネーシャが南軍なのはなぜ?ちょっと理屈が良くわからない。

それから、彼等の会話でこんなセリフが出てくる。

Leonard: No, no, no, no, Orcs are magic, Superman is vulnerable to magic
オークの魔術にスーパーマンは打つ手なし

スーパーマンが魔術には対抗できないのは公式設定でそうなっているらしく、DCコミックにはザターナというマジシャンがでてきて、スーパーマンがマジックにかかるエピソードがあったりする。

こちらのコミックにはスーパーマンは出てなさそうですが、表紙絵の二人のうち、後ろのいかにもマジシャンっぽいのがザターナ。

さらに、ゴジラについては

Leonard: not to mention, you already lost Godzilla to the Illinois Cavalry and Hulk.
それにゴジラはイリノイ騎兵隊とハルクに負けた

そもそもゴジラの設定では核兵器登場後でないといけないはずで、南北戦争当時にいたのか?

それ言い出したら、スーパーマンだってあり得なさそうだし、シヴァ神とガネーシャはOKになるので百歩譲ったとしても、ゴジラって、イリノイ騎兵隊とハルクに負けるのか(困惑

ラージのシミュレーションでは、シヴァ神とガネーシャが参戦していたら

Raj: Excuse me, Ganesh is the remover of obstacles, and Shiva is the destroyer. When the smoke clears, Abraham Lincoln will be speaking Hindi and drinking mint juleps.
ガネーシャは障害物を除き、シヴァ神は破壊神だ。戦火が収まった暁には、アブラハム・リンカーンはヒンズー語を話し、ミント・ジュレップを飲んでる。

南軍が勝ってリンカーンはヒンズー語を話し、なんてセリフを見ると、「名古屋はええよ!」を思い出す(笑

また、ミント・ジュレップは日本語のウィキでは特に言及されていませんが、英語のWikiではこんな説明が書いてあります。

As a bourbon-based cocktail, it is associated with the American South and the cuisine of the Southern United States in general, and the Kentucky Derby in particular.
バーボンベースのカクテルなので、アメリカ南部や合衆国南部の料理、特にケンタッキー・ダービーとつながりがある。

日本で辛口の味噌汁と言えば関東、みたいな感じなんでしょうか。

字幕に表現されていない内容にいろんなヒントが詰まってたりするのは面白いですね。

レズリーとペニーのファーストコンタクト

南北戦争の妄想シミュレーションに集中する4人に、「注文するかとっとと出てって二度とこないか選べ」との店長の伝言(?)を伝えに来たペニー。やむなく注文をしているところにレズリーがやってくる。

レズリーは第3話でレナードが付き合わないかと誘って轟沈した相手。

バイロンと「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花」

Leonard: Lesley, this is Penny, she lives across the hall from Sheldon and me.
レナード:レズリー、こちらはペニー。向かいの部屋に住んでいるんだ。
Howard: And walks in quiet beauty like the night.

このハワードの「And walks in quiet beauty like the night.」とは不思議な表現ですが、どうもバイロンの詩の一節のようです。

「夜のように美しく歩く」などと聞くと、日本人が思いつくのは「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花」ですが、女性の歩く姿の美しさを百合の花に喩えるのか、夜に喩えるのか、詩人の感性には感動しますね。

ところで、バイロン卿は(1788年1月22日- 1824年4月19日)となっていますから、200年前の人物です。

ハワードが引用した詩を原文で見ても、日本人にも読めそうな感じです。

バイロンの人気が高いなと思うのは、ドラマで引用されているのを見るのがこれが初めてではないことで、たとえばSmallvilleでは、登場人物の名前がバイロン。しかも詩を書く設定で登場してました。

さらに、このエピソードでレックスが暗唱して見せるのは、なんとバイロンよりもさらに200年古いJohn Donne(1572年 - 1631年3月31日)でした。

話をバイロンに戻して改めて驚くのは、ジョン・ダンではなくてせめてバイロンと同時代の日本の作品を上げると曲亭馬琴の南総里見八犬伝(1814年)とか、鶴屋南北の東海道四谷怪談(1825年)となること。

南総里見八犬伝を原文で読めるか?

南総里見八犬伝の「書き下し文」を今、日本人が読めば読めないこともない程度ですが、原文(漢文)を見て、直読直解できるか?

・・・厳しい。

ところで「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花」の成立時期を調べてみたのですが、こちらも寛政年間末期(1789年から1801年)ごろとのことでした。

奇しくもバイロン卿の詩も、「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花」もほとんど似たような時期に、洋の東西で成立していたようです。

我々日本人が英語を勉強してある程度たてば、バイロン卿の詩は読めそうな気がしますが、同じ程度日本語を勉強した海外の人が、この表現を読んで(そもそも芍薬が読めるか?という問題もある)理解できるか?

まだ日本人がバイロン卿の詩を読んで理解することの方が優しいような気がします。そして、このように考えてみると、バイロン卿からさらに100年後に活躍したアーサー・コナン・ドイル(1859年5月22日 – 1930年7月7日)の手になるシャーロックホームズの冒険は、さらに「新しい」ことになります。

これまた驚くのは、シャーロック・ホームズの冒険の全巻が、Kindleなら433円で買えてしまうことでしょうか。

イギリスの名優スティーブン・フライの朗読による全巻朗読版も、Audibleのトライアルだと10,700円が無料で入手できます。

10年前では考えられないような状況ですね。

また、なんとも素晴らしいタイミングというべきか、北村一真先生が「シャーロック・ホームズから始める英文解釈」という本を出版されるようです。

私も購入します。シャーロック・ホームズが古いというのは日本人の感覚であって、アメリカ人やイギリス人にとっては、バイロン卿の詩は、日本人が想像するよりももっと「生きているのではないか」と改めて思う場面です。

カルテットの演奏する曲

レナードとシェルドンの部屋。4人が練習している曲名が何なのか、ちょっと分かりませんでした。パッヘルベルのカノンではないかと書いている人もいましたが、違うような気がする。

レナードとレズリーが部屋で聞いている音楽

クラシック曲は不明でしたが、二人が部屋で聞いている曲はこちらのようです。曲名が意味深なのは演出か?

ホフスタッター博士かスタッド博士か(笑)?

詳細は省きますが、レナードとレズリーの部屋での会話を聞いたハワードがネットにそのことを載せたうえで、レードを煽りに来る場面。

Howard: Hey, look, it’s Doctor Stud!

レナード・ホフスタッター博士にかけてからかうセリフとしては、笑いを禁じ得ない。何博士だって?と聞き返すレナードに対して、さらに追い打ちでのハワードのセリフも笑える。

Howard: The blogosphere is a-buzzing with news of you and Lesley Winkle making eine kleine bang-bang music.

「Eine Kleine Nacht Musik」の「Nacht(夜)」が「bang-bang」とか、この人たちには禁止表現とかないのかなと思うほど(笑

ハンバーガーネタの回収

タイトルの「The Hamburger Postulate」は「ハンバーガーの前提条件」とか「ハンバーガーの仮定」といった意味ですが、最初がチーズケーキファクトリーでハンバーガーが話題で、最後の締めで「毎週ここに来るかも」とペニーに言って締めてます。

今回は、いわゆるGeekネタは少なめでしたが、「日常会話」の奥深さも感じたエピソードでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

本エピソードで他に見落としているネタがありましたら、コメントいただけると嬉しいです。

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