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法定耐用年数より短期間の償却は不可?

[要旨]

もし、会社が減価償却費を計上しない場合、企業会計原則に触れることになりますが、税務署は、納税額が減らない、または増えるために、特にそれを問題視しません。しかし、法定耐用年数より短い期間で減価償却を行おうとすると、減価償却費が増加し、納税額が減るため、法定耐用年数で償却した減価償却費を超える減価償却をした場合、その超える部分は益金として課税されます。

[本文]

前回に引き続き、今回も、税理士の大久保圭太さんのPodcast番組を聴いて、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、会社が利益額を増やすために減価償却費を計上しないことがありますが、会社は減価償却の対象となる固定資産を使って事業活動をしている以上、減価償却費を計上しないことは、決算書が会社の実態とは異なる状態を示すことになりますが、このようなことは、会計の基本的なルールであり、実質的には法律と同様の位置づけと考えられている、企業会計原則に触れることになるということについて説明しました。

では、今回は、大久保さんに質問をしたリスナーの方の顧問税理は、会計に関する専門家であるにもかかわらず、なぜ、減価償却費を計上しないことを、リスナーの方に提案したか、その理由について考えられることについて述べたいと思います。その一つは、大久保さんも言及しておられるように、税務署は、減価償却費を少なく計上しても、何も指摘しないからではないかと思います。

これは、逆の見方をすれば、税務署は、減価償却費を多く計上したときだけ、問題視します。(この説明は不正確ですが、詳しい説明は後述します)税務署が減価償却費を多く計上することを防ぐため、法定耐用年数を定めています。例えば、自動車の法定耐用年数は5年ですが、これより短い期間、例えば3年で償却しようとすると、1年あたりの減価償却費は多くなります。そこで、税務署は、3年で償却しようとする会社があったときは、5年で償却するときの金額だけ損金(税金を計算するときの費用)として認め、それを超える部分は損金としては認めません。

では、損金として認められる金額を上回る減価償却費はどうなるのかというと、その会社は、法人税等の計算のとき、その損金として認められない金額は、益金(税金を計算するときの利益)として計算します。すなわち、法定耐用年数通り(または、それより長い期間で)減価償却をするときよりも、多くの税金を支払うことになるます。したがって、税務署は、厳密には、法定耐用年数より短い期間での減価償却を禁止しているのではなく、多くの税金を支払わせることにしているということです。これを逆に言いえば、納税額を多くすれば、税務署は法定耐用年数より短い期間での減価償却を認めています。そこで、日本の多くの会社では、法定耐用年数通りに減価償却を行っています。

では、法定耐用年数より短い期間で減価償却を行っていない会社はないのかというと、数は少ないですが、そのような会社もあるようです。例えば、京セラ創業者の稲盛和夫さんは、稲盛さんのご著書、「稲盛和夫の実学-経営と会計」で、自主耐用年数を使っていたと述べておられます。「経理・税務の専門家は、『決算処理上6年で償却したとしても、税法上は、(京セラで使っているセラミックの粉末を成型する設備は)12年で焼却しなければならない。だから、もし、そうすれば、最初の6年は償却が増えて、利益は減る。

ところが、税金の計算では、法定耐用年数の12年での償却となるので、利益は減っても、その分の税金は、減らないことになる。いわゆる税金を払って償却する、有税償却になる』と言うであろう。(中略)たとえ、実務上の常識がそうであったとしても、経営や会計の原理原則に従えば、有税であっても、償却すべきである。6年でダメになるものを、12年で償却したら、使えなくなっても償却を続けることになる。すなわち、実際に使っている6年間は、償却が過小計上されており、その分が、あとの6年へ先送りされていることになる。『発生している費用を計上せず、当面の利益を増やす』というのは、経営の原則にも会計の原則にも反する。

そんなことを、毎年、平然と続けているような会社に、将来などあるはずがない。『法定耐用年数』を使うという慣行に流され、償却とはいったいなんであり、それは経営的な判断としてどうあるべきなのか、という本質的な問題が忘れられてしまっているのである。だから、京セラにおいては、法定耐用年数によらず、設備の物理的、経済的寿命から判断して、『自主耐用年数』を定めて償却を行うようにした」(25ページ)このように、稲盛さんは、法定耐用年数に逆らってまでも、実態に即した会計報告を行うことが経営に資すると判断したようです。

それでは、法定耐用年数に問題があるのかというと、法定耐用年数にも一定の合理性があるので、必ずしもそうとは言い切ることはできないと思っていますが、この点についての説明は割愛します。話を本題に戻すと、税務署は、前述のような事情から、減価償却費を少なくしても、それを問題視しないため、リスナーの方の顧問税理は、減価償却費を計上しないことを、リスナーの方に提案したのだと思われます。とはいえ、前回、説明したように、税務署が問題視しないからといって、減価償却費を計上しないことは、会計的な観点から問題があることに変わりはありません。この続きについては、次回、説明します。

2024/7/17 No.2772

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