穴二つ

「……と、いうわけなんです。やっていただけますか? 呪い屋さん!」
「なるほど。やってみてもいいのですが」
 私は、尾前さんと名乗る男性を見つめる。
「お願いします。アイツに、呪いを!」
「その呪いについて、ちょっと説明を」
「はい?」
「人を呪わば穴二つ、ってご存知ですか」
「それは……知ってます。人を呪えば、自分もただでは済まない。相手と自分、二つの墓穴が必要になるというようなことですよね。それはわかっていますが! それでも私は!」
「あ、そのお覚悟はよくわかります。ただ、穴二つというのが……」
「違うんですか?」
「ええ。呪い屋と言っても、直接相手の命を奪うとか、そんなことはできません。私達も神じゃありませんから。できるのは、運勢操作くらいなもので」
「それもわりと神様っぽいですが」
「いやいや、全然違うんです。運勢力場という概念がありましてね。それは人間でも少し修行をつめば……まぁ、詳しい説明はしませんけれども」
「はぁ。それで、穴二つというのは……?」
「私が行なうのは運勢操作で、幸運と凶運という二つの力場を作るんです。凶運だけ作ることはできませんから、幸運の力場も同時に作る必要があります。バランスなんです」
「なるほど。それで、凶運力場をアイツにぶち込むわけですね。でも、穴二つの説明にはなってないような」
「運勢というのは、確率ですから。良いことや悪いことが起こる確率って通常と比べて低いんです。低い確率、つまり、穴です。それが二つできるということです」
「人を呪わば……の穴って、競馬とかで使う『穴』なんですか!」
「実はそうなんです。知られてないですが。それと、こちらの方が大事なんですが……」
「まだ説明が?」
「ええ。幸運と凶運を呪者、つまりアナタと、被呪者である……会津さんでしたか。おふたりに与えるわけですが、どちらが幸運になりどちらが凶運になるかわかりません」
「は? 呪いの対象であるアイツが幸運になり、私の方が凶運になるかもしれないと?」
「そうなんです。確率は二分の一ですね」
「バカな。アイツに凶運が行くべきで……」
「そのへんが日本語の難しいところで」
「日本語がどうしたんですか」
「漢字辞典をひいてみると『呪う』も『祝う』もどちらも『のろう』って読むんですよ」
「え。スマホで調べ……ホントだ」
「そんなわけで、私も一生懸命『のろう』んですけど、祝ったことになったりするみたいで。……どうです? それでも呪いますか?」
「うーん……。でも二分の一の確率で復讐できるなら……。お願いします」
「そうですか。承知しました。おまかせを」

忘れた頃に、尾前さんから手紙が届いた。
「どうやら、私には凶運が届いたようです。あれからしばらく、大変な目にあいました。やはり、人を呪ったりしてはいけないのですね。しかし、悔い改めた後なぜだか運に恵まれるようになり、今は幸せです。凶運を強運に転じることができたのかもしれません」
と、いうような内容だった。
「凶運を強運に……か。言葉遊びみたいなものだけど、人の運なんてその人の考え方しだいで変わるのかもしれないな。しかし、そんなことがあるのか。それにあやかって私にも幸運がこないかな。馬券でも買ってみるか。自分の運勢操作ってできないからなぁ」
 馬券は外れた。それ以降なぜか不運が続いている。安易な考えになっていた私に訪れたのは、幸運ではなくて降運だったようだ。

*****

これも、新潟日報読者文芸のコント欄に投稿した作品。2022/10/03に「選評」止まりだったもの。
まぁ、長期間書いてなかったしあんまり出来も良くなかったのは自覚してたのでしょうがないか。
大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で「呪いの確率」をやってたのを見て考えたのだよなぁ。
「選評」によれば「被呪者が登場せずに呪い屋に話しが転じたのは計算違い」とのこと。んー。そうかな。

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