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ニーズの広さや深さは人材の育成で実現

[要旨]

ニーズの広さに対応するドトールコーヒーはピードを、ニーズの深さに対応するスターバックスコーヒーは心づかいを、それぞれ従業員のレベルで実現し、競争力を高めています。すなわち、ニーズを広めたり高めたりするためには、商品そのものだけでなく、自社の理念を実現するための従業員のスキルも備える必要があります。

[本文]

今回も、前回に引き続き、中小企業診断士の佐藤義典先生のご著書、「図解実戦マーケティング戦略」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回まで、ニーズの広げ方、深め方について説明してきましたが、佐藤先生は、コーヒー店のポジショニングの事例について述べておられます。「コーヒー中毒で、エスプレッソ大好きの私は、コーヒーチェーンによく行きます。スターバックスだと、エスプレッソのエクストラショット(シングル1杯分の追加)が50円です。私は、ダブル(スターバックス用語ではDoppio)でも足りないので、エクストラショットを3つ分頼んで、『クアトロ』のエスプレッソを注文しています。

店員さんに、『エクストラショットは何杯まで頼めるのですか?』と聞くと、『カップに入る限り何杯でも大丈夫です。このあいだなんて、8ショット頼んだ方がいらっしゃいましたよ。しかも、氷を入れて…』と、会話が続きました。会話を楽しめるコーヒーチェーンはなかなかありません。(中略)ドトールにもよく行きますが、店員さんのオーダーこなしていく手際は見事なものです。すさまじいスピードで行列しているお客様をさばいていきます。同じ『戦場』で戦うコーヒーチェーンの両巨頭、ニーズの広さのドトールはスピード、ニーズの深さのスターバックスは心づかい、それぞれ従業員のレベルでできているからこそ、勝ち残ってきたのですね」(184ページ)

佐藤先生は、スターバックスコーヒーとドトールコーヒーの違いを的確にご説明しておられます。スターバックスコーヒーは、多くの方がご存知のように、サードプレイスを提供することを基本としています。一方で、ドトールコーヒーを創業した鳥羽博道さんは、「おいしいコーヒーを、消費者の負担のない価格で提供したい」という思いで、同社を創業しました。同社が創業した1980年当時、コーヒーの価格は1杯150円だったそうですが、これは一般的なコーヒー店のコーヒーの約半額だったそうです。だからこそ、ドトールコーヒーは「スピード」を重視しているのだと思います。

一方、スターバックスコーヒーは、注文を受けてから、あえてゆっくりとコーヒーをつくり、急いでいる顧客に「嫌われる」ようにしているそうです。一般的には、たくさんの商品を売りたいと考えるところですが、ニーズを深めようとしているスターバックスコーヒーは、顧客を絞り込んでいると考えられます。そうすることで、最終的には同社の競争力が高まることになるのでしょう。ところで、佐藤先生は、とても重要な指摘をしておられると思います。それは、「ニーズの広さのドトールはスピード、ニーズの深さのスターバックスは心づかい、それぞれ従業員のレベルでできているからこそ、勝ち残ってきた」というところです。これは至極当然のことなのですが、経営者の方が見落としがちなことだと、私は考えています。

スターバックスコーヒーやドトールコーヒーのようなコーヒー店の場合、どういうコーヒーや店舗にしようかという点に、経営者の方の目が向かいがちですが、ドトールコーヒーはスピードを重視しているわけですし、スターバックスコーヒーは心づかいを重視しているわけですから、それを実現できるような人材も育成しなければなりません。そういうった特徴を実現するためには、一般的な接遇さえできればよいのではなく、さらに、自社の理念にそったスキルを備えてもらう必要があります。むしろ、スターバックスコーヒーやドトールコーヒーは、提供するコーヒーと同様に、サービス面に注力してきたことが高い競争力を実現していると、私は(佐藤先生もですが…)考えています。

2023/2/13 No.2252

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