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【どこまでマスカット?】Monthly Review 2021 Vol.5【無類の強さ】

あんなに遠くにいた宿敵の背中が見えてきた。

気づけば首位と4pts差。トリコロールの快進撃は、最も過酷な8月の連戦さえも止まらない。

ただでさえ、今季は例年以上に過酷な8月だった。それを乗りきった。


さあ、そんな1か月を存分に振り返っていこうではないか。


【対象試合】

▼試合数:7試合
▼成績:5勝1敗1分け 21得点7失点


vsG大阪(Away) 3-2(Win)


vs清水(Away) 2-2(Draw)


vs名古屋(Home) 2-0(Win)


vs大分(Home) 5-1(Win)


vs仙台(Home) 5-0(Win)


vs鳥栖(Away) 4-0(Win)


vs鹿島(Home) 0-2(Lose)


7試合で21得点、なんと1試合平均3得点を叩き出したトリコロール。

これは記録的な数字だ。


【殺人的な連戦で見えたもの】

何度も繰り返すが、この8月はまさに「殺人的な」連戦だった。

7月がTOKYO2020による中断であったとはいえ、8月に入っていきなり中2日の4連戦、その後1週間弱が明けて中3日→中2日の3連戦。

8月下旬の選手たちからは、明らかに疲労の色が見て取れた。そのなかでも結果を出し続けてきたこと、これは、この上ない称賛に値する。

傍から見ている我々はつい忘れがちだが、4週間で7試合を戦い抜いているということはもっと重く受け止めるべきだ。
8月の振り返りをするならば、殺人的連戦という背景・エクスキューズは常に念頭に置く必要がある。

さて、この過密日程のなかでもマリノスが勝ち星を拾い続けたのには要因がある。

それは、マリノスのサッカーの最大の特徴である、"強度"を高いレベルで保つことができたからだ。マリノスのサッカーから強度を抜いたら何も残らないと言っても差し支えないだろう。

そしてその強度は、プレースピードと密接に関係している。走るスピード、パススピード、そして最も大事なのが思考判断のスピードだ。

ハイテンポで展開されるマリノスのサッカー、その目まぐるしい攻守の切り替えの中で頭をフル回転させながらプレーすることは、かなりの負荷がかかる。他チームよりもその部分が強く求められるのだ。

そのなかでも連戦を乗りきれた理由として、大きく3つがあげられる。

①ターンオーバー
(とりわけサイドバック、ウイング、ボランチについては、ほぼ毎試合メンバーが変わっていた)

②早めの交代策
(毎試合55~60分になると、必ずウイングを交代させていた)

③競った試合が少なかった
(大分戦、仙台戦については、後半飲水タイム時点で試合は決まっていた)

あえて負荷を調整していた側面と、偶発的に休むことができた側面とがあり、どちらも強度の維持に大きく影響を与えたものである。


【どこまでマスカット?】

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8月初戦のガンバ戦の前日、ケヴィンマスカット新監督がチームに合流した。そこから休む間もなく試合をこなす日々が始まった。

そこで気になるのが、マスカットは今のチームにどんな影響を与えているのか、ということ。

今のマリノスはマスカット仕様のチームなのだろうか。もちろん、チームは切れ間なく連続しているため、明確な棲み分けなどできないのだが。

このあたりについて、見える範囲の憶測ではあるが述べていきたい。


ケヴィンマスカット体制のマリノス、これについて考えるうえで、1人重要な登場人物がいる。

ジョン・ハッチンソンだ。

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彼は、2021シーズンからマリノスに加わったヘッドコーチである。

スタジアムで試合を見ている際に、ふとベンチに目をやると、ケヴィンとジョンが密にコミュニケーションを取っている様子がしばしば見受けられる。

時には、5分ほど戦術ボードを使って大激論を繰り広げている光景も目にする。

ここから見えてくるケヴィン体制のマリノスの姿。

それは、二頭体制である。

ケヴィンとジョンが話し合って物事を決める。そして、決定事項をケヴィンが監督として選手に伝える。いわば、分業制である。

そして二人の間にある判断軸は何か、それは、アンジェが築いてきたマリノスのサッカーだ。

ケヴィンは就任前、当然アンジェマリノスの試合を見ているはずで、ある程度マリノスのサッカーのイメージを膨らますことができているのだろう。そしてそこで感じたことやディテールの部分について、前任者のもとでヘッドコーチを務めてきたジョンに確認・相談を行なっているのではないだろうか?

つまり、いまケヴィンとジョンがやっていることは、アンジェのサッカーの踏襲・再定義である。アンジェが築いてきたサッカーを、彼らなりに解釈してマネジメントしている。この手法は、アンジェが築いたマリノスの財産を潰すことなく、より洗練させるものである。

もちろん、監督・コーチ陣だけの力ではない。選手個々にアンジェの志向性が根付いているのだ。

例えばホーム大分戦の立ち上がり、相手のプレッシングを前にビルドアップに詰まったことがあった。しかし、ピッチ上で解決策を見出し即座に対応してみせた。

ケヴィンとジョンだけでなく、選手にもアンジェのサッカーが根付いていて、それを応用して課題を解決することができる。ここに今のマリノスの強さがある。


では、本題に戻る。

ケヴィンが今のマリノスにおいてどんな影響を与えているのか。

それは、選手起用とアンジェのサッカーの再定義の面である。つまり、ケヴィンマスカットが持っている戦術を植え付けるようなことはしていない。

以前にケヴィンマスカットが指揮するメルボルンビクトリーの試合を見て記事を書いたのだが、そこで私が抱いたケヴィンの印象について記述を引用する。

「ケヴィンマスカットの特徴としては、持てるスカッドや時代によってニュアンスを変えられる監督であるということ。」

スカッドやその時のチーム状況によってニュアンスを変えられる人、それが2021年8月現在で私が持っているケヴィンの印象である。

つまり、自分が指揮するチームが元々持っている特徴・強みを活かすことも、彼なりの色の出し方なのだ。


今後は概ね週1試合のペースで進んでいくことになる。しっかりとした休養と前の試合の振り返り、そして次の試合に向けた準備というサイクルを作りながら闘っていくことになる。

おそらく、8月とは違うケヴィンマスカットの姿が見えてくることだろう。

自分が明文化してまで打ち立てた仮説が崩れ去っていくのかどうか、今から楽しみで仕方ない。


兎にも角にも栄冠がちらつく時期に入ってきた。

先を見据えすぎることなく、目の前の1試合を全力で戦い続ける。

最高の場所は、その積み重ねの先にあるのだ。






写真提供:ゆかさん





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