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零錆戦線

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#二次創作

錆戦日誌・後日談

錆戦日誌・後日談

「Collider、弾頭と敵機とを衝突せしめるもの。

その銃口狙い過つことなく、
昨日死んだ者のために撃ち、
明日生きる者のために撃て。

いずれお前ではないお前が、
青い四方海の果てへと至り、
我らをこの檻から解き放つ」

――
⇦ ROLL BACK ⇦
――

おや、君は見ない顔だね。いや待て、顔認証によく似た履歴が残っている。もしかして親戚のヒト?
「力を貸してくれ、グレムリン。タワーが

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錆戦日誌23・とある決着

錆戦日誌23・とある決着

《あなたが戦う理由はなんですか?》

「あ。あ?」
「この鉄火場で居眠りとはな」

対面の傭兵が嫌味を言う。例の雀荘だ。いや、おかしい。ここへ来ることが万一あったとしても、こいつと卓を囲むことは二度とないはずだ。

「ようやく気がついたか」

上家には知らないやつが、いや、思い出した。いつかのコンビ打ちの男だ。下家には誰もいない。まさかこんな奴らと三麻とは。

「お前らとはもう絶対に卓を囲まないと

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錆戦日誌17・とある司令室

錆戦日誌17・とある司令室

癒えぬ傷跡こそ美しい。すなわち、粉塵により赤く染まる世界。
未来などいらぬ。永劫に続く現在にこそ、祝福あれ。

「っていう反グレムリンカルト団体からの連絡が入ったんですが」
「捨てろ捨てろ、そんな厄ネタ!」

青花の副官は、そうですよね、とつぶやきながらメールをゴミ箱へ送った。

「ジャンクの進化を見てから、どうもカルトの勢いが強まっているらしくて」
「市民の統率はよその仕事だろう。どうしてうちに

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錆戦日誌16・とある分析

モニターには、各々進化するジャンク財団将軍の映像。ベッドの端に腰かけた傷跡のある男は、それを一度見終えて大きく息をついた。

「どう見る」
「あれに進化という語をあててよいのかということは一旦脇に置いておきますが」

副官は含みのある前置きをして続ける。

「彼らは確かに進化を望みました。しかし、あれが彼らの望んだ進化であったかについては疑問が残ります」
「進化という事象、つまり機体の大幅な形態変

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錆戦日誌15・とある兄妹

錆戦日誌15・とある兄妹

「おかえり、お兄ちゃん。どうしたの、その傷! もしかして、ニュースで言ってたジャンク財団にやられたの!」
「いや、この傷跡は彼らとは無関係だよ。こいつのせいさ」

そう返して、抱えている猫ちぐらを揺すってみせる。猫ちぐらを生まれてこのかた目にしたことがない妹は、意図がわからないらしく首を傾げた。

「ほら、本物の猫を見せてやるって、約束したじゃないか」
「えっ。えっ、でもそんなの、ずっと子供の頃の

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錆戦日誌14・とある商店

錆戦日誌14・とある商店

「あんたも財団への攻撃には行くのかい」
「まさか。未識別と、航路を狙ってくるジャンクテイマーの相手で手いっぱいだ」
「功名心とは無縁そうだもんな」
「そんなものがあったら、戦場から逃げて雀荘に入り浸ったりしてない」

違いない、と商店の親父は笑った。

「しかしあんたが傭兵とは。人に歴史ありってところだな」
「碌な仕事じゃないぞ。今も昔も、人を殺して金をもらってンだから」
「昔はどうか知らないが、

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錆戦日誌13・とある傭兵

錆戦日誌13・とある傭兵

「継ぎ接ぎ幽霊船への風評被害凄そう」
「どうした急に」
「たぶんジャンク財団のエンブレムだと思うんだけど。ほら、最近ネットでよく見るボロボロの帆船のやつ」
「ああ、確かに名前から受けるイメージそのものだな」
「どうするんだろうね。身の振り方とかさ」
「寄る辺なきヴォイドテイマーの寄り合いが後ろ指差されたとして、何か対処をすると思うか」
「それはそう。何なら三大を敵に回しても戦うよね」
「いやちょっ

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錆戦日誌12・とあるライターの取材2

錆戦日誌12・とあるライターの取材2

はい、はじめまして。ジャンクテイマーと接触した記事は興味深く拝見しました。

ああ、驚かれるのも無理はありません。しかし三大所属ならともかく、寄る辺なきヴォイド・テイマーが五体満足でいられるかというと、そうもいかないことはご想像いただけるかと思います。これは友軍を未識別機動体からかばった際の傷跡で――え? いえ、決して当てつけなどでは。そもそもその友軍は、甲斐なく海に還っていますからね。そうした未

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錆戦日誌11・とある整備工場

錆戦日誌11・とある整備工場

焼け焦げた装甲、歪んだ銃身。おびただしい戦いの傷跡を見て、整備士は大きく息をついた。

「どうしてこんなになるまで放っておいたんだか」

命を預ける商売道具なのだから、もう少し気を使ってもよさそうなものだが。どこから手をつけるべきか少し思案して、ひとまず装甲版を取り外すところから始めることにした。

「うわ、フレームもボロボロ。最近多いなあ、変な錆びたフレーム」

試作段階だったアサルト・フレーム

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錆戦日誌10・とある決別

錆戦日誌10・とある決別

返信があったのは翌日の夕方だった。

「死んだのかと思った。この前は雀荘で世話ンなったな」
「テンプランスルビーか。洒落た名前じゃねえか」

こっちにつく気になったのか、とジャンクテイマーは言った。

「冗談じゃない、俺は宣戦布告をしたいのさ」
「真紅に戻りでもしたのか」
「傷跡を調べたのはお前だろう、今更戻れないのはわかってンだ」

グレムリンズ・ギフトは未来への希望を、自らが生み出した兵器に託

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錆戦日誌9・とあるレシピ

錆戦日誌9・とあるレシピ

初ヒノデ・スシ

ヒノデは北北東~北東海域で獲れるウニの一種です。年末年始にかけて漁の最盛期を迎え、特に年明けに獲れたものは初ヒノデとして珍重されます。本日はその初ヒノデのスシのレシピをご紹介します。

材料:
ヒノデ(可食部) …… 100g

メシ      …… 200g
 ビネガー   …… 20g
 糖      …… 5g
 塩      …… 少々

ソイソース   …… 適量

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錆戦日誌8・とある病室

錆戦日誌8・とある病室

「あっ、手術が済んだばかりなんですから、まだ休んでいてください」

平時は軍服に覆われている傷跡もあらわに、半身に包帯を巻いた男はベッドに腰かけて報告書に目を通していた。

「我々はうまくやったか」
「はい。誘導には成功しています」

巨大未識別誘導作戦。融合し、巨大化した未識別グレムリンを交易航路から遠ざけ、あわよくば撃墜しようと画策した。多大な犠牲を払ったが、当初の目的だけは達成できた。量産さ

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錆戦日誌7・とある雀荘2

錆戦日誌7・とある雀荘2

「そもそも世界の不具合ってなんだよって話でさ」

未識別機動体はバグデータだと言われて、ハイそうですかとはいかない。それじゃあ俺たちもただの電子情報だということになる。世界が格納された筐体が壊れたら、夢も希望も過去も未来も、全てまとめて消える無意味な存在になってしまう。
4000年野郎には勝ったのに、とっくに世界は崩壊していましたじゃ笑い話にもならない。

「それに不具合があるってことはつまり、寝

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錆戦日誌6・とある想像上の猫

錆戦日誌6・とある想像上の猫

「ここに猫がいる、って聞いた」

雨音列島のあばら家で俺を出迎えたのは、火傷跡と包帯が痛々しい、色とりどりの染みがある白衣を着た爺さんだった。

「ごわごわした合成繊維の塊でも、しわくちゃのバイオ猫でもない、本物のやつが」

爺さんは顎をしゃくって、あばら家の奥までついてくるよう促した。廃材をつぎはぎにしたような廊下、歪んだベッドのある狭い寝室を抜けて、見るからに手掘りの地下室へ下りていく。
地下

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