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錆戦日誌16・とある分析

モニターには、各々進化するジャンク財団将軍の映像。ベッドの端に腰かけた傷跡のある男は、それを一度見終えて大きく息をついた。

「どう見る」
「あれに進化という語をあててよいのかということは一旦脇に置いておきますが」

副官は含みのある前置きをして続ける。

「彼らは確かに進化を望みました。しかし、あれが彼らの望んだ進化であったかについては疑問が残ります」
「進化という事象、つまり機体の大幅な形態変化については前例があったはずだな」
「絶滅戦場において、正体不明機が進化した事が観測されています」

ふうん、と男は再び息をついて、しばし黙考する。

「ここから推測できることがふたつある。我々にとって都合のいいことと悪いことのふたつだ。どちらから聞きたい」

出撃ができなくて時間がたっぷりあるからって、娯楽小説をやたらと読んでいたっけ、と副官は少しの後悔と共に思い出した。

「こういう時は都合のいい方から聞くんでしたよね」
「よく勉強している。まずジャンク財団将軍の進化についてだが、進化すること自体は制御できているように見受けられる。しかし、どのように進化するかについては不完全にしか、あるいは全く制御できていないようだ」

映し出されているのは、巨大未識別との戦闘を想起する異形のグレムリン。否、進化の末に異形となったグレムリンを、グレムリンと呼称してよいものだろうか。

「テイマーの希望を汲んではいるようですが」
「ふむ。財団代表は許可を出す権限を持つのみで、進化の方向性は将軍自身が決定しているのかもしれない。もしそうであれば、テイマーとして潜入し将軍にまで上り詰めれば、我々の望む未来を手にすることができるやも」
「戦場へ戻るのはせめて傷が治ってからにしてくださいね。しかしこうも考えられませんか、グレムリンがあの全翼機が開発したものだという事からの連想なんですが」
「聞こう」

ありがとうございます、と副冠は一旦前置きし、

「グレムリンの進化は本来テイマー自身の侵食を伴うものだが、開発者たちはその問題を認識した時点で肉体を捨て去り、現在は意識のみで全翼機に留まっている、という」
「可能性はあるな。惜しむらくは、彼らに尋ねたところで返答がないであろうと予想がつくことくらいだ」
「それで、都合の悪いことというのは」
「正体不明機が進化した、という話があったな」
「はい。ジャンク将軍のグレムリンより前のことなので、これを関連づける、と言いますか、同一視してよいものかとは思いますが」
「これは術後の妄言だが」

また出た、と副冠は苦笑する。

「あの正体不明機は、過去に進化したグレムリンをコピーしているのではないか、という推測ができる」

確かに未識別グレムリンは観測され大騒ぎになった。進化した結果異形化したグレムリンが、現在の正体不明機ではないとは言い切れない。

「恐るべきは未識別機動体の祝福だな」
「それはもうひとつの、都合の悪い推測につながりませんか。つまり、グレムリンが進化してなお世界を浄化できなかったということでは」

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