見出し画像

38歳、芸大受験してみた。⑥

オープンキャンパスで呼ばれていると思い込み、受験を決意したのが7月半ばのこと。その際に大学で過去問も入手したのだが、当然ながらまあとにかく一から十まで意味不明であった。回答を求めて赤本を手配しつつ、すべての基礎になりそうな「楽典」という本をまずは購入して読み進めつつ、いろいろな人に会ってみることに。しかし私には、願いは口に出すと叶わないという「逆言霊信仰」がある。

ただし、口は羽のように軽い。

いま受験勉強しててさー、と言いたい気持ちを必死で堪えながら、厳選した何人かに相談をもちかける。まずは美術学部のほうの芸大を出ている若い頃からの友人たち、その一人から紹介してもらった楽理科卒の女性Kさん、さらに彼女から紹介してもらった楽理科受験請負人のようなM先生、そしてセンター試験対策のため自分が卒業した高校の先生にも。驚くべきことに、誰にも反対されなかった。

普通止める、少なくとも私が逆の立場で、37歳のフリーランサーから超難関国立大学を今さら受けようとしてるなんて話を聞いたらものすごい勢いで鼻で笑うと思うのだが、みんな「いいんじゃない」「やってみたら?」「面白そう」という感じで、高校の先生に至っては、大昔の卒業生がいきなりやってきて突拍子もないことを言いだしたというのに、ご親切に古文や倫理の教材まで分けてくれた。

止められない=やっぱり呼ばれてる。

勘違いを深めながら、私の旅は続いた。やがて赤本が届き、KさんとM先生から具体的な試験内容も教わった。1ページ目から知らない情報尽くしだった「楽典」は基礎中の基礎で、試験問題は比較にならないほど難しいこと。ソルフェージュの実技試験は、たいへんな羞恥プレイであること。楽理科は実技ではなく研究を行うところであるにもかかわらず、ピアノと和声(後述しますがとりあえず、作曲です)の試験は実技系の科より高度であること。

そして、これらは全て、言ってみればできて当たり前で、楽理科試験で何より重視されるもの、つまりピアノ科で言う「ピアノ」にあたる科目は、私としては唯一対策ゼロで臨めると踏んでいた「小論文」であること、などを知った。毎年楽理科に大量の門下生を送り出しているM先生は、音楽のことならおよそ何でもできるし知っている万能系才女だが、主に何を教えてるって小論文だったのだ。

や、やることが多すぎる…。

英語、現代文、古文、漢文、倫理(センター)。楽典、聴音、視唱、ピアノ(芸大音楽学部共通)。和声、小論文(楽理科)。何も始める前から気が遠くなりそうだったが、とりあえずできることから始めるしかない。自分が仕事の合間、時間ができたときに…とか思っていると永遠にやらないダメ人間でことは分かっていたので、「勉強の日」を定めることにした。それを週1回確実に設けるために思いついたのが、およそ20年ぶりにピアノを習うこと。そこでまたまた、私は呼ばれてしまうのだった!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?