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シェア時代に忘れかけた、「シェアしないこと」の意義

新しく家を借りた人には家賃を聞いていいといい傲慢なルールを誰が決めたのだろう。僭越ながら、とっても個人的な話から始めさせていただきたい。

先日、元バイト先の社員さんと同僚を含め5名程度で、今流行りのリモート飲み会をした時だ。家の中を見せあうという流れになった。

当然家の中からビデオ通話をしていることは全員承知。たとえ友人であっても、「人を呼ぶ準備していない」部屋を見せるのは耐えられない性分であるのだが、私だけ見せないわけにもいかず、「人に見せれる部分」だけちらっと披露させてもらった。

耐えた…と元の壁の前に座り直していると、もっと最悪の事態が起こった。

もう一人、4月から新生活を始め、すでに自宅紹介を終えている元同期が、上司から家賃を聞かれたのである。

新居の話ならば、家賃の話題を出しても失礼に当たらないという傲慢な空気感。

そして私にもその空気はやってくる。ままよと放った金額は彼女よりも高かった。立地柄、社会人一年目にしては家賃に多めに額を割いているため、家賃が低く抑えられている方が自由に使える額も多い。そう思っていると、例の上司は苦笑いを浮かべながら、その彼女に向かって、

「いやまあ、○○さん、うちの方が家賃安いよ」

と呟いたのだ。

これは、上司にとって、「家賃は高い方が良い」という考えの上の身勝手なフォローなのかもしれないが、かつその価値観の元では「自分は上司より高い家賃に住んでいる『上の人』」という事実を押し付け、彼女をいたたまれなくしたにすぎなかった。

そして、その価値観の中で、私は彼女よりも高い家賃の家に住んでいる「上の人」に危うくなりかけていた。

私は自分の尊厳と価値観を守るためにも、今後一切家の家賃について、聞かれても答えないし、そもそも話題にしないと心に誓ったのだ。

この、「自分を守るために言わない」という姿勢は著書や有名人のトーク中にも垣間見えた。

森博嗣さん著の「面白いとは何か?面白く生きるには?」のなかで、編集部から「森さんが考える『面白いもの・こと』ベスト7は?」と問われる場面がある。

ベストを意識することが基本的にないのだ、と述べながらも無理に挙げてみようという流れに。面白さについて語る著者は何を面白がっているのだろう、ずずずっと前のめりになって次の行に目をやると、拍子抜けした。

「まず、一番から三番までは、内緒です。」

爽やかにそう言い切ったのだ。

いや、どんなひねくれ者だよ!とツッコミかけたが、読み進めてみると、意外にも確かにと思わざるを得なかった。

僕は、自分にとって一番楽しいことは、人に伝えられないものだと考えています。人に伝えるほどに陳腐になり、誤解される。結果として、その素晴らしさが損なわれて認識されてしまう、とう印象を持っています。

自分が何を面白いと思っているかなんて他人に関係ない。しかもそれを公開することで、その素晴らしさに影が入るのならば、晒すメリットがないという。

もちろんこの後 森さんが四番目以降に面白いと思っているもの・ことの話をしてくださるのだが、それも大変興味深いので、お時間ある方ぜひ読んでみてください(笑)

ここでもう一つ、思い出したのが、先日「おしゃれイズム」というバラエティ番組にゲスト出演した乃木坂46の斎藤飛鳥さんの発言だ。

くりぃむしちゅー上田さん) なんで、あまり家に入れたりとかはしたくないの?その、鶴の姿で機でも織ってるの?
齋藤さん) 違います(笑)。
くりぃむしちゅー上田さん) なんで?入れたくないの。
齋藤さん) えぇー、家にはもう。
くりぃむしちゅー上田さん) 家具の色すら教えたくないの?
齋藤さん) うん。教えたくない。

同じ乃木坂のメンバーにも絶対教えないらしく、本当に内緒にしたいのだろう。ミステリアスを通り越して最高にかっこいい秘密主義者だ。そして、ここに森博嗣氏がいう「面白さ」を秘密にする理由と同じ姿勢が見られた。

森さんも斎藤さんも、人に見せない・言わないことで、自分の「面白さ」や「空間」を守ろうとしている。

無論、情報リテラシーとして、自分のプライバシーを守るために、公表して不利益を被りかねない個人情報はシェアしてはいけない。

しかしながら、それ以外の情報なら何をシェアしても問題ないのだろうか?人に言ってしまうことで

SNSだけではなく、LINEなどを通して、人との繋がりが当たり前になった現代、個人の出来事をシェアすることが普通になりすぎているのではないだろうか。あえて「何をシェアしないのか」と線引きを行うことは、自分の「大事なもの」を守ることに繋がるのかもしれない。

ちなみに、根に持つタイプの筆者は(笑)、引っ越しの話題からごく当然のごとく家賃を問われるという不可避イベントの発生も、シェア文化の弊害だと睨んでいる。


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