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CBD製品の合成方法・抽出方法【合成品と大麻抽出物を比較】 -カンナビノイドの組成分析法(GCとHPLC)も解説-

ここでは、CBD製品が生産される過程やその品質・組成の確認方法について、徹底的に比較しながら、網羅的にわかりやすく解説していきます。

取り上げる内容は以下のようなテーマです。

◆CBD製品における合成品と天然抽出物の比較【リスクとメリット】
◆CBD製品の具体的な生産方法(製造過程)【大麻からの抽出と化学合成】
◆オレンジCBDとは何か
◆合成CBDの歴史と最新の研究【化学合成と生物学的技術】
◆カンナビノイド製品における不純物の検出方法や組成分析技術【GCやHPLC】


今回は、CBDを取り扱う大半の人に役立つであろう内容を取り上げました。また、ここでは研究論文などの一次情報を必要に応じて引用し、科学的根拠に基づいて解説しているので、安心して読み進めてもらえるかと思います。

※なお、本記事は「tokyo moon」の記事と一部重複する内容があります。これは、私、ロキがtokyo mooonさんの記事の執筆に関わっており、その中の「知識」部分は同様に説明しているところがあるからです。ただし、それぞれで情報発信のテーマが異なり、特に大きな抵抗はなく見ていただけるかと思います。なお、大半がここでしか取り扱っていない内容です。


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こんにちは。「CBDカウンセリング」というサイトで情報発信をしているロキ(@rokiroki_univ)と申します。

私は大学、大学院、企業で有機化学を専攻し、有機化合物の研究をしていました。薬や材料、食品成分などは有機化合物でできています。そのような研究に従事してきたこともあり、一次情報となる科学論文のような信頼性の高い文献をもとに、専門的な内容を皆さんにわかりやすくお伝えできるかと思っています。

また、CBDなどの情報発信を続けるために、ロキは皆様の応援や支持をお待ちしております。気に入っていただければ、何卒応援のほどよろしくお願いいたします。

なお、私のブログでもCBDに関する情報を発信しています。参考にしていただけたら幸いです。↓


まず、目次を見て、ご自身の知りたいテーマがあるかをご確認ください。関連する内容を網羅的に取り上げているので、その他の内容も役立つ情報になるかと思います。

◆【比較】日本で違法でない合成CBDと法規制を受ける大麻草由来の天然CBD

合成CBDは、大麻草に含まれている同物質と全く同じ構造の化学物質であり、法律で規制されていないため非常に注目されています。まずは、合成CBDを大麻草由来の天然CBDと比較しながら解説していきたいと思います。

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・【比較】天然CBDと合成CBDのメリットおよびデメリット

まず、以下に天然CBDと合成CBDのメリットとデメリットを表にまとめました。

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表にも記載の通り、特定のカンナビノイドオイルを得る方法の中でも栽培した大麻草からの抽出は化学合成よりも環境にやさしい方法です。

また、合成では環境問題を引き起こすだけでなく、反応を実施したり、廃棄物を処理したりするのに膨大なエネルギーを消耗します。

さらに、医学的にも重要視されている「フルスペクトラム」の効果を発揮するのは、大麻草に含まれるさまざまなカンナビノイドの相乗効果(=アントラージュ効果)であると言えます。

既に欧米諸国では、CBDは一般に大麻抽出物からの精製によって得る方法が主流となっています。また、2021年の現時点で化学合成法によるCBDの製造には、大麻草からの抽出に比べて数倍のコストがかかると言われています。

加えて、化学合成過程では人体に有害な有機溶剤や試薬の使用は避けられません。ただし、製品となる合成CBDの品質や安全性の問題は、合成過程における最後の精製での厳密な不純物の除去でほぼ解決できるため、精密な分析機器による品質管理があれば、そこまで神経質になる必要はないでしょう。実際に私たちは、安全性が確認されたうえで、市場に流通している医薬品や食品添加物のような合成品を口にしています。例えば、市場に流通しているビタミンCは合成品です。

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一方で、大麻植物由来の天然CBDに含まれる可能性のある汚染物質(重金属、農薬)は広く議論されています。植物由来のCBDは、生育環境が悪いと、このような重金属、農薬による土壌汚染の問題が避けて通れません。

さらに、大麻抽出物から得られるCBDは、THCなどの他のカンナビノイドと構造、物理的性質、化学的性質が類似しているため、厳密に単離するのは困難です。したがって、安定した精製法の確立と一貫した品質管理の実現を目指すとなると、化学合成に利点があります。たとえば、医薬品製造の場合には特に安定供給と生産規模が重要になります。大麻抽出物の化学組成は品種や収穫条件などにより変化するため、このことは安定的に医薬品グレードに適合する品質の実現を実質的に困難にしています。

また、合成戦略は、全く新しいCBD類縁体(構造は似ているがCBDとは別のモノ)や新規カンナビノイドの開発につながりますが、その医学的特性・治療効果は天然のものでは達成できないでしょう。また、大麻草からの抽出・精製が経済的に実用的ではないような希少なカンナビノイドの生産においても合成戦略の利用が期待されています。

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このような背景もあり、薬剤としての承認以来、いくつかの営利団体が合成CBDを提供する意図を発表しています。これらには、AMRI、BioVectra、Insys Therapeutics、Johnson Matthey、Noramco、およびTHCPharmが含まれます。CBDに関するドラッグマスターファイル(審査に必要な製造関連情報)を米国FDAに提供したのは、時系列で、NIDA、STI Pharmaceuticals、Insys Therapeutics、AMRI、National Center for Natural Products Research、THC Pharm、Johnson Matthey、Noramco、Farmabiosです。

・日本で法規制を受けない合成CBDは裁かれるリスクがない

また、合成CBDのメリットとしては、大麻取締法(※2021年時点)の法律による規制を受けないということや、大麻由来のCBDと比較して規制物質であるTHCが検出される心配がほとんどないということがあります。

このことは、CBDを取り扱う人にとっては死活問題でしょう。なぜなら、2020年4月以降、厚生局麻薬取締部が、「CBD製品の輸入において提出が必要な書類をもとに『大麻に該当しない』と回答した場合であっても、国内検査で後からTHCが検出された場合は『大麻に該当する』ものを輸入したとして処罰の対象にする可能性がある」としているからです。

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また、大麻草の成熟した茎や種子以外の葉、花穂、枝、根などから抽出・精製されたCBD製品も「大麻に該当する」としています。そのため、天然由来のCBD製品は後々に処罰の対象となるリスクがあるのです。なぜなら、大麻草の茎由来と言われているCBD製品について、茎や種以外の規制されている大麻草の部位が原料に混入されていたということが後から判明するかもしれないからです。

一方で、合成されたCBDの場合は、その後の処罰のリスクはありません。輸入の際には、CBDが合成により得られたことを示す文書とCBD製品の成分分析書を提出するだけでよいです。なお、合成により得られたことを示す文書には合成方法やその原料物質、製造元の情報などを記す必要があります。

・「合成」に悪いイメージを多くの人が過度に抱いている

合成CBDと聞いて、過度に悪いイメージを持たれる方がいますが、実はここには少し誤解があります。合成CBDと聞くと悪い印象を持ってしまう理由のひとつに、合成カンナビノイドが闇市場に出回り、問題が発生したことが挙げられます。

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実は、合成カンナビノイドには天然には存在しない、THCとは構造の異なる化合物があります。なぜ、合成カンナビノイドと言われているかというと、ヒトの体内にあるカンナビノイド受容体に強く作用するように設計された物質だからです。

THCは有害性がさほど高くない理由には、THCがカンナビノイド受容体に対する「部分」作動薬であるということがあります。どういうことかというと、THCはヒトの体内にあるカンナビノイド受容体に完全に作用するのではなく、部分的に作用するため、大量に摂取しても急性的な効果に上限があるということです。

一方で、合成カンナビノイドはカンナビノイド受容体に対して完全に作用するように設計されていることがあります。このような合成カンナビノイドは、細胞内の伝達信号を異常なレベルまで押し上げるため、危険な効果をもたらす可能性が高いのです。勿論、これは大麻草内に存在する天然のTHCとは構造が異なります。

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だから、合成カンナビノイドには特に悪い印象があるのです。しかし、天然のカンナビノイドと全く同じ構造を持つ化合物を化学合成した場合には、このような問題は起こりません。

昨今、話題となっている一般的な合成CBDとは、大麻草内に存在する天然のCBDと全く同じ構造の天然型CBDに該当します。ですので、闇市場などで流通したことのある合成カンナビノイドなどとは異なります。


では、これから大麻由来の天然CBDの製造および、石油原料などからつくる合成CBDの製造について、それぞれ取りあげていきたいと思います。まずは天然CBDから先に解説いたします。

◆麻原料からつくる天然CBDの製造工程(精製過程)を解説

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ここでは、どのように麻がCBDに精製されて製品となるか、について解説していきます。

CBDなどのカンナビノイドがどのように大麻草から分離されて製品化されるのか、そして、どのような手法で精製されていれば品質が高くなるのか、もしくはコストが抑えられるのか、などの疑問が解決できるように説明します。


簡易なCBDの精製手順は以下の通りです。各過程についてはこの後、詳しく解説していきます。
※メーカーによって手順が異なる場合もあります。

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[粉砕した大麻草由来の原料]

1.化学的な抽出 

2.余分な脂肪分やワックス等の除去 (Winterisation)

3.蒸留 ※加熱による脱炭酸は蒸留前に行う

[CBDディスティレート]

4.再結晶 (冷却による結晶化)

[CBDアイソレート]
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※フルスペクトラムは抽出や簡易な蒸留のみ
※ブロードスペクトラムはTHCを厳密に除去(原料や抽出方法の選別、精密蒸留などでTHCを除去)

・CBD製品の分類(アイソレート、ディスティレート、ブロードスペクトラム、フルスペクトラム)

CBD製品は、以下のように精製工程や成分組成ごとにタイプ分けされています。

■ CBDアイソレート:粉末状の結晶(固体)
CBDのみを単離したもの(=最終的に再結晶により得られる高純度CBD)
■ CBDディスティレート:オイル(液体)
抽出後に蒸留したCBDオイル
■ フルスペクトラム:オイル(液体)
THCを含む、大麻草内の全ての天然成分を含むオイル(※不純物を除く)
■ ブロードスペクトラム:オイル(液体)
THC以外の、大麻に含まれる天然成分の組み合わせ

なお、日本で販売されているフルスペクトラム製品は、基本的にTHCの含有量が非常に少ないヘンプという大麻草が使用されており、法律の規制に対応するためにTHCがほぼ除去されたものになっています。

また、ブロードスペクトラムには、CBDアイソレートに他のカンナビノイドやテルペン等を加えてオイルに溶かした製品もあります。ふつう、ブロードスペクトラムというとTHCだけを除去して得られたエキスのことを指しますが、日本ではCBD以外のカンナビノイドが1種類でも入っていたら、ブロードスペクトラムと呼ばれていたりします。

このあたりの内容はGReENさんの以下の記事で非常にわかりやすくまとめられているので参考になるでしょう。


CBDアイソレートの製造方法における精製過程は、前述の精製手順に示した通り、抽出物を蒸留してから再結晶するのが通常の方法だと考えられます。※抽出、蒸留、再結晶については後ほど詳しく説明します。

ブロードスペクトラムは、蒸留後に得られる留分(オイル)に相当するCBDディスティレートであったり、CBDアイソレートに他のカンナビノイドやテルペン等を加えてオイルに溶かした製品であったりと状況によって異なります。なお、蒸留のなかでも精留という精密な精製方法を使えば高純度のCBDが得られます。

CBD製品の品質については、高度な分析機器でこまめに成分分析を行っているメーカーほど信頼性が高いと言えます。例えば、抽出後と蒸留後、再結晶後のそれぞれの工程で得られる試料・サンプルについて、GCやHPLC、MSなどを利用した分析機器の分析データがこまめにとってあるか、ということが重要なチェックポイントになると考えられます。※カンナビノイドの分析については本記事の後半で詳しく解説しています。

それでは、これから「抽出」、「不純物の除去」、「蒸留」、「再結晶」の順にそれぞれの工程を詳しく見ていきましょう。

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