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【読書感想文】村田沙耶香/コンビニ人間

*ネタバレを含みますのでご注意ください。


”「多様性」というものは理解していかなくてはならない社会だ。だが、もし自分がこのような人間だったらと思うと震えあがる。”それがこの小説を読んだ感想だ。クレイジー沙耶香こと村田沙耶香の表演が炸裂している。

 コンビニ店員として生まれる前のことを彼女は覚えていないと言う。いわゆる「欠陥品」と呼ぶにふさわしく、幼少期は喧嘩を止めるために男の子をスコップで殴ったり、女性の先生の下着を降ろしたりするなどの奇行を行っていた。それが悪いことだと彼女は思っていないのだ。だが、それを見た家族は悲しんでいる。本人は悲しんでいないのに家族が悲しんでいるのだ。そんな彼女はコンビニのオープンスタッフとして働き始める。コンビニのために食事をとり、清潔感を保ち、そしてコンビニのために流行り物を身に着ける。そんな自分に対して妹は違和感を持っている。 

 このことは少し考えさせられる内容だ。コンビニ店員に対しては「普通」というものが求められる気がする。僕は未だに店員が外国人だったり、金髪の兄ちゃんだったりすると不安がある。男性だったら短髪、女性だったら黒髪か少し茶色で明るい雰囲気の店員だと安心する。人々が普通を求めていることの象徴なのだろう。彼女は、普通でいることで自分を落ち着けていた。

 だが、彼女はコンビニ店員を辞めるとそれが一変する。爪も切らなくなり怠惰な生活を送る。それはコンビニで働けないからだ。自分が何のために生きているのかわからなくなる。そう、彼女は「人間」ではなく「コンビニ人間」なのだ。コンビニのために生き、コンビニを自分に吸収する。それが彼女の生き方なのだ。

 最後に隣にいる男性、白羽は彼女のことを否定するが、「私の細胞全てが、ガラスの向こうで響く音楽に呼応して、皮膚の中で蠢く」と表現する。

 人の生き方は人それぞれだ。向いていないことを無理にする必要はない。そういうことの表現の一つだと思う。普通でいることは精神を落ち着かせることが出来る。だが、それが出来ない人がいる。そういうことを考えさえれる作品だと思う。160ページとコンパクトだが、これを表現するのはすごいの一言に尽きる。


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