不祥事後の対応はミッションに基づく
[要旨]
1982年に、米国のJ&Jの製造している頭痛薬のタイレノールに毒物が混入され、7人が死亡するという事件が起きましたが、その際、同社は全米の製品を回収しました。この事件は、同社に責任があるわけではないのですが、同社がクレドに基づく行動をとったことで、大きな評価を得ることになりました。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、組織を活性化する手法に、エンパワーメントと権限委譲があり、前者は、部下が自己成長し、さらに力を発揮できるような環境づくりやサポートが成功の鍵となるもので、後者は、意思決定の迅速化や管理者不足の解消を目指すものであるということを説明しました。
これに続いて、岩田さんは、リーダーの謝罪の仕方について述べておられます。「起業の謝罪の対応として有名なのが、1982年のアメリカの頭痛薬、『タイレノール』への毒物混入事件、2008年の『ジャパネットたかた』の顧客情報漏えい事件です。タイレノールの販売元である、ジョンソン・エンド・ジョンソンは、毒物が混入されて、7人が亡くなったことを知ると、直ちに全米のタイレノールをすべて回収しました。情報を徹底的に公開し、広告や顧客対応に巨額のコストをかけて事件が起きる可能性を元から断ち、混入されにくい新たな工夫を施したパッケージに改良するまで、販売をしませんでした。
ジョンソン・エンド・ジョンソンの信条(クレド=MVV)に従って対応しました。ジャパネットたかたの顧客情報漏えい事件は、元従業員が別の社員と共謀し、企業が保有する販売目的のパソコンを窃盗、さらに、顧客の個人情報が入ったCD-Rを持ち出しました。結果、顧客情報が外部に流出することになり、同社は1か月半も営業自粛を行い、テレビ通販も中止し、徹底して体制の再構築に努めました。どちらも、『そこまでやらなくてもいいのではないか!』というほどの対応をしました。
そもそも、タイレノール事件は、あくまで犯人が毒物を混入して、人を殺したことが事件の本質であり、ジャパネットたかたも、監督不行き届きがあったにせよ、悪意を持った社員の犯罪です。両社は被害者でもあるのです。『俺だって寝ていないんだ!』と、社長が開き直って経営悪化して解体された某食品会社とは大きく姿勢が違います。オーナー系は、仮に大きな失敗を認めても、クビになることはありません。一方、サラリーマン社長は、責任を取る=辞任になり、保身から失敗を認めにくく、隠蔽する傾向があります」(330ページ)
私事で恐縮ですが、私が大学を卒業してから勤務した地方銀行は、入社15年後に経営破綻しました。そして、破綻後の旧経営陣は、岩田さんのいう「サラリーマン社長」のような行動、すなわち、保身のための行動をしていました。破綻前は、従業員の賞与をなくし、給与も減額する一方で、愛社精神を煽って業績を回復させようとしていたのに、破綻後は、自らの責任を否定したのです。(旧経営者は、その後、銀行からの損害賠償請求訴訟において、最終的には、自らの責任を認めました)
私は、勤務していた銀行が破綻したことについては、「これだけ頑張ってきたのだから、結果が破綻だったとしても仕方がない」という思いはあったのですが、旧経営者が、自分の責任を否定したことについては、部下たちの努力を踏みにじるような行為であり、これについては強い憤りを感じました。とはいえ、その経営者たちも、職員から昇格した人たちなので、役員になったからといっても、サラリーマン的な対応をすることは理解できます。
また、銀行の破綻に直面し、自らの責任を認めることは、普通の人にはなかなかできる行為ではないということも理解できます。しかし、経営者になることを選択したからには、結果責任から目を背けることは、筋が通りません。やはり、顧客、従業員、そして社会的な影響を考えれば、誠実な対応は必須であると私は考えています。
ところで、経営コンサルタントの一倉定さんの、「電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも社長の責任だ」という名言は広く知られていますが、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)や、ジャパネットたかたのような対応は、経営者が一倉さんのような考え方をしていなければできない対応です。そして、現在は、不祥事を起こした会社は、J&Jやジャパネットたかたのような誠実な対応をしなければ、評価されなくなりつつあります。これは、経営者にとっては厳しい流れであると思いますが、一方で、両社のような対応をすることが、不幸にして不祥事が起きた後の損害を、最小限に抑える方法でもあると、私は考えています。
2024/4/29 No.2693
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