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オリオン、二つの詩


 オリオンの扉


大いなる扉がある。

寒空に佇み、凍った手足を舞踏させながら
私は夢む。

ゴッホは、八月の夕に西空へ歩をとった。
行く手に沈む、
北斗の古ぼけた車に向かって急いだはずである。
旅。
新しい経験。新しい知覚。

いつの日か、
この惑星を出て、
銀河系をやや外よりに歩をすすめ、
私は、オリオンの扉をそっと開くだろう。

              (1994.2)


 星の晩年


秋からどんどん光度を下げた
オリオン座のベテルギウス
年が明けてついに二等星に落ちた

星も、晩年を迎え
どん底を見るのだ

正月が終わろうかという頃
ぼくは体温を下げた
三十六度を割ったり戻ったり
自律神経の乱れた
脈動変光星のようでもあった

ベテルギウスは三ヶ月間
ぼくは二週間ほど
暗く冷たい光を放った
お互い回復期にあっても
また光芒は明滅し温度は上下する

平穏な恒星の
水色の惑星で
ちっぽけな魂が
星と晩年を共にする

とてもふしぎな感覚だけれど
なにか遥かな親密さを
あの赤い超巨星に抱く

              (2020.2)


 *


ベテルギウスの明るさが元に戻った。
オリオンの扉は永遠のものではないだろうが、ぼくがそっと開くまでは壊れないでいてほしい。


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