社会人(=デジタルネイティブじゃない)芸大生のリモート授業体験記

リモート授業が始まって2週間が過ぎました。芸大は基本的に、該当授業受講生への一斉連絡と課題のやりとりができる「Googleクラスルーム」+オンライン授業ができる「GoogleMeet」の合わせ技を推奨しつつ、具体的には各先生に任せている模様。まずもってこの基本方針を掴むのに時間がかかり、フライング的に来る様々な連絡によって翻弄された日々を経て、掴んでからも結局は先生によって使うツールが違うため(ZOOMとかSLACKを使うう場合も)、デジタルにそう強くないというか精神的距離がある身にはいちいちダウンロードしたりカスタマイズしたりが面倒で面倒で仕方なくて休学を真剣に考える日々をさらに経て、今はなんかもうこのほうが「楽」だから今さら対面授業になられても困るみたいな心境に…。

いやもちろん、「楽しさ」はほぼ皆無なのですよリモート授業って。でも、どうせ仕事もない今は、授業がある程度の生活のリズムを作ってくれたら助かるは助かるし、発想の転換というか、楽しさを求めたい授業は来年度に回すことにして、卒業を目指すなら取っておいたほうがいい単位をこの混乱に乗じて取ってしまおうかというヨコシマな考えのもと、朝早かったり苦手な参加型だったりする授業を取り始めてみたら、これもう9時に学校行ったり当てられまくってみんなの前で歌うのは無理だぞ…?みたいなね。まあ要は、これで本当に卒業に必要な単位が混乱に乗じて取れてしまうようだったら卒業を目指すか、という、いつもの運命論者的発想です。で、せっかくなのでリモート授業の実情を記録しておこうかと。

パターン①オンデマンド型

動画/音声が本来の授業時間までにアップされて、各自翌週までに見て/聞いて、出席がわりの課題を提出しておくように、というもの。私が取ってる中では今のところこれがいちばん多いです。ソルフェがこれなのが、朝早く起きなくていいのと当てられないのとの二重の理由でとても助かっている。そして、聴音を何度も巻き戻せるというポジティブな理由もあります。与えられた回数の中で聞き取れるのがそりゃ理想的だけど、それだと妙に焦ってハナから諦めちゃったりしがちだったから、落ち着いてできるっていいなって。何度も聞いて、なんなら自分で鍵盤で答え合わせとかしてから課題を提出したら「よく取れてます」とか返ってきて申し訳ない気持ちになったけど、別にこれやっちゃいけないことではないよね?試験じゃないし、むしろ正しい受け方だよね?

一方、講義系の授業がこのパターンなのは私にはとてもつらい。劇場で観る演劇は楽しいけど家で配信演劇を観る気にはならないのと一緒です。しかも、これが音声だけだともう、劇場で観ても楽しめない一人芝居とか落語を家で音だけで聞く感じだから、つい何度も途中で止めてしまうよね、私なんかは。ここは来年度に回したいところだけど、隔年開催(=来年度にはない)授業が二つともこのパターンなので仕方なく受けてます。うち一つの音声は、途中で切れたり同じ部分が繰り返されたりとなかなかにカオスなことになっていて、「一度ご自身で聞き返してからアップされては…?」という内容を礼儀正しくコメントする方法を考えているうちに、来週からリアルタイム授業に切り替えますとの連絡が。さもありなん。ただ、それでまるっと解決かというとそういうことでもなく、オンデマンドだからと思ってほかの曜日の空きコマにこの授業を聞く個人的な時間割を設定してしまってあったため、2週間で作った生活のリズムの作り直しを迫られるという別の問題が。ことほどさように、ひとすじなわではいかないリモート授業です。

パターン②リアルタイム型

演習系の授業はやはりほとんどがこの形。ただし、受講生全員が映像と音声をオンにするとデータが重くなったりハウったりするようで、映像は終始オフでいいし、音声も発言する時だけオンにするか、またはチャット欄に書き込むようにと言われることが多いので、ZOOM飲み会みたいに楽し気な感じにはなりません。誰の反応もない中で発表するとかマジ地獄だから、私の回の時はみんなにニコ生みたいにどーでもいいコメントしながら聞いてねってお願いしたい気持ちでいっぱいなんですけど、そういうお願いして大丈夫な空気なのかが読めない。「空気が読めない」これ本当大きいです、特に私のように、絶望的にアカデミックに向いてないのを茶目っ気でなんとなくごまかして乗り切ってきたインチキ学生には。ほかの人の発表にどーでもいいコメントとかもすごいしたくなるけど、どーでもいいコメントのためにわざわざ音声オンにしたりチャットに残したりするってどーなのよと思うしね…。

ただもしかしたら、アカデミック志向の学生さんにはこのやり方は意外とやりやすいのかなと思います。そもそもみんなデジタル環境にストレスがなく、学生が先生にツールの使い方を教える光景も全く珍しくない中、質問とかコメントにしても、大きな声出したり視線が一斉に集まっちゃったりすることがないからか、去年までよりむしろ活発な印象。まあただ単に、1~2年生の時の初級な演習と違って今年は院生とかもいる本格的な演習だからって意識がみんなにあるからかもしれないですけど。ということも含めて、やっぱり何かと空気が読めないことに戸惑う社会人学生なのでした。あと単純に思うこととしては、やっぱり顔が見えないの気持ち悪いからみんな映像出してほしい。って言いたいけど、自分は出したくない。ってみんな思ってるから誰も出さないのかな、というところ。最初と最後だけ出して挨拶しましょう方式の授業もあって、そのためだけに眉毛描くのめんどいし(これは若者には関係ないか…)、自分の顔が自分で見える気持ち悪さもだいぶ大きいしね。

パターン③講義資料&課題型

もう授業しません、クラスルームに講義資料出しとくので読んで課題提出しといてください、という先生も何人か。私はこのパターンの授業を二つ取っていて、一つはそうじゃなきゃ1限だから助かってるし、もう一つは本来ほかの授業と重なってて取れないはずがこのパターンなおかげで聴講(的なこと)ができるってことで、個人的には全然いいんだけど、講義資料は当然ながら「読む」のに90分かかるようなものではないので、学費に見合ってないとの文句が出ても仕方ないだろうなという気はする。だけど講義資料を「作る」先生側にはおそらく90分以上の時間がかかっているだろうし、課題を見たり、そこについでのように書かれている、対面授業だったら出ないような質問に個別に返信したりもしなきゃいけないわけで、授業料というのが先生の労力と学生の学びの質量、どちらに応じたものであるべきなのかを考えさせられたリします。これたぶん、リモート授業の問題の本質。

学費問題で言うと、施設利用料みたいなこともよく言われているようですね。大学の練習室も図書館も使えない、資料もいちいち自分でプリントアウトしなきゃいけないのに学費が変わらないことには、確かに不満や理不尽を感じなくもない。特に私、コロナ前にプリンター壊れてて、最初の1週間はセブンイレブンのネットプリント使ってたからね。地味にお金かかるし面倒だし、外出は3日に1日だから直前にアップされた資料には対応できなかったし、最終的にはプリンター買ったから結構な損失。まあでも、図書館は入れないけど頼めば送料むこう負担で蔵書は送ってくれるし、プリンターはどうせいつか買わなきゃいけなかったし、印刷費は交通費の代わりと捉えられなくもないし、とか色々考えていったらどーでもよくなりました。同じ学費払ってても学べる質量は人それぞれ違うわけで、何も学ばず学歴を買うという発想もありだし、私に至ってはそもそも趣味だし。うん。ただもちろん、返してくれるというなら喜んで受け取ります。ええ。

その他のパターン

実技は、個人レッスンなピアノはオンラインレッスン…のはずが、防音設備のないうちのマンションでは音出しができないため、ヘッドホンにマイクつっこむという超アナログな方法で録音したものを前日までに先生に送っておいて、レッスン時間には電話で先生からアドバイスをもらう形。もう一つは今年度から履修を始めるはずだったグループレッスンで、複数の初心者相手にオンラインレッスンは困難であるとの先生のご判断により、驚きの「自習」となりました。えーだったら来年度に回したい―と思ってメールしてみたけど叶わず、しかし叶わない理由をすごく真摯に説明してくださった助手さんへの信頼が私の中で高まったため真面目に自習しています。緊急事態が明けても前期いっぱいは基本的にリモートが続けられるなか、これだけは対面レッスンがあるようで楽しみ。でも楽しみにしてるとロクなことないからな、始まるまでにもっと不安に思えるようにしていこう。

そしてもう一つ、オンデマンドとリアルタイムを交互にやるという変わり種パターンの授業もあります。オンデマンド授業はその科のいちばん偉い先生がやって、それに基づく課題を学生それぞれが自分のクラスの先生に出して、次の週はその先生が答え合わせ的なリアルタイム授業をする、みたいな感じ。諸事情あり、私にとってこの授業は3年目なわけですが(汗)、今のところ去年までより受けやすい。教科書の著者でもあるいちばん偉い先生の話は思いのほか分かりやすく、当てられる心配はないがチャットで質問はし放題なリアルタイム授業は、変な緊張感がないぶん学びが多い。気がする。でも油断は禁物、4年目(そしてそれでもなお単位取得には至らないこと)も覚悟はしつつ励もうと思います。さて、明日から3週目!

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