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「とちコミSDGs通信VOL247」市民文庫・書評『99%のための経済学――コービンが率いた英国労働党の戦略』 ジョン・マクドネル編 朴勝俊、山崎一郎、加志村拓、長谷川羽衣子、大石あきこ訳

栃木県のNPO・ボランティア団体の総元締めともいえるNPOとちぎボランティアネットワークの機関紙「とちコミSDGs通信VOL247」の市民文庫欄で、取り上げさせていただきました。
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『99%のための経済学――コービンが率いた英国労働党の戦略』
ジョン・マクドネル編 朴勝俊、山崎一郎、加志村拓、長谷川羽衣子、大石あきこ訳
堀之内出版 定価3500円+税

評者 白崎一裕(那須里山舎)

 前号の塚本さんの「しみん文庫」は、斎藤幸平さんの『人新生の「資本論」』だった。この本は、私も取り上げようと思っていたので、今回は塚本さんへの応答の意味もこめた書評にしたい。この『人新生』本は、異例の20万部超えの売れ行きで、出版界でも話題のベストセラーになっている。ただ、これは特別驚くことではないのかもしれない。ここでも以前とりあげた、フランスの経済学者ピケティの『21世紀の資本』や前ギリシャ財務大臣にして経済学者のヤニス・バルファキス『娘に語る 美しく、深く、壮大でとんでもなくわかりやすい経済の話』など、お堅い経済本ながら、いずれも10万部から20万部にせまるベストセラーだ。なぜ、これらの本が売れるのか。それは、やはり、現在の資本主義経済が「どこかヘン!」とみんなが思っているからではないだろうか。
 そもそも、資本主義って何なんだろう。専門家はいろいろややこしい定義を生み出しながら資本主義の正体にせまろうと努力しているが、ここは、シンプルにいこうではないか。ずばり「資本主義とは、すべてが資本に従属する世の中のこと」である。つまり、土地も労働も、そして自然も人間の暮らしも身体もすべてが、資本にへばりつく世の中のことだ。もっとぶっちゃけた定義にしちゃうと「カネが仇の世の中」ということ。これまでは、紆余曲折はあったが、カネでこの世の中をダマシダマシなんとか回してきた。しかし、21世紀になって、いよいよ、それがうまくいかなくなってきたわけだ。まず、世の中全体が儲からなくなってきた。いわゆる「利潤率」というのがあがらない。よって経済成長が鈍化してきている。おまけに、少数の人に儲けが集中して、儲からない大多数の人たちとの格差がどんどん広がっている。また、カネのつけを自然に回しきれなくなってきた。地球温暖化や気候変動、そして、深海にもおよぶプラスチックごみ、森林破壊、原発放射性廃棄物の捨て場所がないことなどなどカネのつけは地球のキャパ超えしてしまっている。
 もう資本主義全体をなんとかしなきゃならん、というので、若きマルクス研究者斎藤さんは、19世紀のマルクス思想を現代にバージョンアップしようとしているわけだ。そのポイントは、まず、国家権力が出っ張って社会全体を統制した失敗の黒歴史があるマルクス思想を反省することである。そして、その失敗例である「国家社会主義、共産主義」ではない道をいこうということ。別の道とは、晩年のマルクスも理解していた「コモン」という自立した個人の集まりの自律共同体を軸にした社会を構想しようという道なわけだ。おそらくマルクスは、この発想を若き日にライバルとしていたアナキスト系社会主義者のプルードンから学んでいたと思われる。それは、別の言葉でいうと「アソシアシオン」(自律生産共同体)ということになる。今回取り上げた『99%の経済学』は、そのアソシアシオンを具体的政策にしたらどうなるかを、イギリス労働党の政策提言としてまとめたものである。環境・金融・地域経済・反グローバリゼーション・ベーシックインカム、新しい経済学の在り方など多方面の視点から論じられているが、軸になっているのは、「経済民主主義」という概念である。これは「人民主権の原理を政治・統治の領域から経済領域へと拡張する考え方」であり、民主主義の原理を「すべての社会行動の領域、とりわけ産業・経済の領域に適用する」もの(本書p220)である。いわゆる、自由・平等は、法的な部分だけではなく経済領域も統一して政治化されなければならないということである。ひとつその具体例をあげておこう。地方の人々の暮らしと経済・自然環境のためのお金をまわす「公共銀行」を設立するというプランである。成功モデルは、アメリカの農民たちがつくったノースダコタ銀行。農家のための低利融資、また農家の子弟の特別奨学金制度、地域の公的なインフラのための社会的融資などを実行するユニークな金融機関である。
 こうした地域の多様なアソシアシオンをゆるやかに連帯させていくことによってカネが仇の資本主義を無化していこうというビジョンが本書には満ち満ちている。
 塚本さんが前号の最後に言われているように、若いミレニアル・Z世代の人たちがこれらのビジョンを担っていくべきだと思う。「資本主義のその先の未来」を生きる人々へ本書をぜひお勧めしたい。

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