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この異世界は、異世界じゃない〜第五話〜

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➖混在する記憶と想い➖

「ん?どうかしました?」

「あ……いや……ごめん、ちょっと見過ぎだよね。晴さんが知り合いにすごく似てるから、気になってしまって」

「へぇ〜、そうなんですね。その方のお名前は?」
「晴……暁月あかつきはる

「――え?」

 旭が、そう答えた時、晴の表情から焦りのようなものを感じる。だがそれは、旭の言葉を聞いて、そういう態度をとったのではないと、すぐに分かった。

 聞き慣れた音。3頭か……馬の足音が近付いてくる。晴の視線の先に目をやる旭は、それらを見て驚愕した。

「晴……なんだその男は?」

 従者を連れ、馬にまたがったまま、声をかけてくる男を見上げる旭は、震える。

 恐ろしいのではない。怒りが込み上げてくるのだ。だがそれは良くない、落ち着け、コイツはアイツじゃない。晴さんが晴でないように、きっと他人なのだから……。

「えっと……こちらの方は……道に迷われたようで、クロズミ領まで、ご案内をしていたのです」

「道に迷った?……珍しい服装をしているようだが、敵領からの間者かんじゃとかでは、ないだろうな」

「いえ、長い旅で従者とも、はぐれてしまって、途方に暮れていたところです。出来ればクロズミ領で人探しをさせていただこうと、思いまして。私は結城ゆうきあさひといいます」

「……たしかに、肌ツヤからして戦場にいるようには見えんな。俺はクロズミ領の【ヤチホコ】……【影沼かげぬま隼人はやと】だ。結城とやら、クロズミ領であまり目立ったことは、しないことだ」

「……はい、ありがとうございます」

 旭は、軽く頭を下げ「では、引き続きよろしくお願いします」と、晴のほうに向き直った。

「晴、着いたら屋敷まで来い」
「はっはい、承知しました」

 影沼の去り際に少し視線を感じたが、目を合わせないようにした旭は、無理に口角をあげた自分に、嫌気がさす。

 晴が困るようなことはしない……か。どうやら、いよいよ、異世界じゃないと思えてくる。

 晴さんの態度からして、彼女は影沼に対して恐怖を覚えているようだった。せめて、こちらの晴さんだけでも幸せになって欲しい。

 生きていく理由は……あるのかもしれない。

♦︎♢♦︎♢♦︎♢

「ありがとう……あっちゃん……来てくれて」

「この度は、ご愁傷様でした。晴、咲子さきこさんもこの度は本当に……残念です」

「あっちゃん……うう……」

「旭くん、ありがとうね。吾郎さんも喜んでるわ。あの人、旭くんのことは息子のように思ってたから……もちろん、私もよ」

「僕もお二人を本当の両親のように思っています。だから……吾郎さんが亡くなって……う……お二人のほうが辛いのに……それなのに、僕……泣いてもいいですか?」

「……あっちゃん」

「旭くん、我慢しなくていいのよ。そんなに思ってくれてるなんて、吾郎さん、天国で泣いてるわよ」

「……はい……あぁ……あぁぁ」
「うううっ……あっちゃ〜ん!」
「よしよし、二人とも本当に、まだまだ子供ね」

♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 クロズミ領。空が広く見える、まさに宿場町。この広大な領地の奥に見える城。あそこに【スサノオ】である、黒住くろずみ玄徳げんとくがいるんだろう。

 玄徳先生……晴さんと影沼の雰囲気を見る限り、まず間違いなく、あの玄徳先生と性格も近いだろう。
 だとすれば、この領地を生きていくなら……あの城に辿り着くことが、とりあえずの目標になりそうだ。

 江戸時代の雰囲気を思わせる街並み。実際はどこまでが近いのか……俺も教科書やネットの情報でしか知らない。ただ晴さんの格好は大正浪漫のような風貌だ、完全に時代が入り乱れているようにも感じる。

 いや……それは俺の主観でしかない。そもそも、時代を比べることがおかしい。

 なぜなら、ここは異世界なんだから。

はるに連れられるように、少し後ろを歩くあさひは、観光に来た旅行者のようにキョロキョロしたりはしない。

 ただでさえ目立つ格好をしてる自覚はある。

 あきらかに浮いてるんだよなぁ。早急に服を変えないと、目立って、あの影沼に目をつけられるかもしれない。玄徳先生に会うまでは、極力おとなしくしとかないとな。

「旭さん、とりあえず、ここがわたしの家です。あまり、おもてなしは出来ないですが……」

「いえ、とんでもない。少しだけ上がらせてもらいますね」

 晴さんの家。他の家とそんなに変わらないだな、晴さんは、少し家柄がいいように見えたが、平均的な家庭ということか。

「あっ!わたし、両親に旭さんのこと、説明してきますので、こちらで少しお待ちください」 

「――!あ……うん」

 ドクンッと、旭の心臓が鳴る。両親……そうだった。まったく考えていないわけではなかった。ただ、やはり可能性はあると思った。

 奥のほうで、話し声が聞こえる。懐かしい声だ……ふぅ、自分を中心に考えてしまう。この世界はすべて、自分自身のためにあるんじゃないかって思ってしまう。

 冷静に対応出来るかな?晴さんの時は、何がなんだかわからない状況だったし、こうやって覚悟して会うとなると、やっぱり緊張する。

♦︎♢♦︎♢♦︎♢

「旭!神事しんじの件、受けたんだってな。咲子と晴、連れて見にいくぞ!」

「――!吾郎さん、恥ずかしいから、当日声かけないでね」
「なに!?恥ずかしいとは何だ!横断幕も作ってるんだぞ!」

「横断幕!?それだけは絶対やめたほうがいい。吾郎さん、神事なんだよ。神聖な儀式に横断幕はマズイって。声援もダメだからね!」

「そっ……そうか?せっかく、旭の晴れ舞台なのに」

「玄徳先生に怒られるよ」

「――!それは怖いな。だが、旭!」

「何?」

「頑張れよ」

「……一射いっしゃだけだよ」

♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 吾郎さん……吾郎さんではないのだろうけど、また会えるなんて、嬉しいな。

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