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この異世界は、異世界じゃない〜第十八話〜

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➖交錯する想い➖

「影沼、約束は覚えているか?」
「キ、サ、マ〜!まだ勝負はついていない!」

「やめといた方がいい、お前の「射」ではまず中らない。しかも俺は目隠しだ、負けを認めろ。そして晴さんに近付くな!」

「舐めるな〜!」

 ガッと鈍い音とともに旭は、地面に倒れた。顔を殴られたのだ。追い討ちをかけるように蹴りを繰り出すヤチホコ・ハヤトの周りには、冷めたように見つめる観衆がいる。

「な……なんだ……キサマら!オレはヤチホコだぞ!」

 煽って正解だったようだ……さすがにここで手を出すことは、みっともない。すごく痛かったけど、影沼には失墜してもらおう。

「わかった!そんなに言うなら、もう一射引いてくれていい、俺と同じ場所でいいから」

 旭はあえて、そう言う。言葉に詰まるヤチホコ・ハヤトの視線は紫苑のほうに向けられた。

「もういいわ。お爺様、どういたしますか?」

「な!?お待ち下さい。紫苑様!まだ勝負は……」

「素晴らしい「射」であった。これほどの「射」……あの【阿木賢生あきけんしょう】に匹敵する逸材!……この勝負、結城旭の勝ちだ。彼を【サルタ一位いちい】とする。よって部隊を編成しリーダーとして励んでほしい」

「「「――!」」」

 どよめく新サルタたち、入隊したばかりのサルタがいきなり【サルタ一位】になることは前代未聞。

 すべてのサルタのトップ。つまり【ヤチホコ】の一歩手前と考えていいだろう。

「お待ち下さい!玄徳様!紫苑様!」

 縋るように後を追うヤチホコ・ハヤトを見捨てるように、クロズミ領のトップ二人は去っていく。

 紫苑の去り際のうっとりとした微笑みにゾッとする旭は、前の世界と同じ感覚に陥ってしまった。一度目をつけられたら「旭さま、旭さま」と、どこまでも追いかけて来るからな……まぁ、最後は俺が玄徳先生に見捨てられて、離れて行ったけど……。

夕刻になり、レイメイと落ち合う旭。

「君にはいつも驚かされる」

「弓術は得意なんだ。喧嘩は弱いけどね」

「君には戦場は厳しいんじゃないか?人を殺すんだよ。出来るの?」

「わからない……人に弓を引いたことは無いはずなんだけど、初めてじゃない気もするんだ……だんだん、【ヤヲヨロズ】での雰囲気が馴染み始めてる。どうしてかな?」

「……どうだろう……人間は順応する生き物だから?そういう理由はどうだい?」

「レイメイがそう言うなら、そうなんだろう……でも、俺が戦えるかどうかは、すぐに分かるみたいだよ。さっそくだけど【ナカソネ領】との戦があるんだ」

「――【ナカソネ領】!そこは危険だ!最強のヤチホコがいる」

「最強のヤチホコ!?」

「ああ、彼の名は【ヤチホコ・フジナミ】……一騎当千と恐れられる武将だ」

「でも全面戦争じゃないから、出てこないかもしれないよ。【ヤチホコ】って一人だけじゃないんでしょ?」

「……それはそうだが……出てくるかもしれないじゃないか!君は非力なんだ前線に立つなんて……」

「いちおう、部隊を編成してるから、守ってもらうよ。望や悠さん、それに朱里だっている。あと美月っていう凄腕もいるんだよ」

「時間帯は?」

「う〜ん……たぶん昼は過ぎてると思うけど」

「……なるべく時間帯を遅くに出来ないのか?」

「つまり、【マジックアワー】を使える時間帯に戦えってこと?」

「そうだ、今の君では瞬殺されるぞ!」

「……わかった、なるべく時間稼ぎするね」

「なるべくじゃない!絶対だ!」

 旭の両肩を激しく掴むレイメイの両腕が震える。

「――!……レイメイ」

「君は……」

 レイメイは何かを恐れている。彼女が俺に何かを言いかけた時だった。油断していた……

「旭兄さん?その方は……」

 いつものレイメイなら誰にもその姿を見せることなく去っていたはず……だが俺の両肩を掴んだ状態で彼女は少し興奮気味だった……別に俺の両肩を掴んだから興奮したわけではない。むしろ興奮したのは俺のほう、こんなに近くにレイメイがいる……俺に触れている。

 だが今はそんなことを考えている場合ではない。

「ハル!この人は……その……」

「見つかったんですね!従者の方」

「――従者?」

 は!そうだった。レイメイとはぐれてた俺は、彼女のことを従者といい、探してるていでクロズミ領に来たんだった。

 そして、俺はそのことをレイメイに伝えていない……訝しんだ彼女の表情を見ると、きっと「従者」と言われたことを怒っているに違いない。

「君……従者とは?」

 怒ってる〜!……ハルに姿を見られたことより従者発言のほうに食いついてるもん。ここはしっかり誤解を解いて……いやまずはハルに紹介しないと……待て待て、俺はすでにハルの「兄」となっているんだ、だとすればレイメイはどういう立場になるんだ?

「旭兄さん?」

「ハルさんだね。彼の教育係のレイメイだ」

 教育係!……なんかいい!従者なんて言って怒ってるんじゃないかと思ったけど……咄嗟にしては上手く言ったなレイメイ。

 旭が笑顔を向けると、ふんっとそっぽ向いたレイメイに胸が高鳴る。なんだか可愛らしい一面を見たと思った。

「お二人は……あの……それだけの関係なんですか?」

「そうだ」

 う……なんだか即答でそう答えられると傷付く。もっとこう……とかあってもいいんじゃない?いちおう、俺の目標はレイメイと暮らすことなんだから、いずれは……いずれは、俺はどうしたいんだ?

「良かったら、暁月家あかつきけへ来られませんか?おもてなしは、そんなに出来ませんけど、旭兄さんの大事な方……ですから」

「いや……私には時間が……」

「あ〜ハル!レイメイはまた別の日に来てもらおう。彼女は忙しいから、朝と夕方しか会えないんだ。いきなりだと都合もあるしね」

「そ……そうですね。無理を言って申し訳ございません」

「いや、いいんだ。それじゃあまた今度お邪魔するよ」

「はい!お待ちしてます」

 しばらく三人で話し、レイメイは消える前に俺とハルの前から立ち去った。さすがに消えるところは見せられないのか、日が沈む前に別れた。

「旭兄さんはレイメイさんと話すとき雰囲気が違いますね……」

「そう?違うかなぁ」

「はい、違います。なんだか嬉しそうです」

「嬉しそうか……うん、たしかに嬉しいな」

「……いいなぁ……レイメイさん」

「ハル?」

「い……いえ、なんでもないです」
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