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女子中学生ストレス

 恥を忍んで告白しますが、僕は女装したことが1回だけありま…… いえ、2回。すみません3回…… ごめんなさいウソをついておりました。4…… 5回あります。

……初めての女装は中学3年のとき。
 当時の自分を思い返すと、なんかポワポワとした夢見がちな男子で『人を疑うことを知らなすぎる』ようなところがあったような。
 そんな僕が初女装を通じて「女の子ってタイヘンだな~」と思ったエピソードを一つ。

※※※

 ある日の放課後。一人教室で『花とゆめ』を読んでいると、ひろみさんとミナコさん、みやこさんが「秋田いたいた~ また少女マンガ読んでるんでしょ?」などと言いながら教室に入ってきました。

 ひろみさんは小学生のころから僕の母親がわりの同級生(意味不明でしょうが、なにかと世話をやいてくれる同級生がいたのです)で、ぱっちり二重瞼で優しそうな顔をしたちょっとふっくらした女子。この3人の中でも、お母さん系として君臨しています。『花とゆめ』も、いつも彼女が借してくれるもので、あまりテレビを見ないわたくしにとって唯一の純粋な”娯楽”だったのでございます。

 ミナコさんは隣のクラスの女子で、一重瞼なのに目が大きく、髪の長い褐色の肌をした健康的な美人。みやこさんは奥二重で物静かな、わたくしと同じ班でいつも勉強をみてくれる面倒見の良い、とても優しい女子です。
当時のわたくしは、この3人を心底信頼していて、頼みごとを断るなんてことは一度とてありませんでした。
 一度とて、です。

 それは、彼女らも重々承知だったのでしょう。でなければ、あんな衝撃的な一言が発せられるはずがございません。

「秋田、脱いで」

 先に申した通り、わたくしに彼女らの頼みごとを断ることなど出来ようはずも無く、答えに窮していると、ひろみさんが言いました。
「ミナコのクラス、この時間誰も来ないから大丈夫」
 何が大丈夫なのでございましょう? 彼女の頭の中では、わたくしが脱ぐのは確定なのでしょうか。

 4人でミナコさんのクラスに移動します。そこにはすでに、半円状に椅子が並べられていました…… 3人分。
 ということは、わたくしはその中央で脱ぐ、ということなのでございましょう。いくら夢見がちのわたくしでも、そのような状況であれば自分がこれから何をされるのか、理解できております。
 なにせ、『花とゆめ』が”唯一の娯楽”なのですから。

「ほんとに、脱ぐの?」
 3人はすでに着席。顔を紅潮させながらわたくしの問いに頷きます。
 わたくしは、彼女たちがカワイソウになりました。なぜなら、彼女たち3人とも、学年で10番以内に入る秀才です。
 それと、なんと言いましょうか……”アチラのほう”のストレスは、男子であれば怪しげな書物を回し読みして発散してるという噂を耳にしていました。

 …… 女子は、どうしているのでしょう??

 まさか女子がそのような書物に興味があるハズも無く、興味があったとしても、購入などできようはずもございません。ですから、”アチラのほう”は勉強のやりすぎと相まって、かなりのストレスとなって鬱積しているに違いないと、当時のわたくしは良心的な解釈をしたのです。

わたくしは思いました。
(こいつら、勉強のやりすぎでオカシクなったんだ…… なんて不憫なやつらなんだろう。僕が脱げばそのストレスも発散できるんだよな。よし、今こそ、日頃の恩返しをする時だっ!)
 馬鹿と言われましても、申し開きのできようはずもございません。でもそのときは本気でそう思ったのです。ただ、思春期が遅かったわたくしは、一つだけ条件を出しました。
「いいよ。でも、キスはダメ。そのほかなら何をしてもいいから」
「わかったわ」
 ご理解いただくのは困難でしょう。しかし当時のわたくしの考えとしては、”アチラのほう”の最高位は「キス」だったのです。

 とにもかくにも、彼女らの了解を得たわたくしは、脱ぎました。
「秋田足首細いじゃん」
「色白いぃ」
 朦朧とした中で、そのような言葉が飛び交っていたのを覚えております。ひろみさんが大胆にも、わたくしの足首掴んでいたのも覚えています。
「ぱんつは、許して欲しい」
 勇気を出したお願いが了承され、ホッとしたのもつかの間。
「脱ぐのはもう許してあげる。そのかわり、着てもらおうかな」
「着て??」

 3人は頷き合うと、ミナコさんが立ち上がりました。
わたくしは状況が理解できず、呆然としております。
 その分担、段取りの良さ…… 今考えると、すでに打ち合わせは出来ていたのでしょう。知らぬは男性軍ばかりなり、です。

 ミナコさんは、セーラー服のスカーフを取り、上を脱ぎます。
 スリップって言うのですか? その白さは今もって目に焼きついています。
 スカートは、カーテンに隠れて脱いでいました。

 そこで疑問になるのは”着替える服”ではないでしょうか。
 どうするのかと思ったら、ミナコさんはわたくしの学生服をカーテン内に持ち込んで着てしまったのです。
 そうなると、わたくしはセーラー服を着るしかありません。これも計算づくなのでしょう。彼女たち、成績、良いですから。

 当然ながらわたくしは、セーラー服の着方を知りません。そこで、ひろみさんと男装のミナコさんが手伝ってくれて、初めての女装は事成ったのでありました。

※※※

その日の下校は4人で仲良く、そしていつもよりテンション高く、騒ぎながら帰りました。
 もう、いつもどおりの彼女たちに戻っています。ひとまずストレスは発散できたようで、わたくしは安堵していました。

 来年は卒業。いつまでもこの仲間たちと一緒にいたい、と坂を下りながら思いました…… が! 中学最後の学園祭で女装させられたのは、言うまでもございません。

 わたくしの羞恥にまみれた告白はここまででございます。
 女子中学生のストレス。例えるなら少女とオンナの中間で苦悩し積もった、ドロドロの溶岩なのでありませう。それがあの日、火口からドロリと、ヌメリを持って流れた。

 本当に良かったと思ったのは、その溶岩流は流れるべき道を外すことなくわたくしに向かって流れ、わたくしが真ん中で受け止めることが出来たことです。

 かのように、普通の男子ならば一人で乗り越える問題でも女子は一苦労なのです。

 今さらながら、女子ってタイヘンだなぁ~と、追憶の沼の底で水面を見上げる今日この頃なのでございます……

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