新人天使おむすびちゃん:サボり
「パタパタパタ…」
今日もおむすびちゃんは仕事をサボってどこかへ遊びに行こうとしています。
仕事をサボれない人にとっておむすびちゃんはちょっとした憧れの的です。
ちなみになんですが、今日のおむすびちゃんのお仕事はゲームのレベル上げでした。
どうやらレベルが低すぎて先に進めなくて困っている方がいたようで、そのゲームのレベル上げを依頼されたのです。
依頼者は匿名希望。誰が依頼したのか分かりません。
もちろんおむすびちゃんはこんな仕事はやりません。
「ゲームの楽しみ方を分かっていない。自分でやれ!!」
そう書き置きを残してさっさと外に遊びに行くのでした。
さて、今日はどこへ遊びに行きましょう?
おむすびちゃんは天界をフラフラと飛びながらさまよっていました。
何も考えずにさまよっていると全知全能の神、ゼウスの隠れ家まで来ました。
ちょうどその時ゼウスも同じく仕事をサボっていて、隠れ家にいたのです。
ゼウスも暇を持て余しており、何をしようか迷っているところでした。
そんな時、部屋の中からおむすびちゃんの姿を見つけます。
これはちょうどいいと2人で遊ぼうと思っていたのですが…おむすびちゃんはこの隠れ家を通り過ぎてしまいます。
今日はどこか違うところに行くようです。
ゼウスはなんだかフラれた気持ちになりがっくりと肩を落としました。
おむすびちゃんはしばらくしてある場所に着きました。
空から降りて建物の中へと入ります。
おむすびちゃんは建物の中をてちてちと歩きます。
「おい、なんでこんなところに天使がいるんだ?」
おむすびちゃんの姿を見た者たちはびっくりしています。
おむすびちゃんはキョロキョロと辺りを見渡しますがお目当ての人物がいません。
仕方がないのでその人物を探すことにしました。
「関係者以外立ち入り禁止!!」
そのような紙が書かれた扉をおむすびちゃんは平気で開けて中に入ろうとします。
「お、おい!!」
おむすびちゃんを止めようと関係者たちは止めようとします。
ちょうどその時扉の中からお目当ての人物が出てきました。
「おじちゃん、暇だから遊びに来たよ!!」
関係者たちはびっくりします。目が点です。
おむすびちゃんがおじちゃん呼ばわりした人物はとっても偉い方人物なのです。
だってその者は地獄の王と呼ばれているのですから。
そうです、おむすびちゃんが今対峙しているのは、すべての死者を裁く閻魔大王なのです。
おむすびちゃんは地獄に遊びに来ていて、関係者というのは鬼たちでした。
鬼たちは天使が閻魔大王と仲が良いなど信じられません。
「おむすびちゃん、ワシ休みたいんだけど」
おじちゃん呼ばわりされても全く動じない閻魔大王。
どうやら本当に仲が良いようです。
「休みたい?えっ?仕事サボり?」
閻魔大王に向かって何ということを口にしているのでしょう。
鬼たちは冷や汗が出てきました。
閻魔大王は苦笑いします。
「おむすびちゃんに言われたくないよ。それにワシ夜勤明けでこれから休むんだから」
「へぇ~そうなんだ。ちょうど私も空を飛んできて疲れたから一緒に休もう」
「…1人で休みたいんだけど」
「いいからいいから。気にしないで」
「………」
閻魔大王は諦めました。
「じゃあワシ休むから。何かあったら起こしてくれ」
閻魔大王は自分の補佐官に声を掛けました。
「かしこまりました。ごゆっくりお休みくださいませ」
閻魔大王とおむすびちゃんは関係者以外立ち入り禁止の扉の中に入って行きました。
そして閻魔大王の自室の中に着きます。
「どーん!!」
部屋に入るや否やおむすびちゃんは閻魔大王が練るとっても大きなベッドにダイブします。
「おむすびちゃんは疲れてても元気いっぱいだねぇ」
閻魔大王はおむすびちゃんの姿を見て笑みをこぼしました。
「ところで今日はどんな仕事をサボったんだい?」
「う~んとねぇ、匿名希望さんのゲームのレベル上げ」
「…それは…ワシでもサボっちゃうねぇ」
閻魔大王はおむすびちゃんに理解を示しました。
おむすびちゃんは閻魔大王と一緒にお昼寝しようと思ったのですが、閻魔大王はちっとも休もうとしません。
机の上で何やら真剣に報告書を読んでいます。
「おじちゃん、休まないの?」
おむすびちゃんは心配そうに声をかけます。
「あぁごめんごめん。ちょっとだけ勉強したくて。おむすびちゃんは休んでいいからね」
「おじちゃん、あんまり無理しちゃダメだよ」
「ありがとう」
おむすびちゃんはベッドに寝転びながら閻魔大王を見守ることにしました。
眠い目をこすりながら報告書を読む閻魔大王。
そんな閻魔大王におむすびちゃんは問いかけます。
「…おじちゃんはどうしてそこまで頑張るの?」
「ワシの仕事は死者を裁く仕事。天国行きかそれとも地獄生きか。その判断に絶対間違いがあっちゃいけない」
閻魔大王は凝り固まった肩をぐるぐる回しながらしゃべり続けます。
「だから日々勉強しなきゃいけないんだ。人間たちの生き方や文化。世界情勢なんかもそうだね。それらは日々目まぐるしく変化するから。正しく裁きを下すために必要なことなんだ」
おむすびちゃんはベッドから起き上がります。
そして大きな閻魔大王の肩を揉み始めます。
「じゃあ私の仕事はそうやって頑張るおじちゃんの肩をもんであげることだ」
おむすびちゃんの小さな手で精一杯力を込めて閻魔大王の肩を揉んであげます。
「仕事をサボったおかげで本当にしなきゃいけないことに巡り合えた」
おむすびちゃんは閻魔大王に向かってニコッと微笑みかけました。
「ありがとう、おむすびちゃん」
普段閻魔大王に向けられる表情は死者たちの怯えた表情や鬼たちの畏怖が込められた表情ばかり。
おむすびちゃんのその優しい笑顔は閻魔大王の胸を温かくするのでした。
その後1時間ほど報告書を読み続け、限界が来た2人はベッドの上で大の字になって仲良くお昼寝をするのでした。
―3時間後—
「プルルルル!!」
おむすびちゃんの携帯電話に着信が入ります。
電源は切っていたのに。どうやら緊急のコールで強制的に電源が入ったようです。
「はい…おむすびでしゅ」
寝ぼけながらおむすびちゃんは電話に出ます。
「おむすび!!何やってんだ!!今すぐ戻ってこい。依頼者がプンプンだぞ!!」
「へーい、今から戻ります」
先輩天使がプンプン丸だったので仕方なく戻ることにしました。
閻魔大王も目を覚まし、おむすびちゃんに語り掛けます。
「おむすびちゃん、どうかした?」
「あはは、仕事サボって匿名希望さんが怒っちゃったみたい。戻らなきゃ。ごめんね、起こしちゃって」
「いいよいいよ…うん、そうか…ワシも一緒に行こう」
「え?どうして?」
「ゲームのレベル上げなんてバカな依頼をした奴を裁かんといかんからな」
閻魔大王はニヤリとしました。
「おむすびちゃん、ついでに一緒においしい物でも食べよう」
「えっ?ホントに?やったあ」
2人はベッドから起き上がり天界へと向かうのでした。
ちなみに閻魔大王が運転する車で目的地に向かう途中、おむすびちゃんはメールが来ていたことに気が付きました。
「あ、おじいちゃんからメール来てる」
「おじいちゃん?誰だい?」
「ゼウス様だよ」
「ゼ、ゼ、ゼウス様?どんなメールなんだい?」
「え~っとねぇ」
おむすびちゃんはメール内容を読み上げます。
「ワシ暇」
「遊ぼう」
「今どこにいるの?…ってな感じ」
「おむすびちゃん、とりあえずすぐにメール返信しないと」
閻魔大王はおむすびちゃんを心配します。
「そうだね、え~っと…私は忙しい。サボってないで仕事しなさい…これで良しっと」
「…おむすびちゃん、君すごいね」
「大丈夫、大丈夫。さぁドーンと行ってみよう!!」
そう言って2人は天界の中を車で突っ走って行くのでした。
本日も天界と地獄は平和です。
めでたしめでたし。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?