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2019J1第1節 G大阪vs横浜M @吹田

待ちに待った開幕。2019シーズンの船出である。
ここ数年とは違い、今年は期待に満ち溢れていた。なぜなら、極めて良い戦力補強ができた、という印象が強く、2年目を迎えるボスのサッカーに期待できる部分が大きいからだ。

スタメンは下図の通り。

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マリノスは今季も4-3-3。キャンプから続く熾烈なポジション争いを勝ち抜いた11名だ。昨季開幕戦にスタメン出場していたのは天野、喜田、飯倉の3名のみ。DFラインは全員が昨夏以降に加入した選手ということになる。
対するガンバはお馴染みの4-4-2。新加入の韓国代表DFキムヨングォンは、アジア屈指の実力者であり、高い守備力に加えて左足のパスが持ち味。ただ、目立った補強はこれだけだろうか。昨季終盤の快進撃にプラスαを加えて今季は優勝争いに食い込みたい。チームの目標、位置付けはこんなところだろう。キーマンとして大車輪の活躍を見せた今野はベンチに。

【ガンバの守備とマリノスのビルドアップ】
下図は、マリノスのボール保持時の陣形である。

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記憶に新しい昨年10月のガンバ戦、前半5-4-1で自陣深くにブロックを組んで撤退守備を敢行するガンバに対し、理想的なポゼッションで先制するも、後半4-4-2でハイプレスを掛けられ、突如劣勢に。結果的に逆転を許して敗戦を喫した試合だった。
この試合も、ガンバは前回の成功例を踏襲し、ハイプレスを掛けてくる、と思っていた。
しかし、実際には前線から数的同数を作り出してボールを奪いにくるようなことはせず、2トップの守備は気まぐれに近く、CBのチアゴと畠中は自由にボールを保持することができた。前半のガンバのここの狙いはわからない。アンカー喜田へのパスコースを遮断するわけでもなく、CBにプレスを掛けるわけでもない。
一方、SHはマリノスのSBに、2ボランチはマリノスのIHを見るような形を取ってきた。ガンバの守備の狙いとしては、守備力に優れるSHをSBに当て、ボールの取り所とする、といったところだろうか。いずれにしても、2トップにもう少し守備のタスクを与えるべきなのではないかと感じた。

対するマリノス。すっかりお馴染みとなった偽SBは今季も継続。あまりにも特殊な形であるため、新加入選手が挙ってフィットに苦労しているとの報道、レポートがあり、開幕戦の不安材料となっていた。しかし、蓋を開けてみれば昨季の松原、山中と遜色ない、むしろより高いレベルでタスクをこなす広瀬と高野の姿が。特に広瀬は、より洗練されていてポジショニングも申し分ない。57分の決定機のシーン(天野→エジガルとボールが渡ったが東口にセーブされた)、敵陣中央でボールを受け、ハーフスペースでフリーとなっていた天野に出した浮き玉パスは、確かなビジョンと技術を示すものだった。また、新加入にも関わらず、同サイドの仲川、三好と完璧なローテーション、ポジショニングで攻撃を活性化させた。
前半に多かったのは、ボール保持時に三好と広瀬がポジションチェンジをするシーン。これにより、単独で1人剥がせる三好が攻撃のスイッチを入れる一つのパターンが出来た。今まで天野にしか出来なかった芸当ができる選手がもう1人増えたのだ。こうした局面で、本来三好がいたポジションにしっかりと顔を出す広瀬。徳島で偽SBをやっていた経験があったということで、多少慣れている部分もあるのだろうが、新しいチームで、初めてのカテゴリーの試合で、自信を持ってプレーすることができていた。

【エジガルがもたらす新たな崩しのパターン】
近年のマリノスを他チームと比較した時に圧倒的に不足していると感じていたもの。それは、中央からの崩しである。そもそも僕がこの集合体としてではなく、組織としてサッカーを見るきっかけとなった理由はいくつかあるのだが、ミシャが率いていた浦和レッズの、中央をダイレクトパスで綺麗に崩してゴールを奪う形に憧れと羨望を抱いたことが大きい。本来、ゴールを取るために一番近道である中央を狙うのは当たり前のはずなのだが、マリノスは今までここを使って点を取ることを頑なにしなかった。不可欠なのは、ただ単に得点能力が高いだけでなく、バイタルエリアで味方とリンクして仕事ができるCFの存在である。近年のマリノスのCFには、相手が最も手厚く守ってくるこのエリアで仕事をするスキルと戦術眼を持ったCFがいなかった。
しかし、エジガルジュニオはそうではなかった。比較的小柄ながらも、相手を背負える強さ、スキルがあり、必要に応じてハーフスペースに顔を出してボールを受けたり、DFとの駆け引きから裏に抜ける戦術的なクレバーさも兼ね備えている。
象徴的なシーンが前半19分の決定機。天野が降りてCB三浦を食いつかせ、空いたスペースに畠中がスルーパス、エジガルが走り込んでキーパーと1vs1になったシーン。パスを出した畠中も素晴らしかったが、チームの狙いを理解し、それを体現する動きのできるCFであると分かった。今後時間の経過とともに、より周囲との連携が向上し、さらに相手に脅威を与える存在となることだろう。

【ガンバのカウンター】
ガンバの狙いは、高い位置を取るマリノスのSBの裏のスペースである。ここにファンウィジョやアデミウソンを走りこませ、カウンターを仕掛ける。2トップに守備をさせなかった理由があるとしたら、ここにある。つまり、カウンターに専念させること。現にマリノスのボール保持時は、ハーフウェーライン付近で2vs2の数的同数の状態と質の高い2トップが仕事をするには十分なスペースが生じる。前半に多かったカウンターのシーンでは、マリノスのSB、アンカーからSHがボールを奪い、素早くサイドのスペースに展開してシュートまで持ち込む、というものがほとんどであり、それなりに脅威を与えるものだった。
これを招いたマリノスの課題。昨季よりもうんと回数は減ったが、中に絞るSBとアンカーのところに強くプレスを掛けられるとボールを簡単に失ってしまう。先制点のシーンは、喜田が少しボールの出しどころに迷い、もたついたところにプレスを掛けられ、ボールを無理に下げざるを得なかったところに起因する。まだ連携を深める余地のある左サイドで、高野がボールを失うシーンも散見。開幕戦でやや浮き足立っていたという部分は差し引くべきだとは思うが、距離間近くサポートをするなど、今後に改善の余地を残す。

【機能したマリノスのハイプレス】
前半あれほどボールを握り倒すことができたのは、ハイプレスによってボールを奪い返すことができていたからである。印象論にはなってしまうが、昨季以上にハイプレスの精度が上がったと感じた。プレッシングのスイッチを入れる役割を担っていた大津祐樹がベンチスタートにも関わらず。この要因として考えられるのは、エジガルとマルコスのブラジリアンコンビの守備意識の高さではないだろうか。前者については、後述する。マルコスは、単に目の前にいる選手にプレスを掛けるだけではなく、自分の背後にいる相手選手に対しても、しっかりとプレスバックをし、ボールを奪うことのできる選手である。後半、さすがに頑張りすぎたのか、足を攣って交代を余儀なくされたが、チームのために走ることができるファイティングスピリットを持った選手であることは十分に伝わる試合だった。

【オフサイド"11"の真相】
この試合のスタッツで特筆すべきは、シュート数だけではない。両チームのオフサイドの数である。ガンバがオフサイドに引っかかった回数は11回を数え、これは非常に多い数字である。試合を見ていて、ガンバの攻撃がどのように終わっているか、思案を巡らせてみると、オフサイドを取られて攻撃を終えるシーンがかなり多かったことがわかる。これこそがマリノスのプレッシングが効いていた証左だと思われる。自陣に押し込められ、中盤の選手がフリーでボールを持つことができない。よって、前線の選手と十分に意思疎通を図ることができず、タイミングが合わない。だからオフサイドに掛かってしまう。
畠中、チアゴのライン統率も素晴らしいものではあったが、それだけではオフサイドを取ることはできない。前線の選手のプレッシングがあったからこそのオフサイドである。

【進化したブロック守備】
いくら良いポゼッションをして、いくら良いプレスを掛けていたとしても、永遠に敵陣に押し込み、ボールを握ることはできない。必ず撤退守備は整備されていなければならない。この試合では、よく整備されたマリノスのブロック守備を見ることが出来た。
自陣に引いた際の陣形は4-1-4-1である。スタートポジションの4-3-3から、両ウイングを中盤の位置まで下げるだけであり、この陣形は作りやすい。
ちなみに、ヨーロッパの強豪チームでもこの陣形を採用するクラブは多い(ローマやシティなど)。この陣形の優れたところは、最低限の約束事で柔軟かつスムーズに守備陣形を変えることができる点にあると思っている。仮にIHの片方が前に出てボールを奪いに行った際は、アンカーが一つ前に出て行って4-4-2を形成することができ、また、相手が3バックの場合には、ウイングの2人を前に出し、より圧力を強めることができる。
マリノス版4-1-4-1ブロックのキーマンは、1トップのエジガルとアンカーの喜田である。エジガルは、近年のマリノスのFWにはなかった、パスコース限定が抜群に上手い。これは、この試合最大の驚きと言っても過言ではない。三浦とキムヨングォンの間に立ち、逆サイドへのパスコースを切った上でプレスを掛ける。これだけでガンバが前線へのロングキックを強いられたシーンも数多く存在した。味方も守備の基準点が定めやすく、次のパスコースの予測がしやすい。よって、素早いプレッシングが可能となる。もう1人のキーマンである喜田は、2人のIHの手綱を握り、操っているようにも見えた。この試合では、天野と三好がガンバのボランチ遠藤と高を見るような形であった。遠藤が少し下がり目の位置でボールを持つ場面では、三好がプレスを掛け、空いたスペースを素早く喜田がカバーする。こうした約束事が、確実に実践されていたのは素晴らしかった。
今後、ボール保持に長けた川崎のようなチームを相手に、このブロックの作り方でしっかりと守れるのかどうか、注目だ。

4-1-4-1ブロックの参考資料
↓ ↓ ↓
https://note.mu/gp_02a/n/n59bc691ac6c2
羊さんによるローマのブロック守備を解説した記事

【すぐに直せる課題と直せない課題】
総じてマリノスのやりたいことをやりたいように出来たこの試合。しかし、課題は明確に現れた。
すぐにでも直せる課題は、いくつかある。一つは、チアゴをはじめとするDF陣の連携の部分。試合の内容から言って、2点も取られるのはおかしい。にも関わらず、2点を取られ、終盤は大慌て。優勝争いをするチームはこんなことではいけない。2つとも、チアゴと飯倉の意思疎通が上手くいってなかったことに起因する失点。もう二度とあんな事故やこんな事故を引き起こさないために、次の試合までにしっかり話し合い、連携を深めてほしい。
もう一つは、センタリングの精度について。昨季の得点パターンの中で多かったのは、サイドを突破し、DFとGKとの間に低弾道の速いクロスを入れ、中で合わせる、というものである。この試合でも、相手のDFラインが戻りきっていない状態でサイドの深い位置を取ることに成功する場面がいくつもあった。しかし、そこから焦ってしまい、質の低いクロスに終始してしまう場面が散見された。おそらく、チームの狙い、約束事に一生懸命従おうとした末に生じたミスだと考えられるが、実にもったいなかった。もう少し柔軟にやれるはず。前半13分の決定機(三好のワンタッチのクロスからエジガルのヘッド)でテルがしたように、状況をしっかりと判断した上で最適なプレーを選択するべきだ。

一方、まだ時間のかかりそうな課題もある。先述したアンカーやSBがボールを持った際の味方のサポートもそうだが、昨季に引き続き、試合の進め方に難がある。換言するならば、決めるところはしっかり決めようということ。3得点という結果だけ見れば称賛に値するが、あれだけ相手の組織を破壊し、多くのチャンスを作っていたのであれば、最低でもあと2点は取れたはずだ。常勝軍団になるには、ゴール前での落ち着きやシュートの精度を高めなければならない。ここは改善の余地がある。

【考察】
まずは、開幕戦を勝利で終われたこと。これを祝いたい。不確定要素としてあったものが、かなり良い方向に出ていることは明白で、今後が楽しみになる一戦であったことは間違いない。ポイントは、エジガルの加入で、中央への楔のパスという攻撃のパターンが増えたこと。自陣に引いて守る相手を崩すのはかなり上手いチームになっていると感じた。
しかし、ハイプレスを掛けてくる相手に対して、どのようにボールを動かすのか、という疑問は拭えないまま。ガンバがプレスを掛けてこなかったからである。そこがやや肩透かしを食らったような印象。そう遠くない未来に試される機会はありそうではあるが、開幕戦の舞台で昨季苦手としていたやり方をしてくるチームに勝って成長を実感する、という勝手なシナリオを描いていた身としては残念極まりない。(笑)
次節は仙台戦。昨季はお得意様として降格回避の一役を担っていただいたが、さすがに今回はきっちり対策してくることが予想され、あのような試合にはならないはず。選手にとっても良いイメージが先行している分、逆にやり辛さがあるだろうし、難しい試合になると思われる。開幕戦の勝利に浮かれることなく、しっかりと準備をしてほしい。
まだ34分の1。シーズンは始まったばかり。船出としてはベストに近いが、ここからどのようなシーズンになるのか。

毎週寿命をすり減らす日々が戻ってきた。

2/23(土)15:00 J1第1節 G大阪2-3横浜M


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