見出し画像

【読書感想文】僕のマリ/常識のない喫茶店

*ネタバレを含みます*

 おそらく王様のブランチで紹介されていて面白そうだと思いメモ帳に記載しながらも、半年以上経ってからようやく購入した。

 行きつけの喫茶店やカフェに憧れる人って多いのではないだろうか。
僕も小説でカフェの店員と客という設定は結構好きだったりする。「常識のない喫茶店」はそんな理想を打ち砕くような、店員側から見た客の動きなどが語られている。
 ダメなことは「ノー」という、出禁にしてもOK、だけどやさしさを大事にする、という不思議なルールのお店。「接客とは?」と考えさせられる。店員も店員である前に一人の人間なのだから、対等に接してくれ、ということを言っているのだと思う。
 「さて、狂ってるのはどっちでしょう。」「そんなに怒れるほどその人たちはお金を払っているのか。甚だ疑問である。」店員になる前に企業でクレーム対応をしてきた時の回想も入りながら、コミカルながらもお客に対して辛辣な言葉を浴びせている小説だった。

 と、思ったら途中で「喫茶店で働く傍らで、こうやって執筆の仕事をしている。」という言葉出てくる。
ー え、エッセイだったの?
 
素直に驚いた。お客もマスターも店員も、小説にあるような話だったから。

 で、この喫茶店で大事なのが私語みたいだ。なるほど、私語禁止にすると仕事以外の広がりがないけど、仕事中に私語OKであれば相手を知ることが出来るのか。自分の仕事のやり方でも考えされられた。僕は居酒屋ホールのアルバイトをしていた時、私語が多いアルバイトは嫌いだった。金もらってるんだからちゃんと働け、と。だけどこの本を読んで思い直した。

 マスターとお客のおじいさんが喧嘩しそうになった時の言葉も笑った。「わたしは不謹慎の化身なので、正直ワクワクしていた。」
 わかる、ワクワクする。だけど、言葉にするとめっちゃ面白い。言葉通り不謹慎だけど、こういう素直さが好き。

 多分この作家さんは大分若いのだろう。だけど、若くして苦労している。やっぱり現代、心を病む人は多い。その理由をたまに考えることがあるけど、やっぱり情報が多いせいもあると思う。仕事も高度化しているし、会社のチャットでわけわからない指示や依頼が飛んでくるし、そうだと思ったら自分のスマホではキラキラした芸能人や友人の写真が載っていたり。僕はSNSが嫌いだからそう感じることは少ないが、もっと若い人たちはSNSが当たり前なので、余計に情報過多で大変だと思う。コンプライアンスもうるさいし。
 
 誰にでも自分の心が落ち着く場所や時間があると良いと思う。そんなことを感じたエッセイだった。

(1045文字)

この記事が参加している募集

#読書感想文

191,135件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?