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この異世界は、異世界じゃない〜最終話〜

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➖この異世界は、異世界じゃない➖

薄明かり。レイメイとの待ち合わせ場所へ向かう旭は、少し遅れた時間を取り戻すように駆け出した。

 晴を宥め、吾郎たちや街の者達への報告に時間を使い過ぎたのだ。

「お待たせ、レイメイ」
「……」

「あれ?怒ってる?俺が遅れてきたから……じゃなさそうだね」
「ふん!君は死ぬとこだったんだよ」
「ごめん……」

「君はいつもそう!自分のことを第一に考えてほしいよ……」
「でも……助けてくれたんだね」

「――!」
 一瞬驚いたように目を見開き俯くレイメイ。やっぱりそうか……聞いた話では「黄昏の義賊」は戦場を蹂躙すると言っていたが、あのときの彼らはあきらかに俺たちを助けていた。

「……」
「本当は知らないフリをしようかと思ってたんだ……どこかに行っちゃいそうだから……でも、死と直面して気付いたんだ。後悔のないように生きたいって……だから……話してほしい……レイメイのこと……知りたいんだ」

「……そうだね……わかったよ。私も覚悟が出来た……少し長くなるよ」
「うん」

「遡ること108年前、この国が「日本」と呼ばれていた時代……」

♦︎♢♦︎♢♦︎♢

わぁ、こっち、こっち……子供たちの楽しそうな声。
「痛っ!……う……うう……うわ〜ん」
 少年が転んで怪我をしたようだ。

 少年に駆け寄る一人の男。その手は優しく光を放ち少年の傷を癒していく。

「まったく……君は誰にでも手を差し伸べるんだな」
レイメイが男に呆れている。

「君には【カイヒャク】である自覚はあるのか?」

「自覚なんてないよ、でも俺はただ、民の笑顔が見たいんだ」
「まあ、君のそういうところがいいんだけどね」
「レイメイ……」

 男とレイメイは見つめ合い、お互いの眼差しには、愛情すら感じられる。 

「あぁ、イチャイチャしてる〜」
 二人のいい雰囲気をぶち壊すように、子供たちが二人の周りを走り回る。
「コラ〜!」
「「逃げろぉ〜」」

「幸せだなぁ」と呟く男は、微笑むようにそれを眺めていた。


「ねぇレイメイ、こんな日がずっと続けばいいのにね」
「君なら出来る。ヨアケなら出来るよ。【カイヒャク】として……こんな幸せな世界を創れる……きっと……」

「そうだね……頑張るよ」

「ただまだ、君がカイヒャクになったことは誰も知らないからね。「ヤオヨロズ」にも報告するんでしょ?」

「うん、あそこは武力主義だからちゃんと話し合おうと思う。だけど武力で押し通すなら残念だけど、対抗するしかないね」

「そうね」
 不安気に俯くレイメイ。

「大丈夫だよ。俺はレイメイやみんなを幸せにしたいだけだ。俺たち【セツナの一族】はこれからも静かに暮らしていくんだ」

「そうね……」
 見つめ合う二人……。二人の距離は徐々に近づき、目を閉じるレイメイ。お互いの呼吸が届きそうなとき……。

「ああ〜またイチャイチャしてる〜」
 子供たちが足元から覗き込むように見ていた。プルプルと震えるレイメイは「き〜み〜ら〜ね〜!」と顔を真っ赤にすると、再び追いかけ回すのだった。

「ゴラァ〜!待ちなさ〜い!」

「ふふふ、いや〜幸せだなぁ……」

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 数日後。ヨアケは自分が【カイヒャク】であることをヤヲヨロズへと報告した。ヤヲヨロズは「セツナ」の分家であり、もともと一つであった一族は、思想の違いから二つに分かれてしまったのだ。

 代々、【カイヒャク】に目覚めた者はいない。しかし、もしそのような者が現れれば、ヤヲヨロズとセツナを一つにし、その者が「一族」を治めていこうと取り決めていた。

 つまり、【セツナの一族】である『ヨアケ』が「カイヒャク」に目覚めたということは、この「二つに分かれてしまった一族」を一つにし、今代それを治めるのは……【セツナ】である、と確定したも同然だった。

「セツナの一族」は特殊な能力を持っている。彼らは【薄明の刻】にさまざまなチカラを使うことが出来る。ある者は水を、またある者は火を使い、その能力は人々の生活を豊かにした。

 しかし、セツナの一族のなかには「武」をもって「日本」という国を支配すべきだと主張する者達もいる。よって、思想は二つに分かれた。

 セツナ……一族だけで静かに暮らすべき

 ヤヲヨロズ……日本をチカラで支配して統治するべき

 だが、一族の取り決めのなかで、【カイヒャク】が生まれれば、その代より一つになろうと……。

【カイヒャク】……すべてを司る者、数百年前に一族の祖として存在した者。通常「マジックアワー」は一人の人間に一種類だが、カイヒャクはすべてを使える。つまり始祖だ。

 始祖が分かれた思想を一つにする……これがセツナとして生まれた者達の伝え、守られてきたこと。

 しかし、【ヤヲヨロズ】は行動を起こした。

ヤヲヨロズの刺客がセツナの街へ奇襲をかけたのだ。 

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「レイメイ!無事か!」
「ヨアケ!みんなが……みんなが……あぁ……どうして……」
「逃げるんだ!ここは俺がなんとかする」

「ダメよ!君を置いてはいけない!君は希望なんだよ。特別なんだ。しんがりは私が務めるからヨアケ、君が逃げるんだ!」

 夜中に、奇襲を受ける「セツナの街」。燃え盛る家々に、虐殺されるセツナの一族。この時間帯にはマジックアワーはまだ使えない。

 だが街に火を放たれ、逃げ場を失ったセツナの一族。

レイメイやみんなを守るためヨアケは剣を持ち迎え撃つ。

 放たれる矢を打ち落としながらも一人戦い続けるヨアケは、凄まじい剣技で「ヤヲヨロズ」の刺客を打ち倒していく。

 だが、あまりにも数が多すぎる!四方八方からの矢が少しずつヨアケを捉えていく。

「ぐっ……」

「「「カイヒャクを打ち殺せ!」」」
「「「コイツさえ殺せば後は雑魚だ!」」」

 数時間にも及ぶ戦いのなか、たったの一人で立ち回るヨアケの身体は全身血だらけ……。たった一つの逆転の刻を待つ!

 ボロボロになりながら【薄明】を待つ、これが唯一の道。

 薄明かり……空が魔法のように色がつく……【薄明の刻】……。

「「氷の皇・天」!「風の皇・市」!「治癒の皇・航」!」

 同時に三つの「マジックアワー」発動!風に乗り空を舞う。360度の超広範囲の空に、無数の氷の剣が現れた。

 氷の剣は「ヤヲヨロズ」の刺客に高速で降り注ぐ!

「「「ギャァァ」」」

 地獄のように燃え盛る街は氷により消火され、押し寄せる敵も倒していく。ヨアケは一度の「マジックアワー」ですべてを一掃していく!

「動くな、ヨアケ!」

 禍々しい魔力に包まれた長髪の男が、レイメイの背後を取り首元に刃を突き立てている。

「――レイメイ!」

 ヨアケがその動きを止めた。

「ヨアケ……頼む……私もろとも【ツクヨミ】を討て!この男さえ討てばこの戦いも終わる……お願いだ!」

「黙れ、レイメイ!……ヨアケ、少しでも動けば愛するレイメイが死ぬぞ」

「……分かった……」

「ヨアケ!君は死んじゃダメなんだ!私の命は軽い、だが君は違う。世界を変えるチカラがあるんだ!【カイヒャク】としての自覚を持て!」

「……ごめん……レイメイ」

ザクザクッとヨアケの背中に矢が刺さる。

「うぐっ……」

「ヨアケ〜!」
 叫ぶレイメイ。

「「治癒の皇」は使うなよ。使えばレイメイを殺す」

ツクヨミは闇の魔力を左手に集中させる。稲光とともに凄まじいチカラが、その手に収束していく。

「終わりだ、ヨアケ〜!これからは【ヤヲヨロズ】の時代になるぞ!「闇の皇・天」!」

 地をえぐるほどの波動がヨアケの胸を貫く!

「ヨアケ〜!」
「ハハハ!ヨアケ、ついでにレイメイも殺してやるから、あの世で一緒に暮らすんだな!」

 ツクヨミは右手に持ったナイフで、レイメイの背中を刺し心臓を貫いた。

「――あぐっ!」
 レイメイはその場に倒れ、それでもヨアケを見つめる「あぁ……ヨアケ……死なないで」。ヨアケは血まみれで俯き、それでもまだ二本の足で立っている。

「ハハハ、心臓を撃ち抜かれても立つか!死んでいると思うが復活出来ないように粉々にしておこう。「闇の皇・天蓮」!」

「……やめて……」
 薄れゆく意識のなかレイメイは涙を流し、手を伸ばす。「ヨアケ……」と声にならない声で……。

「……「光の皇・天蘭」」

 ヨアケの身体が光に包まれ、闇の波状攻撃を打ち消した。光に包まれたヨアケは光速で抜刀!

天蘭麒麟てんらんきりん……」
 刹那の剣技……ツクヨミにそれを捉えることは不可能だ。身体強化により人の領域を超えたスピードで繰り出される斬撃は、ことわりを無視している。

「――な!?」
 ツクヨミがそう呟いたときにはすでに終わっている。身体はバラバラと地面に落ち完全に絶命していた。

 ヤヲヨロズの残党はツクヨミの死とともにセツナの街から退いていく。

 ヨアケはレイメイのもとへ駆け寄ると、「治癒の皇・天」を発動!

 街を丸ごと包み込むその光は、瀕死の者までも治癒していく。生き残ったセツナの一族は100人ほど……皆はヨアケのもとへ集まって来る。

 ヨアケはひざまずき、レイメイを抱き上げた。

「レイメイ……気が付いた?」
「……ヨアケ?……良かった……無事だったんだ」

「……」
「――どうしたの?ヤヲヨロズは、君が追い払ってくれたんでしょ?どうしてそんな顔をするの?」

 ヨアケは愛しいレイメイの頬に手を添える……レイメイもその手に触れて「どうしたの?」と繰り返し尋ねる……。

「レイメイ……俺は間に合わなかったみたいなんだ……」
「間に合わなかった?」

「肉体はすでに死んでいるようだ……今は魂を繋ぎとめているに過ぎない……ごめん」

「――え?……死んでいる?」

「魔力が切れた時点でおそらく死ぬ……ツクヨミの攻撃ですでに死んでいたみたいだ……だから、ごめん……ずっと一緒にいれなくて……ずっと一緒にいる約束……守れなかった……」

 呆然とするレイメイの顔に涙が落ちてくる。ヨアケの涙を見てこれが現実だと、思い知らされる。

「そんな……君がいなければ……私は……私が生きていく意味はない……私も一緒に死にたい」

「レイメイ……『限りある命……大切にしてほしい』。愛する人の命を少しでも守れることが出来たなら……俺は生まれてきた意味があると思う。だから……だから、生きて欲しい……俺が幸せにすることは出来なかったけど……君が幸せなら俺はいい……俺はきっと、君を守るために生まれてきたのだから……」

「いや!……いやだ……私も同じ気持ちだから!君の幸せを願っていたから……お願い……置いていかないで」

「レイメイ……愛してる」

「いやぁぁ〜!」

 レイメイの叫びとともにヨアケを包んだ光が消えていく。集まった100人の「セツナの一族」が【カイヒャク】の死を嘆き祈りを捧げる。

「「「希望を死なせない!」」」

 100人の「マジックアワー」が【薄明】の空に『ブルーモーメント』と『ビーナスベルト』を作り出し、ヨアケの身体が消えていく。

 ブルーモーメントとビーナスベルト、そして100人のマジックアワーの祈りがヨアケを『転生』させる。

 『転生』という禁忌を犯した代償とともに「セツナの一族」は【呪い】を受けることになる。

 生き残ったセツナの一族は、「薄明の刻」を彷徨う亡霊となり、死ぬことも許されない【黄昏の一族】となったのだ。

 その後、108年もの間、彷徨い続けるレイメイたち【黄昏の一族】は変わりゆく世界を傍観することになる。

「日本」は【ヤヲヨロズ】となり、【五神】が支配する武力主義の国と成り果てた。

 『転生』の儀より90年後、ヨアケの魂は「あったかもしれない異世界」へと渡り、同じ日本という国の男の子として生まれた。

 男の子の名前は、結城旭ゆうきあさひ

♦︎♢♦︎♢♦︎♢

「君は17歳で【カイヒャク】に覚醒し、ここへ戻ってきた。108年もの間、ずっと待っていた。あの街で……セツナの街で……」

 そうか……。俺にとってこの世界は……。

「この異世界は、異世界じゃないんだね」

「そうだね……どちらも君の世界だね」

「レイメイ……どうして、こんなにも君が気になるのか。一緒にいたいと思うのか……そして今ならわかる気がする……俺はレイメイが好きなんだ。一緒にいればいるほど惹かれてる。きっと、俺は君の「呪い」を解くために戻ってきたんだ」

「ふふ……君らしい答えだね」

「レイメイ、俺にはいろんな目標があるけど、呪いが解けたら……あの……その……一生、側にいてほしい」

「――?それは前から言ってるだろ」

「いや……ヨアケのときみたいに……というか、なんというか……」

 照れて顔が赤くなる旭は、まともにレイメイの顔を見れない。あまりにも綺麗な彼女が優しく微笑んでいるから……。

「ふふ……そうだったね。私からは言ってなかったね。100年以上……君を待っていた……愛してる」

「――!お……俺も……レイメイのこと……」

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       〜END〜 

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