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サンリオが持つ心象イメージと、メディアが描き出す現代世相 ~ミシェル・フーコー、ジャック・ラカンの諸言説を起点として~

みなさんこんにちはこんばんは。ろひです。

ろひのアキバ探訪記5回目となる今回は、秋葉原という都市そのものから一度離れ、サンリオキャラクターや同コンテンツによるSNSにおいての消費形態の実態をメディア論、哲学的な観点から考察してみたいと思います。

学生時代に執筆した論考のため、現行のアプリ名義である『x』を『Twitter』と呼称していたり、現在では死語となりつつある「ぴえん」等といった若者のスラングについて言及している箇所も散見されますが、ご容赦いただけると幸いです。

「アキバ」と「サンリオ」、一見すると似て非なる存在であるようにも見えますが、オタク文化(「おたく」とひらがな表記を避けたのは第一回、『趣都』アキハバラの誕生を参照のこと。)とそれを取り巻く趣向的、連鎖的な消費の形態的特徴の反省を試みるうえでは意義のある実践ではないかと考えております。

1、 はじめに
2、 ハローキティに秘められたシンボリックなイメージ
3、 キキララとメタ理論
4、 パノプティコンとラカン的思考で読むサンリオキャラクターボートライドの世界観
5、 帰属的な「ぴえん系マインド」を介した「病み垢」とマイメロディの関係性
6、 シンメトリーとしてのクロミと、正マイメロディ
7、 おわりに

1、 はじめに
 概して、メディアとは現世界線の惨状をいち早く吸収し、色濃く投影させる壮大な装置である。それは時には煌びやかに、時には黒き噴煙のごとく演出され、しばしば私たちの心象イメージに多大な影響を与えてきた。

 子供から大人まで誰もが一度は目にしたことがあるであろう「サンリオ」のキャラクターも、当該の要素をはっきりと兼ね備えている。

 本論考では、まず主要サンリオキャラクターかつ現在でも不動の人気を誇る「ハローキティ」に秘められたシンボリックなイメージを分析することから出発し、特に「キキララ」というサンリオキャラクターが持つメタ性に着目したい。

 そのうえで、東京都多摩市に存在する「サンリオピューロランド」のアトラクション「サンリオキャラクターボートライド」をミシェル・フーコー既出のパノプティコンという概念及びジャック・ラカンのラカン的思考から紐解き、今現在TwitterというSNSで起こっているサンリオのムーブメントに対する解釈を試みることにする。

2、ハローキティに秘められたシンボリックなイメージ
 「サンリオ」という名義を耳にした時、人々の多くが想起するのが「ハローキティ」や「マイメロディ」、「キキララ」をはじめとする主要サンリオキャラクターであろう。

 しかしサンリオキャラクターは今列挙したキャラ以外にも非常に多くのキャラクターが存在している。

 そのためあってかサンリオ自体がしばしば芸能界の縮図として例えられることがあり、これまでにその文言が指し示すのにふさわしい数のサンリオキャラクターが生産され、人気度の低いキャラクター群は消滅してきた。

 サンリオの月間機関紙である『いちご新聞』では毎年「サンリオキャラクター大賞」と名打つ投票企画が実施されるが、このようにキャラクター達を順位付け、そのキャラクターのファンの関心を惹きつつコンテンツ全体の促進を図っていく試みはサンリオ以外のコンテンツでも度々見受けられる。

 他方でサンリオキャラクターが他のコンテンツと一線を画しているのは、すべてのキャラクターに詳細なストーリー性が付与されているとは限らないという点である。
(サンリオキャラクターのストーリー性ないし非ストーリー性については、次節にて詳しく扱う。)

 たとえばサンリオの中でもトップレベルの知名度を誇るハローキティ。彼女は『いちご新聞1975年5月1日号(2号)』で水泳選手ジェニー・ターラルの記事の挿絵として紙面に初登場し、当時からスヌーピーグッズを販売していたサンリオがスヌーピーに対抗する形で自社オリジナルキャラクターを開発しようと生み出されたキャラクターであった。

 初期のハローキティには現在主流となっている「横向き」で座ったポーズのほかに「正面向き」のものも存在したが、初代デザイナーの清水侑子が当時のアシスタント(後の2代目デザイナーである米窪節子)に横向きと正面向きのどちらがいいか尋ねたところ、「横向きのほうがシンボリックでいい」と返答したため、横向きを採用したという。

 ここでスヌーピーというムーバブルな犬に対抗するためにあえて「横向きで座る」というアンムーバブルな形態を採用したことには、常に消費者に対しハローキティの固定的なイメージを付与し、それをハローキティというシンボリックなイメージへと成長させていく、といった戦略があったのではないだろうか。

 こうした当時のサンリオ独自のアルゴリズムは後にある種の「開放(固定的なシンボルイメージからの脱却)」を成し遂げ、ハローキティ自身も「横向きに座る」以外の姿(立ったり跳ねたり走ったり…)を見せるようになり、1993年にはキティのボーイフレンド「ダニエル(後にディアダニエルと名打って独自展開)」、1998年にはキティの友人キャシーの姉「デイジー」、キティの友人トーマスの従妹「コロ」など大々的な展開を開始したのである。

3、キキララとメタ理論
 前節にて扱ったハローキティがシンボリック性の高い存在であったのに対し、サンリオキャラクターの中では数少ない「ストーリー性」を持った人気キャラが「リトルツインスターズ」、通称キキララである。

 リトルツインスターズは「キキ」とその姉「ララ」によって構成される擬人化された双子星(実在する白鳥座の双子星アルビレオがソースであるとの説もある)であり、姿は人型をしているがサンリオ公式ホームページでは「ひと」ではなく「ふしぎ系」に分類されており、他のサンリオキャラとは全く異なる深いバックグラウンドストーリーが設定されている。

 女児向けキャラクター(詳しい位置づけは5節にて後述する)は通常であれば作中で和気あいあいとした楽し気な日々を過ごし、消費者はその煌びやかで妖艶なファンシー世界を眼差すのが恒常であるのだが、キキララの場合わがままなキキと甘えん坊で泣き虫なララの兆候を見た二人の両親(発明家のお父さま星と詩人で絵描きのお母さま星)が、将来ふたりが立派に輝く星になれるよう地球へ修行の旅に送り出す、といった設定が施されている。

 当時点でキキララには他のキャラクターと比較しても大きな差異があることは明らかであるが、さらに興味深いのはテーマ設定が「宇宙」であり、かつ星と星が手を取り合って宇宙を冒険し、成長していくといったバックグラウンドプロセスの壮大さである。

 思想を拡張し、確固たる創造力として「別世界」を生み出していく姿勢は同サンリオキャラクターである「ウィアーダイナソアーズ」において「恐竜」という現在では不可視な存在が仲間同士で日本語を話し、愉快な話を繰り広げていくという不可逆的なプロセスを踏襲している点に限っても散見されるが、キキララは現在でも過去でもない「宇宙」というさらなる外界に目を向けつつ「星」という無機質な存在に命を与え、擬人化することで独自のパラダイムを構築している。

 これを「メタ理論」で解釈したとき、どのような構造が浮かび上がってくるのだろうか。本節ではフランスの哲学者ミシェル・フーコー(1926年10月15日 - 1984年6月25日)の諸言説を用いて分析していくことにしたい。

 フーコーは著書『言葉と物-人文科学の考古学-』において、以下の言説を残している。

『博物学が生物学となり、富の分析が経済学となり、なかんずく言語(ランガージュ)についての反省が文献学となり、存在と表象がそこに共通の場を見いだしたあの古典主義時代の《言語(ランガージュ)》が消えたとき、こうした考古学的変動の深層における運動のなかで、人間は、知にとっての客体であるとともに認識する主体でもある、その両義的立場をもってあらわれる。(ミシェル・フーコー『言葉と物-人文科学の考古学-』331項より引用)』

 知の客体としての手段が、「知」そのものを本質的なものと位置付けながら、それらが叙述的な博物学となり、生物学となっていく連鎖反応をフーコーは「言語(ランガージュ)」に着目して放射線状に描き出すイメージで分析したが、ここでいう古典主義時代の表象構造を現代の「知」との間に生じる「断層」としてとらえたとき、人々の想像力それ自体が「断層」に区分けされた知の客体を扱う際の原動力となり得るのではないだろうか。

 「メタ」という言葉はギリシャ語で「格上の」といった意味を成すが、フーコーが呈した上記の言説でいう博物学が「第1断層(メタに帰する過去)」、生物学が「第2断層(メタ状態=過去の現在)」、経済学が「第2断層α(メタ状態α=第2断層と同時発生的におこった過去の現在)」だとすれば如何様なる事物であっても「断層を介したメタ」への成長を余儀なくされるのであって本節でいうキキララも同義であろう。

 すなわち、女児的ファンシーを創造する営為としての方法論が誕生し、それを作品として構築していくエピステーメーが形作られるまでの段階は未だフーコーでいう知の客体としての誕生段階に過ぎず通常なら当該断層で終末を迎えるはずがキキララのケースでは「宇宙(人々が想像し得えず現世界とは一線を画する外界)」へとまなざしを向けていく姿勢が出てはじめて第1断層に到達し、ここでは諸要素が内包するメタ的イデオロギーは常軌を逸するものへと進化している。

 あるいは、そのプロセスに対し「ドクサ(独断的思想)」のフィルターを通してみれば、人々がファンシー世界(メタに帰する過去)から脱却を試みた結果必然的に「ララ(メタ状態=過去の現在)」と「キキ(メタ状態α=第2断層と同時発生的におこった過去の現在)」が誕生し、その世界線として「宇宙」を選択したのではないだろうか。

 なお、ここでララを初出のメタ断層、キキを後出のメタ断層αとしたことにはララが姉、キキが弟であるという契機がある。

4、パノプティコンとラカン的思考で読むサンリオピューロランドボートライドの世界観
 東京都多摩市にあるサンリオキャラクターをモチーフとした屋内型テーマパーク「サンリオピューロランド」。そのエリア内の一角に「サンリオキャラクターボートライド」と名打つアトラクションが存在する。

 当アトラクションではボート形式が採用されており、乗車した消費者をサンリオキャラクター達が創り出す愉快な世界に連れ出す人気アトラクションである。

 本節では、本アトラクションが描き出す空間をミシェル・フーコー既出のパノプティコンという概念及びフランスの哲学者、精神分析家であるジャック・ラカン(1901年4月13日-1981年9月9日)のラカン的思考を用いて分析し、その特異な遊戯空間を演出する構造は如何様にして作り上げられているのか、また同時に消費者がその空間においてどのような姿勢を求められているのかを解釈することを試みる。そのうえでまずパノプティコンという概念について参照することから議論を切り出したい。

 フーコーは著書『監獄の誕生―監視と処罰』を皮切りに「規律権力」という言説を呈している。その特徴としては個人の身体、身振り、時間、行動様式を完全に捕獲することや儀礼を必要としない連続的な管理のシステムが挙げられるが、中でもとりわけ「空間的な配置のテクノロジー」を鑑みると、自ずと拘束に頼らない監視、管理のシステムが浮かび上がってくる。

 そこに「時間的な配置」という要素が組み込まれれば、既に既出のサンリオキャラクターボートライドが内包する要素と相似関係にあることが見て取れよう。

 すなわちボートライドでいう個人の身体や身振りなどを拘束する要素が「ボート」という乗り物自体であり、その裏付けとして一度消費者がボートに乗り込めばボートの周りを完全な遊戯空間(ここではサンリオキャラクターが描き出す世界観)が包み込み、もう脱出は不可能である。
(さらに「ボート」という特性上、ライドの四方には常に水流が用意されている。)

 そして乗車中に生身の人間が消費者を監視することはないものの、依然として消費者同士が常に「周りの消費者はきちんとファンシー世界への没入を果たしているか=世界観を破壊する言動、行動を行っていないか」を監視し合い、言動含む破壊行為が察知されるや否や直ちに「白い目で見る」という名の粛清が開始される。

 これはフーコーが呈したパノプティコンという概念に基づいて建立された刑務所でも同様の仕組みが用意されており、まさしく「身体はどんなに些細な動きにおいても従順であることを要請されている」のである。

画像はWebサイト「おでかけインフォ」より引用。
四方を水流に囲まれ、現実世界から隔絶されたサンリオの遊戯空間によって完全に監視されていることが見て取れる。

 さらに本アトラクションにジャック・ラカンのラカン的思考を加味すれば、解釈がより具体的なものとなる。

 まずラカンの概念として「リマジネール」、「ル・サンボリック」、「ル・レエル」が挙げられるが、これらのうち「ル・レエル」が《現実世界》、「ル・サンボリック」が《言語世界・思考世界》、「リマジネール」が《ナンセンス世界・無意味世界》的意味内容をそれぞれ保持しており、これは本節での主題に限らず私たちが日常生活をおくるうえでも例居にいとまがない。

 たとえば発話行為(パロール)及び文字メディアを含めた「日常会話」は現実世界での事物及び事象を基に生じているものが多いため、ラカン的思考に従えば「ル・レエル《現実世界》」に類する「ル・サンボリック《言語世界・思考世界》」に位置づけられるほか、こうした特異な思考を開始する姿勢そのものは「リマジネール《ナンセンス世界・無意味世界》」寄りの「ル・サンボリック《言語世界・思考世界》」といった具合であり、いわばナンセンスという限りなくゼロに近い視点に接近する「ル・サンボリック《言語世界・思考世界》」を最たるものにすべくして発生したコード(規範)とコードの境界線に消費者を誘う監禁空間こそがサンリオキャラクターボートライドなのである。

 以上二種の概念を用いて再度サンリオキャラクターボートライドを想起してほしい。ボートライドではフーコーの規律権力及びパノプティコンという概念を彷彿とさせる隔離遊戯空間に誘導され、そこでは現世(ル・レエル)からの完膚なきまでの遮断とサンリオキャラクター達がナンセンス世界(リマジネール)と思考世界(ル・サンボリック)の歪みで生じた世界観を生産し、かつボートがひとつ前進するごとにその場のコードたらしめている要素が一過性へと成り下がり、ボートに囚われた消費者はその先の景色で新たな現実世界(ル・レエル)を見ることになるのである。

5、帰属的な「ぴえん系マインド」を介した「病み垢」とサンリオの関係性
 今日、急速な利用者規模拡大を続けるSNS「Twitter」において日々様々なコンテンツに即したツイートが能動的に作成されている中で日常生活における悩みや愚痴、不満などをツイートする「病み垢」の潮流も顕著なものになっている。
(なお、「垢」という文字は「アカウント」という名義の当て漢字であり、ここでは「こびりついた汚れ」といった本来の意味は機能していない。)

 「病み垢」の詳しいツイート内容等に関しては本論考の趣旨に逸脱する危険性があるため言及を避けるが、特に病み垢利用者においてしばしばサンリオキャラクターを用いた表現が使用されたり、ユーザーの顔となる「アイコン画像」に「マイメロディ」をはじめとするサンリオキャラクターが用いられたりする傾向にある。

 本節では、こうした現状に対し「ぴえん系マインド」という切り口から出発し、「病み垢」という世界でのサンリオキャラクターの役割をとらえるとともに、ユーザー側にはどのような狙いがあるのかを考えていくことにする。

 若年層のTwitterユーザーは恒常的に身内集団に限定して意味の通用する新語を作る傾向にあり、これまでにも「あざまる水産(=「ありがとう」の意)」や「やばたにえん(=「やばい」の意)」など意表を突く造語が数々誕生しては荒廃してきた。

 その中で本節と密接な関係性を構築しているワードが、泣いている様子を表す擬態語「ぴえん」であり、2018年後半期から女子中高生の間で使用され始めたことを契機に爆発的に拡散した。

 これは後に上位互換として「ぱおん」の発生を促進させることになり、ITジャーナリストである井上トシユキ氏は「ぴえん」及び「ぱおん」は共に単語の先頭がかわいらしく聞こえる半濁音になっていることから、「うわん」や「びえん」よりも小泣き感が強いと分析している。

 以上の由縁を持つ「ぴえん」というムーブメントが「ぴえん系マインド」として成長していく過程には何が起因しているのか、その解を巡ってはサンリオキャラクターが内包する「女児的ノスタルジー」が関係しているように思う。

 病み垢という世界ではサンリオキャラクターの中でも特に「マイメロディ」の人気度が顕著なのであるが、このマイメロディというキャラクターは本論考3節で述べた「キキララ」と同じくしてバックグラウンドプロセスの強いキャラクターであり、そのルーツはグリム童話の「赤ずきん」であった。

 童話「赤ずきん」は主人公の少女が頭に身に着けている赤い頭巾や狼という敵対生物にシンボル的要素を汲み取ることが可能であるという解釈がなされるなど、深層心理学的解釈も度々行われてきたが、多方面では「赤」という色から女性の月経をイメージさせる狙いがあるなどといった議論も生まれ、枚挙にいとまがないため本論考においてはこれを「少女の物語」という一貫したテーマで俯瞰し、再度「ぴえん系マインド」及び病み垢でのサンリオキャラクターの役割について論旨を回帰させたい。

 「ぴえん系マインド」に内包される「ぴえん」が赤ずきん作中で狼に襲われるシーンでの涙に値するのならば、その範疇に撮り得る値にこそ女児(=赤ずきん)のキャラクター、すなわちマイメロディが最も扱いやすく、かつキャラクターとしてのある種の親しみやすさも相まっているのではないだろうか。

 そして「狼(敵対物)の台頭」が現代の日常生活における「障壁(悩みや心的ストレスに基づく共媒生バイアス)」に照らし合わされ、その帰属心がマイメロディというキャラクターの興隆と不可分に結びついているのではないだろうか。

 また、同時にマイメロディを用いることによる病み垢ユーザーの狙いを解釈した際、以下の根拠が挙げられる。

・要素A「マイメロディの容姿」
→記述のとおり赤ずきんがモチーフになっているマイメロディというサンリオキャラクターはピンクを基調とした女児受けしやすいカラーに大きな耳とつぶらな瞳を持つなど、メルヘンチックかつ親しみやすさを兼ね備えた容姿をしている。

・要素B「SNSでの発言が傷心者に響きやすい」
→マイメロディは2010年6月より公式Twitterアカウントを開設しており、傷心者の心の傷口を癒すかのようなツイートを行う傾向にある。

例① 「がんばって!って、いわれるより がんばったんだねって いわれるほうが はげみになるの。」
(マイメロディ【公式】Twitter 2018年10月27日のツイート)

例② 「あなたなら、だいじょうぶ。 だからなかないで、みんな みかただよ♪」
(マイメロディ【公式】Twitter2018年11月13日のツイート)

 以上の要素を見れば、要素Aにおいてはマイメロディの形態的特徴を表すシンボリックなイメージが、要素Bにおいては「同情」という形で傷心者に寄り添う姿勢が把握可能であり、これを踏襲したサンリオキャラクターであるマイメロディが女児的ノスタルジーの権化として存在することから病み垢ユーザーが躍起になってマイメロディを自身のアイコン(マイノリティーを構成するシンボルイメージ)へと取り込んでいるのではないだろうか。

6、シンメトリーとしてのクロミと、正マイメロディ
 「クロミ」という存在、とりわけマイメロディを「正」の系譜に置いた際必然的に不可逆的な意義を受け持ちざるを得ない形態はテレビアニメーションによるコンテンツ消費の遠心力によって台頭した。

 そのアニメこそが2005年4月3日から2006年3月26日まで、テレビ大阪を制作局としてテレビ東京系列にて放送された「おねがいマイメロディ」という作品なのであるが、本節では「クロミ」という進出キャラクターが如何様にしてその地位と人気を獲得していったのか、そのメカニズムを解釈していきたい。

 そのうえで、まずはクロミという特異な存在の詳細について俯瞰することが得策であろう。

『自称マイメロディのライバル。乱暴者に見えるけれど、実はとっても女のコらしい!?
かっこいい男のコがだ〜い好き。
【α―黒いずきんとピンクのどくろがチャームポイント】。
趣味は、日記をつけること。
【β—最近は恋愛小説にはまっている。 好きな色は、黒。】
好きな食べ物は、らっきょう 。
子分のバクは、クロミを乗せて空を飛んでいる。
がまん強くて、クロミに意地悪されてもめげない。
クロミがリーダーのクロミーズ5(ファイブ)は、ニャンミ。ワンミ。チュウミ。コンミ。の5にん組。三輪車で爆走する「ブンブンドライブ」が大好き。
(「サンリオ公式サイト/クロミ/キャラクター」より引用)』

 以上はサンリオ公式サイトにおけるクロミの紹介文抜粋であるが、引用部【α】の視点に限っても「ピンク」を基調としたマイメロディにある種の逆説的なイメージを踏襲した結果誕生したキャラクターであるということは詳述せずとも明らかではないだろうか。

 「らんぼうもの」という形態的特徴を保持しつつもどこかあどけなく、「女の子らしさ(本論考においてはジェンダー論に類する議論についての言及は避けるが、本節においてはこれを「正(=マイメロディが獲得した女児的オーセンティシティ)」と不可分に結びついているものとして扱う)」を得て独自の陰湿なパラディウムを正攻法で内的な要素に取り入れている当該のクロミが現世(本論考における4節ラカン的思考に基づけば『ル・レエル《現実世界》』)の世相にどのような不可逆的アプローチを施したのか、その解にあたってはやはり既出のTwitterという卑近なSNSにソースがあるように思う。

 Twitter上では本論考5節でも扱ったように「病み垢」というムーブメントがとりわけマイメロディについてスティッキーさ(吸着性)を帯びた関心を抱いており、この時クロミを等閑視し得ない状況に陥っているのである。

 すなわち正としてのマイメロディは未だ現世に対し未熟なエピステーメーを内包することに対し諦めを帰せぬ形で消費されるコンテンツとして、クロミは当該の「希望」に対し完全なる恥辱を加味してしまったが故のコンテンツとして、そのイデオロギーの確約性が誕生し得ると考えられる。

 上記添付画像は2017年9月15日から同年11月7日まで福岡パルコにて開催された「マイメロディ&クロミ カフェ@福岡パルコ」のキービジュアルであるが、ここでも「正」としてのマイメロディが長耳を垂らしあどけない表情を浮かべているのに対しクロミは強気な心象イメージをむしろ肥大させている。

 このクロミたらしめる創造力が、マイメロディに対しシンメトリー(対象を逆説的に捉えつつ独自のパラディウムを通して自己のアイデンティティーを構築するが、上記引用部βを見れば、なおも恒常的な女児的ノスタルジーは付随されていることが判る。)を獲得していることが端的に表れている。

 この表象が暗に意味することには、現世(=ル・レエル《現実世界》)が必ずしも希望を見出さない世界に限って、消費者が女児的ノスタルジーを媒介しながら恥辱としての女児的ノスタルジー(≒サンリオ、マイノリティーをはじめとするキャラクター群)を再構築し、ル・レエルを介さないナンセンス世界リマジネールを彷彿とさせる異世界を創生していく、以上のプロセスが秘められているのではないだろうか。

7、おわりに
 サンリオキャラクターは2000年代当時は未だ女児からの支持が厚く大人は彼女らに付き添う形でしばしば消費していた状況だったのに対し、今日ではTwitterというSNSに生息する病み垢ユーザーをはじめとした女子中高生にまで対象年齢が増幅し、「ぴえん系」に類するマイメロディは今やシンボル的存在のハローキティとは全く異なるベクトルで急速に支持を集め始めている。

 本論考ではとりわけ「サンリオ」というコンテンツに限定して議論を行ったが、広義の「メディア」におけるキャラクターコンテンツの流行はこれに限ったものではなくなってきているのが現状だ。

 今後、仮にTwitterやLINE、Instagramといったメディアが荒廃し、新たなメディアが台頭したのならば、私たちの目前にはどのような消費コンテンツの景色が広がっているのだろうか。

 次世代の事項に関しては、また稿を改めて論じていきたい。

参考文献
・2020年サンリオキャラクター大賞公式サイト
(https://www.sanrio.co.jp/special/characterranking/2020/)

・WebサイトPRTIMES「離れていても想いは届く!総得票数が歴代最高となる1,455万票を突破シナモロールが2年ぶり3度目の第1位に決定!『2020年サンリオキャラクター大賞』結果発表」
(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000210.000037629.html)

・WebサイトWikipedia「ハローキティ」
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%86%E3%82%A3)

・サンリオ公式サイト「キャラクター/ハローキティ」
(https://www.sanrio.co.jp/character/hellokitty/)

・WebサイトWikipedia「いちご新聞」
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%84%E3%81%A1%E3%81%94%E6%96%B0%E8%81%9E)

・WebサイトWikipedia「リトルツインスターズ」
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%88%E3%83%AB%E3%83%84%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%BA#cite_note-moe438-23-28)

・サンリオ公式サイト「キャラクター/リトルツインスターズ」
https://www.sanrio.co.jp/character/kikilala/

・「リトルツインスターズ」特設サイト
(https://www.sanrio.co.jp/special/kikilala/index_pc.html)

・サンリオ公式サイト「キャラクター/ウィアーダイナソアーズ」
(https://www.sanrio.co.jp/character/dinosaurs/)

・ミシェル・フーコー/渡辺一民・佐々木明[訳](2020).『言葉と物〈新装版〉:人文科学の考古学』新潮社

・WebサイトWikipedia「ミシェル・フーコー」
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%95%E3%83%BC%E3%82%B3%E3%83%BC)

・WebサイトWikipedia「サンリオピューロランド」
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%94%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89)

・サンリオピューロランド公式サイト「施設案内/サンリオキャラクターボートライド」
(https://www.puroland.jp/facility/boatride-20201015/)

・Webサイト「おでかけインフォ」
(http://odekake.info/kanagawa/75_amuse/puroland/P1360361.html)

・宇波彰[著](2017).『ラカン的思考』作品社

・WebサイトWikipedia「ジャック・ラカン」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%82%AB%E3%83%B3

・WebサイトWikipedia「Twitter」
https://ja.wikipedia.org/wiki/Twitter

・WebサイトWikipedia「ぴえん」
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%B4%E3%81%88%E3%82%93)

・WebサイトWikipedia「赤ずきん」
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B5%A4%E3%81%9A%E3%81%8D%E3%82%93)

・Webサイト「クロミ/キャラクター/サンリオ」
(https://www.sanrio.co.jp/character/kuromi/)

・Webサイト「マイメロディ&クロミカフェ@福岡パルコProduced by THE GUEST cafe&diner」
(http://the-guest.com/mymelokuromi_fukuoka/)

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