イチ参加者でもあるファン視点で綴る、M-1グランプリ2019雑感

さて、今年もこの季節がやってきた。仕事に忙殺されながらも趣味が高じて毎年予選に出るくらいはお笑いが好きなので、今年も備忘録的に感想を書き殴っておこうと思う。これが来年のネタ作り方向性の参考にもなったりするわけで。


【総評】
15年以内という出場規程等により常連組がいなくなったことで、完全に世代交代を印象づける大会だった。去年の霜降り明星の優勝でその風向きはあったけど、今年は初出場7組という構成を見てもよりその輪郭が鮮やかになったと思う。

ネタのレベルも、特に1st Roundはこれまでの大会でもトップクラスだった。ベテランの意地を見せる和牛・かまいたちに、新進気鋭の若手が襲い掛かる、という構図は、テレビエンタメとしても相当興味深いストーリーになっていたように思う。


ネタの方向性としては、「4分の中に物語がある漫才」というよりは「1つのピンポイントなテーマをずっと掘り下げていく」パターンが多かった(ストーリーが展開していったのはオズワルドやすゑひろがりず、からし蓮根あたり)。逆に言えば、「ネタの構成ではなく、模索して確立した斬新なスタイルが受け入れられるかどうか」というところが突破口になっていた感がある。

中川家礼二さんあたりはどちらかというと物語重視な漫才を好んでいて、かつてジャルジャルにもそういう指摘をしたことがあったけど、今回は考え方を変えたのか、「面白いものは面白い!」という感じでスタイルもきちんと評価していたのが印象的だった。


【個々のコンビ(1st Round出場順)】

1.ニューヨーク
毒が持ち味のコンビだと思っているので、登場順1番は厳しかったと思う。場が温まってきたあたりでブチかますのがぴったりの2人。今回はネタも歌ネタだったので余計に苦労したかも。

歌の途中でちょこちょこ屋敷さんの「女子向けの歌はこうしておけ」的な型ハメ毒が出てたけど、嶋佐さんが普通に歌ってしまっているのでみんなそっちの方が気になってツッコミをちゃんと捉えられてなかったと思う。あそこは鼻歌くらいにしても良いのかも、と思ったり。


2.かまいたち
1本目、言い間違いだけで引っ張るネタをきちんと成立させるのは、2人の演技力の賜物だと思う。山内さんの狂気もさることながら、濱家さんの困った表情も素晴らしいよね。チュートリアルで、徳井さんの妄想ネタに割とフラットに突っ込んでた福田さんに対し、明確に「困ってる」感を出すことで観客とシンクロしやすいってのもあるかもしれない。

2本目もさすがの構成。ただ、おそらく「かまいたちはこういうネタをやる」という慣れみたいなものがあの場にあったように感じていて、濱家さんが逆転するようなどんでん返しがあると違ったのかもしれない。


3.和牛
かまいたちと和牛のベテランが連続して一気に持っていったことで、会場の空気は一旦最高潮になったと思う。このあとに若手が行くのは結構しんどいものがあっただろうな。

これまでとネタの形を変えてきたけど、個人的には「前半のタメからの爆発力」は去年の1本目よりは弱かった気がする。水田さんが演じるクセのある役が好きだった人も多いだろうけど、今回はただ物件を説明する人になっていて、本人のイジワルさや悪意が見えてこなかったので、そこがあと一歩、ということだったのかもしれない。

常連になったことで、和牛 vs 若手 という構図になりつつあるけど、やっぱり漫才としてのクオリティー(というよりはハイテンポ喜劇としてのクオリティー)は相当高いので、また舞台で見たいなあと思う。


4.すゑひろがりず
ボケの三島さん、元「バルチック艦隊」だよね。関西のオリラジって言われるくらいの注目コンビだったんだよな。こういう形でまた戻ってくるとは。

特殊枠であることは間違いないんだけど、ちゃんと漫才らしい台本になってるのはすごく好印象。ボケ自体の面白さとスタイルの興味深さでしっかり沸かせてたと思う。「召っせ召っせ召せ……」のくだりとかは言葉の面白さだけでやや上長だったので、どっちかというと「関白ゲーム」みたいに、「現代の社会・風俗を能・狂言風にやってみたら」というテーマで攻めるのが良いと思う。

あと正月には絶対呼ばれるよね。老若男女いけるタイプの芸人だから、息長く続けられそう。


5.からし蓮根
「若手! 勢い! 全力!」って感じだった。オーソドックスな漫才を、きっちり練って、しっかり練習して、自信持ってやる。正攻法で定石で王道。

伊織さんのキャラがまだちょっと固まりきってないところがある気がする。見た目活かしてちょっと不条理系に振るのか、逆にもっと明るくベタベタなボケキャラに行くのか、今後の路線が楽しみ。

あとは熊本鈍り自体がもっとネタになるといいよね。千鳥やカミナリが開いてきた道ではあるけど、やっぱり方言ってインパクトあるから、それ自体がしっかりした漫才のコンテンツになると、変化球的な漫才やってもお客さんがついてきやすいと思う。


6.見取り図
個人的には去年の方が構成は好きだった。お互いがお互いを罵るっていうWボケに近い形だったけど、どっちのボケも「それっぽい面白ワード」を言ってるだけになっていたので、有吉さんのあだ名付けとそんなに変わらない一発ネタの応酬になってしまって、漫才としての展開が薄かった。

テンション低いボケとテンション高いツッコミのコントラストは、アメリカザリガニや18KINを思い出す。テンションの高さ故のツッコミは、ハマればそれだけで笑に繋がるので、これからもこの路線を邁進してほしい。


7.ミルクボーイ
まずは優勝おめでとうございます! 劇場の「デカビタ」ネタを見たときからのファンだったので、とても嬉しい! 開催前から応援してたんですよアタシは。

正直1本目でハネたときに、優勝決まったかな、と思いましたね。

彼らの漫才のすごいところは、「あるあるネタ」と「意地の悪い偏見ネタ」を繰り返すというフォーマットにある。どちらか一方だけだと飽きられる中で、あるあるネタで視聴者の共感を掴んだと思うと偏見ネタで突き放すように笑いを取り、その揺り戻しのテンポがどんどん速くなっていく中で爆笑の渦に絡めとられる。

実際、コーンフレークは、3回戦のものより更に磨きがかかっていたし、「おかんが言うにはコーンフレークじゃないらしい」というルール前提をぶち壊すのを加えてきたのは本当にお見事。

もちろん色々なネタを求められていくだろうけど、このフォーマットだけで十分戦っていけるので、来年はたくさん新ネタ見たいです。


8.オズワルド
ミルクボーイで一気に会場のボルテージが上がったところで、相当やりづらかったのは間違いないと思うけど、その空気感をガラッと綺麗に打ち消したのはさすがのクオリティー。

一見テンションの低い漫才だけど、お互いの声が相当通るので、ぼやき漫才的な見え方をしないというのは得だと思う。このテンポでやるとワードセンスを磨くことが一番大事になるけど、伊藤さんのツッコミのセンスが非常に良かった。畠中さんの突然1往復会話飛ばすようなボケも、緩急つけるのに寄与していたと思う。常連になってほしい1組。


9.インディアンス
ハイテンションで押し切る漫才、という系統は、テレビとして(特にレットカーペット的な爆発力を求められるもの)正しい部分もあるのだけど、こういう漫才の舞台では得点に繋がらないなあと改めて思わされた。ネタ飛んだらしいのに、それを全く感じさせないで最後までやりきる力はさすがだけど。

設定に関して、「おっさん女子」というキーワードに対して披露してるのが「ただのおっさん」になってしまっているところが残念。女子的な部分もきちんと見せた方が、ギャップからの笑いも生みやすかったと思う。あとはやっぱり木村さんのツッコミのボリュームが負けてしまっていて、「掛け合い」の形になってなかった。


10.ぺこぱ
もともと着物のときに見ていたので、今こんな風に芸風変えてるとは、という驚き。でも、相当模索して今のここに辿り着いたんだな、と思う。

ツッコミかけて肯定していく、というスタイル自体の斬新度合は、大学生に流行りそうなキャッチーさがある。ただ、2本目のネタで既に1本目と近いツッコミも見えてしまって、単純に肯定し続けるだけではレパートリーが広がらない危険性も示してしまっていたと思う。「漫画みたいなボケするな……っていうけど、何の漫画だよ!」のように、肯定ともやや違う、見方を変えるツッコミをしっかり練ると、霜降り明星のように「ツッコミが楽しみになる」コンビになると思う。

あと、単純にボケとして面白いものがないので、そこがもう少しクオリティー磨けるとさらに躍進できるのでは、という気がする。



 以上、とてもレベルの高い戦いで大満足でした。来年も時間見つけて、忙しいなりにしっかり練習して、楽しい漫才をやろうな。

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