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2019J1第31節 横浜Mvs札幌@三ツ沢

今季最後の三ツ沢決戦である。

前節は鳥栖を相手に前半に2点先行し、後半は鳥栖のハイプレスに苦しみながらも勝ち点3を得たマリノス。

今節の相手は札幌だ。

記憶に新しいのがルヴァン杯決勝での川崎との激闘。PK戦の末に惜しくも敗れてしまったが、リーグ王者川崎を相手に一歩も引かない戦いぶりには感服させられた。

ちなみに今季の札幌とのリーグ戦のファーストマッチは散々たる結果に終わっている。忘れたい記憶すぎてもはやスコアが少しあやふやである。

”90分を通じてほとんど何もできなかった”4月の試合から7ヶ月が経った。この試合はまさしくリベンジマッチなのだ。



スタメンはこちら。マリノスの最大のトピックは仲川輝人の復帰。前節の鳥栖戦ではベンチ入りしたが、大事をとって出場させていなかった。十分に休養を与えての復帰となった。その他のメンバーは変更なし。

札幌は、上図では3-4-2-1として表記しているが、局面ごとに陣形を変えて戦ってきた。詳細は後述するが、基本フォーメーションは4-4-2が軸となっていた。



【マリノスのボール保持に対する札幌の守備】


マリノスのボール保持に対し札幌は、局面に応じて陣形を変化させることによって対応しようとしてきた。特に、マリノスのビルドアップに対するハイプレスには札幌の狙いが見てとれた。

試合序盤に採用していたのが下図の形でのハイプレスである。



システムに表すと、4-3-3が正しいだろうか。最前線が右からルーカス・フェルナンデス、鈴木武蔵、ジェイ。中盤は深井がアンカーの位置、荒野とチャナティップがIHを務め、マリノスの正三角形型の中盤に対して噛み合う形にする。

特筆すべきはチャナティップが中に絞って喜田に付いていることだ。畠中やティーラトンがいる左サイドでボールを保持することが多いマリノスに対し、あえて右SBの松原を捨ててマリノスの左サイドに人数をかけることによってマリノスのビルドアップを阻害しようとしてきたのだ。

その副産物として、アシンメトリー(左右非対称)の変則的な4-3-3の陣形になっていたと捉えるのが妥当である。かのペップ・グアルディオラの名言「フォーメーションは電話番号にすぎない」とはこのことを指して言っているのだろう。

また、札幌のハイプレスの大きな特徴として、DFラインの高さが挙げられた。マリノスにはお馴染みのハイラインである。DFラインを高く設定することで、相手陣内にスペースを与えず、より大きな圧力をかけることができるのだ。


この変則的な陣形でのハイプレス対してマリノスは、札幌が捨ててきた松原を使うことで打開を図った。その象徴的なシーンが、2点目のエリキのゴールにつながった場面。畠中がボールを持った際に、フリーの松原が素早くハーフスペースに進入し、ボールを受け、すかさず裏抜けする仲川に向けてスルーパスを出した。


また、DFラインを高く設定することによって中盤とDFのライン間のスペースを圧縮してきた札幌に対する攻撃のアプローチとして多用していたのが、DFライン裏へのロングボールであった。

裏に広大なスペースが用意されている状況は、”ハマの爆速3トップ”にとって格好のフィールドだった。

札幌のハイプレスに苦しみ、スムーズに前進できない場面もたしかにあったが、うまく剥がしてDFラインの裏にボールを送り込み、幾多の決定機を生み出した。



【札幌のボール保持】


ボール保持を基調とした攻撃的なサッカーを展開する札幌は、非常に特徴的な陣形でボールを保持する。いわゆるミシャ式と言われるものだ。



上図のように、ボール保持時は4-1-5あるいは4-2-4のような陣形になる。最前線を4,5枚と人数をかけて攻撃するのがミシャサッカー最大の特徴だ。

DFラインでは相手のプレスに対して数的優位を作ることでボール保持を安定させ、スピードやアジリティを活かして相手を剥がすことができるチャナティップがボールを運ぶ。また、崩しの局面では、突破力に優れるウイングバックが積極的にドリブル突破を仕掛け、サイドからのクロスをジェイや鈴木武蔵が合わせて点を取る。

このように点の取り方がしっかりと設計・デザインされたチームなのだ。

この試合でも、ゴール前に人数をかけて攻めてくる札幌の攻撃にかなり多くのチャンスを作られていた。シュート14本(うち枠内シュート9本)という数字はその証左である。


【札幌のハイプレス(後半)】


正確には前半途中からであるが、札幌はプレッシングの形を変化させてきた。



上図の通り、オールコートマンツーマンでのプレスを敢行してきた。基本的にはキム・ミンテがマルコス番を務めるケースが多かったのだが、しばしばCBのうちどちらがマルコスに付くのかが曖昧になっているシーンが見受けられた。すると、61分にキム・ミンテを下げてボランチの宮澤裕樹を投入し、マルコスのマークを務めさせることで、役割を明確にした。

そもそもサッカーのセオリーとして、守備をする際には、相手のアタッカーよりも必ず多い人数で守るべき、というものがあるのだが、札幌はあえてこれに反する手段を採用してきた。

この点、ミシャはつい最近のインタビューでこのようなことを言っている。

ズバリ「同数で守ることを恐れるな。

思い返してみると、前節の鳥栖は、後半に最終ラインを数的同数にする形でマリノスのビルドアップを封殺してきた。マリノスは、数的優位を作れないことでボール保持が安定せず、何度か高い位置でボールを奪われるシーンが目立った。

今回札幌が用いてきた手法は、鳥栖のやり方を参考にしたのか、それともミシャの頭の中にあったものなのか。(個人的には後者だと思っている。)

次項では、これをうまく剥がしたシーンを取り上げてみたいと思う。



【オールコートマンツーの剥がし方】


※55分


札幌のオールコーツマンツーでのプレスを剥がしきってチャンスにつなげた。自陣深くでボールを持ったチアゴが松原とのワンツーから突破し、最終的に仲川のグラウンダーのクロスからマテウスがシュートしたがジャストミートせずDFにクリアされたシーン。

注目すべきは、チアゴの動きだ。

相手のプレスに苦しむ時間帯に時折見せるチアゴのインナーラップは、毎度のことながら有効打となっている。「チアゴ、動きます。」と言わんばかりに、時にムーブメントを起こしてくれるのだ。

チアゴが出て行ったスペースをいち早く埋める喜田の動きも実に素晴らしい。


そもそも、なぜマンツーマンプレスに対してCBのインナーラップが有効なのだろうか。


それは、CBにマンツーマンで付くのは基本的にはFWの選手であり、比較的守備に対する意識が低いことから、自分がマークする相手についていけないからである。

故に、チアゴの走力を活かしたインナーラップは、マリノスが保有する大きな武器となるのだ。

しかし、奪われた際のリスクが大きいのが難点であり、そもそも1試合のうちに何度もできるものではない。そのため、この手法はあくまでも最終兵器として持っておくのが合理的だ。



今後このようにリスクをかけてプレッシングを敢行してくる相手に対してどのようにボールを運ぶのか、という点は突き詰めなければならない。

例えば、相手がどんなに人を捕まえにきても朴一圭は必ず浮く。GKを使って相手を引きつけたところから空いた別の選手を使うなど、さながらスライドパズルのように相手をずらしてフリーマン、スペースを生み出すことが必要だ。


特に、足が止まる後半にどのような方法でボールを前進させるのか、については早急に答えを出したいところである。



【考察・感想】


J屈指の知将同士が織りなす戦術的な攻防は非常に見応えがあり、第三者的視点で見ても非常に面白い試合だったことは間違いないだろう。あらゆるリスクを加味した上で強気のハイプレス、強気のハイラインを敷いてきた札幌には、尊敬の念を抱かざるを得ない。

アンジェとミシャ。来季もこの2人の頭脳戦が見られると思うと楽しみである。



しかし、マリノスはそんな悠長なことを言っていられない。

残り3試合。泣いても笑っても残り3試合なのだ。

ここまで来たら優勝するしかない。

しかし、先を見すぎてはいけない。

これまで同様、目の前の1試合に集中すること。

幸運なことに、今回の札幌戦の勝利によって自力優勝の芽が復活した。

これが意味することは何か。

それは、目の前の試合、目の前の相手に対して勝っていけば、そのまま優勝できるということだ。

こんなにわかりやすい状況は他にない。

今まで同様。1試合ずつ。その積み重ねだ。






11/9(土)14:00 J1第31節 横浜4-2札幌

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