1~2年の授業を振り返る③選択科目編

・初級演習:西洋音楽・基礎【1年前期:優】

6つの中から4つを選ぶ選択必修。内容は先生に任されているようで、同じ「西洋」でも全く違ったなか、何も分からなかった時に一発目としてたまたま選んだこれが基礎的な内容だったのは幸運でした。海のように広い音楽学のうち、王道と思われる「クラシック音楽の資料研究」についての知識や具体的な方法を先生が伝授してる時間が半分で、演習の主たる発表はそのやってみよう編という感じ。作曲家をひとり選んでその作品目録の内容を40分にまとめる、というのがメインの発表だったので、作品目録があるようなクラシックの作曲家に特に興味はなかったのだが、バレエ観ながらチャイコフスキーって天才!と思うことはよくあったので彼を選択。これが大正解で、ブラームスとか選んだ同級生がドイツ語のしかなくて苦労してるなか、ロシア語と英語併記のいい目録があって(ソ連が西側の音楽学に負けまいと国の威信をかけて作ったっぽい)とてもやりやすかったです。レポートはその延長線上でとのことだったので、『白鳥の湖』の音楽と振付の関係などを。前にも書いた通り、このK先生がこの授業に限っては主観的レポートでも受け付けると言ってくれたことを拡大解釈し、私はこのあとどの授業のレポートも自分の興味あることに無理やり結び付けて書くようになるわけですが、思えばその発端となったこの授業では一応、ミュージカルではないテーマにしていたのだね。

・初級演習:日本音楽【1年後期:優】

1年生のうちに2つは取っておきたかったから、日本音楽に特に興味はなかったけど消去法で…というか正直、1週目の授業出てみてラクそうだなと思って。実際、ラクだった。江戸時代の歌本みたいなのから1曲選んで、歌詞を解読しつつその曲を聴いて(だいたい舞踊だから「観て」)みようみたいな発表を、しかも二人一組ですればいいだけ。組んだ同級生が優秀だったので、だいたいその子にやってもらいました。レポートはやっぱりその延長線上パターンだったんだけど、先生が楽し気な人だったから許されるかな?と思い、特に相談もせず勝手に「歌舞伎俳優は(ミュージカル俳優と違って)なぜ歌わないのか」。まあ一応、発表で取り上げた『玉兎』は歌舞伎の演目でもあるし、この疑問を持つきっかけになった歌舞伎座の『阿古屋』は先生も授業中に勧めてたから、関連がないわけではないということで。そしてこの疑問はじつは、今も引きずっている。あと、最後の回で先生が呼んできてくれた長唄のプロの人の歌が面白くて、ビブラートが素敵で、日本人ミュージカル俳優はなぜ総じて歌が下手なのか問題の解決につながる糸口がここにあるような気がして(だって演歌も民謡もだけど日本の歌なら普通に上手いわけじゃん?)、副科で長唄やってみようかなって思ったりもした。そう考えると、不純な動機と特に学びはなかった内容の割には、意外とのちのちにつながった授業。

・初級演習:西洋音楽・基礎~応用【2年後期:良】

シラバス読む限りは基礎っぽい感じだったし、実際前半はイギリスで音楽学を学んでる学生が使う教科書を使って発表の練習をするみたいなとても入門編な内容だったのに、何人かの意識の高い学生さんの影響で後半、音楽史を記述するとはどういうことかみたいなえっらいアカデミックな内容に…。前半で発表やっといてよかったーって、途中からついて行くことはもう潔く諦め、ただただ意識の高い学生さんたちの発表や意見に楽しく耳を傾けていたのだが、なんとレポート課題が後半の内容に即したものだったという。ダールハウス(超有名な音楽学者。超乱暴にひとことで言うなら、音楽作品語るのに背景とか要らないでしょ派)に反論しなさいとか言われても無理なんで、可でいい人向けの別課題くださーいって直談判しに行ったんだけど、なんかまあ丸め込まれたというか、1回くらいアカデミックなレポート書いてみるのも経験かなあと引き下がり。でも結局、書き始めたらやっぱりアカデミック興味ないわってなって、ミュージカル史を自分なりに記述してみるという実験的なレポートにしたところ、可に限りなく近い良が来たというわけです(笑)。でも良くも悪くも、学問とは何かってことをすごく考えさせられる授業だったな。私が勉強するのは自分の好奇心を満たすためだけど、学者が勉強するのは積み重ねられてきたその分野の研究の歴史に自分の足跡を残すためだと悟ったというか。私は学者にはならないけど、「先行研究の研究」は卒論の時点でもう求められることが分かり、うーん。これまた1回くらいやってみるのも経験とは思いつつ、めんどっ!

・初級演習:西洋音楽・応用【2年後期:優】

長くてアカデミックな英語の論文を読み込んで要約して1時間半まるまる使って発表する授業。自分で読むのめんどいから要約聞いて手軽に知識増やそうつって、じつは1年後期にも聴講してて、発表はハード過ぎるから履修はしないつもりだったんだけど、履修しようと思ってた音楽民族学の初級演習があまりにも退屈だったので。あと、先生が作った論文リストに前年にはなかった「ボヘミアン・ラプソディ(BR)」に関するものがあったから、これだったらやってもいいかなと思って。で、実際やってみたらかーーーなり骨が折れたけど、やって良かった。BRは昔から、明らかに過剰なんだけど奇をてらってはいない天才の所業であるところが大好きで、専門家が分析してくれた論文によってその理由が分かってスッキリ。私もこういうことしたいの!(例えばロイド=ウェバーについて)って激しく思いました。

ただ、論文の書かれ方はあまりにもアカデミックで素人を寄せ付けない感がハンパなく、それはやっぱり私には甚だ疑問で。思い切って、本当は論文自体について議論すべき時間に、音楽学は何のためにあるのか?という議題を投げかけてみました。学生さんたちは、個々に話してみるとみんなすごい色々考えてるのに、授業の議論時間では黙っていることが多いのが分かっていたから、ここは数々の座談会を回してきたライターとしての経験を生かし、先生そっちのけで私が自ら振っていくスタイル(笑)。そしたらさ、先生も含めてみんな、アカデミックに終始したいわけではない、出口がなかなかないだけで、学問は社会に還元されるべきだって言うんだよ。本当、思い切って投げかけてみて良かった。発表1時間+議論30分が推奨され、発表1時間20分+議論10分がスタンダードとなっているなか、発表45分+議論45分という暴挙に打って出たことにも後悔はなく、またそれを笑って許してくれた寛容な先生に感謝。

・楽器学【1年通年:優】

前期は理系の先生(筑波大)が色んな楽器の発音の仕組みなどについて、後期は芸大の先生が世界の楽器の分布や分類について講義。理系の話はちんぷんかんぷんだった、レポート課題が要は「授業の感想」で助かった。後期の話も、へ~以上でも以下でもない感じだったのだが、「楽器誌を作る」というレポート課題は面白く。任意の楽器について、歴史や用途を調べた上で論を自由に展開せよってことだったので、学内にある世界の楽器がいっぱい置いてある資料室に行って手当たり次第にシンバルを鳴らし、『ミス・サイゴン』のホーチミン3周年式典のアタマで使われてるっぽいやつを探し当て(確証はなかったけどチベットの「シルニェン」ということにした)、シンバルは元々アジア発祥で、西洋に入ったばっかの頃は異国情緒を表す楽器として使われてたけど、今は普通に西洋オーケストラの音になっちゃったよね、でもそんな今も、アジアのシンバルはやっぱり異国情緒を表してくれてるよ!って、指示通り自由に展開してみました。いやでも、意外といい着眼点だったんじゃないですか?とも思ってます。

・西洋音楽演奏史【2年通年:優】

ソルフェが1限で、1限のためだけに早起きするのはハードルが高いので、ソルフェがある曜日の2限であるという理由だけで取った授業。日本語ペラペラのドイツ人の東大教授が、ガイドラインになる配布物ナシ、板書もほぼナシで、独特の日本語とテンポでひたすら喋り続けるだけの1時間半ということで、前期はま~ったく話が入ってこなくてノートもままならなかったんだけど。クラシック音楽の演奏の歴史を、主に文献からひも解いた前期から一転、録音の時代に入った後期は俄然面白くなりました。色んな演奏を、ただ聴き比べるだけだと「みんな違うね~個性だね~」で終わるんだけど、データ化すると見えてくるものがあり、さらに時代順に並べたりすると流行、その裏の社会的背景まで見えてくる。演奏研究はここ20年くらいで起こったものらしいから、もし現役時代に芸大入ってたらなかったんだなあ&早稲田の演劇科の授業が机上の空論に思えてつまらなかったのも時代のせいで、今ならもっと現場に即した研究とかできるのかなあとかも思いました。とはいえクラシック音楽には興味がないので、前期は「ある曲の演奏史を教則本や自伝などから探る」を「あるミュージカルの上演史を昔の新聞記事から探る」に無理やり置き換え、後期に至ってはミュージカルの録音の歴史を調べて書くだけのレポートを提出したので、まさか優が来るとは思わなかったな。その柔軟さはさすが、一見ゴリゴリのクラシック研究者だけど、資料研究こそ音楽学だった時代に演奏研究を始めた第一人者というところなのかも。あるいはよくある、秀と優しかつけない先生なのか。

・ポピュラー音楽【2年前期:秀】

最初の2~3回こそゾクゾクするほど楽しかったのだが、今となってはなかなかにヒドかったなとしか思わない授業。ポピュラー音楽の分類は難しいと言われてるけど、よく聴くとジャンルごとに必ず共通点があるんだよ、まずはダンス音楽の共通点から見ていこうか、つって色んなダンス音楽を聴かせてくれて、そこに本当に先生が言った通りの共通点が全部あった時は、ダンス音楽の聴き方が変わるかも!ってくらい感動したんだよ。でもそれを延々3週くらいやったあと、次はバラードねっつってまた2週くらい今度はバラードの共通点探しやって、その次はまさかの、「ダンス音楽とバラードの間」。ほとんどの曲は合いの子で、共通点が全部あるTHEダンス音楽とかTHEバラードはあんまりないんだよって、つまりはやっぱり分類は難しいってことじゃん!っていうなんかもう、ちゃぶ台ひっくり返したいようなオチがつきました。そういうセットを何回か繰り返したのみで、まずもって内容が薄い、凝縮したら3時間で済む話だったし、どうやらこのジャンル分けは特に本を出したりとかもしていないこの先生のオリジナルのもののようだったし、そもそもジャンル分けって重要?ってのもある。ポピュラー音楽研究にも今やそれなりの歴史があるのだろうから、その流れや色々な切り口を紹介した上で、最後の最後にちなみに自分はこんなジャンル分けを提唱してますで良かったのでは?

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