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Art Pepper at Musical Planet


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アート・ペッパー(Art Pepper)

 像:音座マリカ
 文:泉井小太郎


Trip

空想は
木の
石の
とっておきの旅である
病人も
ベッドの舟で航海する
空想だから
漂流も
難破もかまわない
囚人なら
なおさら旅である
目を瞑れば
どこまでも空は広がり
ここもいまも消滅する
出来うるならば
空想は終わりなく
そのまま
空想の中へ姿を晦ましたい


    ♪


1963年サン・クエンティン刑務所に収容されている時に、ペッパーは「トリップ」という曲を書いた。そこでの囚人同士の過去の思い出話が、疎ましい日々から彼を救った。「現実と空想とがいりまじった物語の世界にみんな引きずり込まれる。その瞬間は、現実離れした旅の世界に遊べるんだ。こうでもして時間を過ごさないと狂気になるからね」(アルバム『ザ・トリップ』ライナーノーツより)

ジョン・コルトレーンに捧げられたというこの曲をぼくはトイレで聴いた。たった二間しかないバラック風長屋の汲み取り式便所。そこに1971年から2000年までの30年間のカレンダーが貼ってある。それを眺めながらしゃがんでいる耳に向こうの部屋で鳴っている音楽が聴こえて、しみじみしているうちに、突然胸にぐっと入ってきた。雪隠精神(センチメント)を揺り動かされたのである。「生きなきゃ、やらなきゃ、がんばらなきゃ」となんだか分からないままに昂揚し、涙が溢れてきた。
(Live at Village Vanguard の The Trip をかけながら、これを書いている今もそれを思い出すと、泣けてくる。泣くな、泣くまいと育って、あんまり泣かない人間だけれど)
いつも生きあぐんでいる者は、時折このように生を鼓舞されて再起動する。せつせつと勃起するのだ。性器がではない、精神が、生きる意思が。

アート・ペッパーが金沢に来たのは1978年。この出来事の二年前。北陸貧乏暮らしの真最中でライヴは悩んだ末に諦めた。もし厠での感動の後に来日していたら、何が何でも駆けつけただろう。そして泣きじゃくっていたに違いない。Living Legend と謂われたこの人の〈現在〉を見逃し聴き逃したのが無念でしようがない。大きなホールではなく、こじんまりしたジャズ喫茶(もっきりや)だったから、ペッパーの人間性もより溢れただろうと思うとなおのこと。

さて、旅はもちろん空想だけではない。
演奏も、創作も未知なる旅である。
ペッパーを聴けば、いつもどこかへ連れ出される。


   ♪


アート・ペッパー(Art Pepper)1925 - 1982
美しい音色と流麗なアドリブで聴くものを魅了するアルト・サックス奏者。
何度も麻薬中毒で療養施設に入所、その度に音楽活動が中断されている。
後期はフリーキーな音も採り入れ、人生の哀感がより滲み出る演奏をした。

愛聴盤:
○ Marty Paich Quartet Featuring Art Pepper (Tampa)
○ The Art Pepper Quartet (Tampa)
○ Modern Art (Intro)
○ Art Pepper Meets The Rhythm Section (Contemporary)
○ The Trip (Contemporary)
○ Art Pepper Live At The Village Vanguard 3LP (Contemporary)
○ Amang Friends (Interplay)
○ Winter Moon (Galaxy)

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