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【読書感想文】辻村深月/傲慢と善良

**ネタバレを含みます**
ベストセラーになったということだけ知っていて、あらすじも読まずに購入したが大当たり。

 主人公の西澤架の年齢が39歳ということで、少し上だけど同年代。坂庭真実も33歳とかで近しいのだが、彼らの結婚観や焦りなど、まさに現代の悩みともいえるところに踏み込んだ作品。

 婚約者の真実がストーカー被害にあって行方不明、ということで警察や実家に連絡を取る。ここまでは東野圭吾とかでもありそうな事件性のある展開。
 探しているうちに100点満点の彼女だったアユのことを思い出したり、真実には70点しかつけられなかったことを悔やんでいったりする。婚活が楽しくない、というのも共感できる。それでいて、結婚相談所に行くと結婚相談所は最後の手段じゃない、婚活をなめるな、というような迫力に押されたりする。
 それを「傲慢」と呼んでいた。女性のほうがきちんとビジョンがあるのだ、ということもわかる。この辺は自分の身に覚えもあり、グサグサ刺さる。

 もう一つの傲慢は「一人一人が自分の価値観に重きを置きすぎている」ということ。差別はなくなったり多様性という言葉も出てきているが、傲慢すぎて社会から逸脱してしまっていないか、
そういったことをメッセージとして訴えているような気もする。

 「善良」な婚約者であった真実は毒親とも呼べる母親や架からも「いい子」として思われていたが、「親の望んできた『いい子』が、必ずしも人生を生きていく上で役に立つわけではない」という言葉も出てくる。美徳であるはずの「善良さ」は、障害となる時もあるのだ。
 そして、「善良」であったはずの真実も婚活では「傲慢」になった。

 物語の後半は「鈍感さ」がキーワードになっているように感じた。真実が婚活で会った2人はどちらとも鈍感な人であったし、後半に出てくるメンバーたちも鈍感力がある人たちだった。
 ― 自分の価値を低く見積もり、相手の気持ちをありがたく受け取ることが出来る。
 

 この言葉は作品に出てくる単語だが、何歳になっても、いつ何時になっても、そういう人間でなりたい。そう感じさせる作品だった。

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